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turning point
予期せぬ来訪者
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ニューヨークの喧噪がショーティを、周囲を覆っていた。
重力が心地よいほどに、地に足がつくとの言葉を思い起こさせ、戻って来たのだと改めて自覚する。
そこにデバイスが通信を知らせる。ここは地元ニューヨーク、様々な情報が溢れかえる場所だ。なのでショーティは相手の確認もせず、その呼び出しを開放してしまう。途端。
「ショーティ!」
答えるよりも早く、キン、と耳に響く声が仲間や友人たちよりも幾分幼いことを知らせ、一瞬の思考停止からすぐに復活すると、
「……氏名を」
通話の相手先を開いた。そこには隠す必要もないのだろう。
“キャサリン・マクリラール”の文字。
それは以前、交通事故にあったショーティを助けてくれた少女の名だった。
お礼に行った昨年の秋からこちら、時折連絡を寄越しては近況報告を受けていた少女。恩ある存在で、さらに言うなればマクリラールはニューヨークでも有名な不動産会社でもある。この繋がりは大切にしておいた方がいい。そのためにも程よい距離感で付き合っていたのだが、ここにきての大音声。
「私よ!キャサリン・マクリラール」
わかっている…が。
「今、どこにいるの?何をしているの?あの人なんなの!?」
ものすごい勢いで畳みかけられるショーティだが、そんなことは自分が聞きたいと内心思う。けれどもどれを口にするのは得策ではない。
「キャサリン。僕はね。長期出張から今戻ってきたばかりなんだ。悪いね」
知らない、とも疲れている、とも取れる断り文句で通信を切断した。
そして今、ショーティの目の前には一人の少女が立ちはだかっていた。
ここはショーティとアーネスト、二人が住むコンドミニアムの前だ。
ここにアーネストがいないことはわかっていたが、今はショーティの部屋でもあるため戻るのは当たり前で、けれども1週間ここで大人しくしているかは別の話だった。……なのに。
波打つ金髪に大きな青い瞳。少しだけ頬が赤いのは蒸気しているからなのか。
後ろにはボディガードの男が二人。
確かまだ12歳という少女キャサリン・マクリラールの仁王立ちに、ショーティはやや呆れたようにその姿を凝視した。
娘に甘すぎるでしょ、と親に向けた小さな悪態は口に出さない。
「なんでここに?」
「だって!二人とも連絡つかないし、ショーティはなんか地球にいないっぽいし、アーネストのあんな記事出るし、私、すっっっっごく心配してたんだから」
「あれは良くあるゴシップ記事の一つだよ」
「ほんとぉぉぉぉにそう思う?ゴシップだって言える?まったく関係ないってはっきり言えるの?」
「……」
言えると断言できないところが痛いショーティである。
あの通話からショーティが家に戻る予定だと知ったキャサリンは、なんと家の前で待ち伏せたのだ。
もともとジョージア州に住む彼女だが、ここ1年ほどは父親の住むニューヨークをよく訪れているらしく、アーネストのあの記事を目にして、早々にニューヨークにやって来たと言うのだ。アーネストに連絡をしても繋がらず、ショーティに連絡をしても繋がらず、本日ようやく捕まえた次第だという。
「ほら!言えないでしょ?ショーティが地球にいない間にこんなことになるのよ!? 大事な人だって言いながらこんな仕打ち!私、アーネストのこと調べたの。昔からいろんな人と写真出てたわよ!中にはショーティと良く似た人と…パリで楽しそうに笑ってたりとか」
「ああ……」
それは僕だ、とショーティは口の中だけで告げる。
キャサリンがアーネストを調べたのは、純粋に興味なのか、それとも…と少し考えるが、
「いったん、落ち着こうか」と言い諭す。
「なんでショーティは落ち着いていられるの!」
叫ぶキャサリンであるが、実のところ彼女はショーティをとても気に入っていた。車にはねられ治療を受けている最中のその静かな姿に、『綺麗…』と感嘆したのだ。
しかし、その後迎えに来たアーネストにも同じ印象を持った。
触れてみたい綺麗と触れられない綺麗…。
二人が揃って立つことに憧れと畏敬を抱えている12歳の少女だ。
なのに、そのアーネストがショーティ以外のそれも女性とあんな表情で記事になるなど、許せることではない。
だったら、いっそ本当にショーティを貰い受けて…。
「キャサリンが騒いでいるから、落ち着いていられるんだって」
小さな困惑とともにやや穏やかに告げると、キャサリンはふと我に返ったように、
「…!…ごめんなさい」と、頭を下げる。
項垂れる少女を放置するわけにも行かず、そもそも恩人なのだから、とショーティはやや疲れた表情を隠し、軽く笑みを浮かべた。
「……だったらランチ、ごちそうしてくれる?」
「うん!もちろん。ショーティ何食べたい?」
途端、キャサリンは顔を上げて満面の笑みを浮かべる。
「任せるよ。とにかく何か食べたい」
ランチの内容など考えることが億劫だった。何しろショーティは火星から戻ってきたばかりなのだ。
本来ならあと1ヶ月火星に滞在する予定だった。が、仕事が終わったのをいいことに、軍の昔なじみを捕まえて無理やり一人分のスペースを開けて貰い2週間のフライト。月に着いたら着いたで突然のアーネストのゴシップ記事。月からニューヨークに降り立つまでほぼ12時間弱、神経をすり減らし、届いたメールは1週間待って欲しい。留めに少女の強襲。
いつもならば対応できるはずだった……。けれど、ショーティは思いのほか疲弊していたのだ。
メールの返信を忘れるほどに……。
重力が心地よいほどに、地に足がつくとの言葉を思い起こさせ、戻って来たのだと改めて自覚する。
そこにデバイスが通信を知らせる。ここは地元ニューヨーク、様々な情報が溢れかえる場所だ。なのでショーティは相手の確認もせず、その呼び出しを開放してしまう。途端。
「ショーティ!」
答えるよりも早く、キン、と耳に響く声が仲間や友人たちよりも幾分幼いことを知らせ、一瞬の思考停止からすぐに復活すると、
「……氏名を」
通話の相手先を開いた。そこには隠す必要もないのだろう。
“キャサリン・マクリラール”の文字。
それは以前、交通事故にあったショーティを助けてくれた少女の名だった。
お礼に行った昨年の秋からこちら、時折連絡を寄越しては近況報告を受けていた少女。恩ある存在で、さらに言うなればマクリラールはニューヨークでも有名な不動産会社でもある。この繋がりは大切にしておいた方がいい。そのためにも程よい距離感で付き合っていたのだが、ここにきての大音声。
「私よ!キャサリン・マクリラール」
わかっている…が。
「今、どこにいるの?何をしているの?あの人なんなの!?」
ものすごい勢いで畳みかけられるショーティだが、そんなことは自分が聞きたいと内心思う。けれどもどれを口にするのは得策ではない。
「キャサリン。僕はね。長期出張から今戻ってきたばかりなんだ。悪いね」
知らない、とも疲れている、とも取れる断り文句で通信を切断した。
そして今、ショーティの目の前には一人の少女が立ちはだかっていた。
ここはショーティとアーネスト、二人が住むコンドミニアムの前だ。
ここにアーネストがいないことはわかっていたが、今はショーティの部屋でもあるため戻るのは当たり前で、けれども1週間ここで大人しくしているかは別の話だった。……なのに。
波打つ金髪に大きな青い瞳。少しだけ頬が赤いのは蒸気しているからなのか。
後ろにはボディガードの男が二人。
確かまだ12歳という少女キャサリン・マクリラールの仁王立ちに、ショーティはやや呆れたようにその姿を凝視した。
娘に甘すぎるでしょ、と親に向けた小さな悪態は口に出さない。
「なんでここに?」
「だって!二人とも連絡つかないし、ショーティはなんか地球にいないっぽいし、アーネストのあんな記事出るし、私、すっっっっごく心配してたんだから」
「あれは良くあるゴシップ記事の一つだよ」
「ほんとぉぉぉぉにそう思う?ゴシップだって言える?まったく関係ないってはっきり言えるの?」
「……」
言えると断言できないところが痛いショーティである。
あの通話からショーティが家に戻る予定だと知ったキャサリンは、なんと家の前で待ち伏せたのだ。
もともとジョージア州に住む彼女だが、ここ1年ほどは父親の住むニューヨークをよく訪れているらしく、アーネストのあの記事を目にして、早々にニューヨークにやって来たと言うのだ。アーネストに連絡をしても繋がらず、ショーティに連絡をしても繋がらず、本日ようやく捕まえた次第だという。
「ほら!言えないでしょ?ショーティが地球にいない間にこんなことになるのよ!? 大事な人だって言いながらこんな仕打ち!私、アーネストのこと調べたの。昔からいろんな人と写真出てたわよ!中にはショーティと良く似た人と…パリで楽しそうに笑ってたりとか」
「ああ……」
それは僕だ、とショーティは口の中だけで告げる。
キャサリンがアーネストを調べたのは、純粋に興味なのか、それとも…と少し考えるが、
「いったん、落ち着こうか」と言い諭す。
「なんでショーティは落ち着いていられるの!」
叫ぶキャサリンであるが、実のところ彼女はショーティをとても気に入っていた。車にはねられ治療を受けている最中のその静かな姿に、『綺麗…』と感嘆したのだ。
しかし、その後迎えに来たアーネストにも同じ印象を持った。
触れてみたい綺麗と触れられない綺麗…。
二人が揃って立つことに憧れと畏敬を抱えている12歳の少女だ。
なのに、そのアーネストがショーティ以外のそれも女性とあんな表情で記事になるなど、許せることではない。
だったら、いっそ本当にショーティを貰い受けて…。
「キャサリンが騒いでいるから、落ち着いていられるんだって」
小さな困惑とともにやや穏やかに告げると、キャサリンはふと我に返ったように、
「…!…ごめんなさい」と、頭を下げる。
項垂れる少女を放置するわけにも行かず、そもそも恩人なのだから、とショーティはやや疲れた表情を隠し、軽く笑みを浮かべた。
「……だったらランチ、ごちそうしてくれる?」
「うん!もちろん。ショーティ何食べたい?」
途端、キャサリンは顔を上げて満面の笑みを浮かべる。
「任せるよ。とにかく何か食べたい」
ランチの内容など考えることが億劫だった。何しろショーティは火星から戻ってきたばかりなのだ。
本来ならあと1ヶ月火星に滞在する予定だった。が、仕事が終わったのをいいことに、軍の昔なじみを捕まえて無理やり一人分のスペースを開けて貰い2週間のフライト。月に着いたら着いたで突然のアーネストのゴシップ記事。月からニューヨークに降り立つまでほぼ12時間弱、神経をすり減らし、届いたメールは1週間待って欲しい。留めに少女の強襲。
いつもならば対応できるはずだった……。けれど、ショーティは思いのほか疲弊していたのだ。
メールの返信を忘れるほどに……。
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