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turning point

☆ケンカの理由 ①

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scene.3

 3日後の夕食後のことだった。

 かなんは夕食で膨れたお腹を満足そうに横たえ、ソファで眠っていた。4本の足がピクリともしない。
 今日はショーティに買い物に付き合わされたから…ね、などとかなんをアーネストはクスクスと笑いながら見ていた。

 その時、キッチンからお湯の沸く音が響いた。そのためアーネストがキッチンへと向かう。……いつ頃からだろうか、食事はショーティが作り、2人で後片付けをした後にアーネストがお茶を淹れる。それが自然な流れになっていた。

「久しぶりだな。アーネストのお茶」

 ショーティもそんな時間の楽しみを祝うようにそっとつぶやく。

「そうだね」

 アーネストもカップを取り、ゆっくりと口をつける。
 自然と笑みがもれる。そんな感覚が嬉しい。
 そして思い出したのもこの時だった。

「そう言えば」

 ショーティがん?と顔を上げる。

「ケンカをするとか言ってたね?」

 ………その時、表現するならブチッと何かが切れるもしくは割れる感覚がした。その瞬間の雰囲気の様変わりを何と言ってよいのかアーネストもわからぬ程に。

「……ねぇアーネスト」

 その一言で、これはまずいなとアーネストも悟る。何しろ本物の“お怒り”だ。

 ショーティの場合怒鳴るという行為はストレス発散に近いので受け流せるのだが、静かな口調に怒気をはらんでいる時は、ひと悶着あるということである。しかもまずいことに、こういうものに関してはアーネストは理由がわからなかったのだ。地雷を踏んだらしいが、なぜそこにそれがあったのか、そんな理不尽な理由を探すことに似ていた。

「まったく?心当たりとかない?……本当に見当つかない?自分によーく聞いてみて」

 …………そう言われても当のアーネストには全く覚えがないのである。

 本当に腕力を使ってのケンカをするとは思わないが、自分が問われていることはわかった。

 アーネストがやや俯いた時だった…。不意に胸元を掴まれて上を向かされる。見上げた一瞬の栗色の残像。柔らかなセピア色。目の前に立つショーティの姿に、一瞬、酔いそうになる程の幸福を感じる……。

 けれどそんなアーネストにはかまわず、奪われた口づけはショーティの怒りを表したものだった。貪るようなそれは、飢えた獣のようで、ただ為されるままの口づけをされる。いつものように互いに確かめるような舌の愛撫などなく、ただ一方的に口腔内を蹂躙される感が強い。

「……っ…ショ……」

 あまりの一方的さに息苦しさを感じ、一瞬躱すが、胸元を掴んでいた手が頭を押さえて、逃がさない。いつの間にか押し返すために伸ばした腕もその手首をしっかりとショーティにとられ、抑え込まれる。

 それにアーネストは、ぞくりとした。……少なくとも2人の中にはなかった展開だった。

 何よりショーティの力はすごかった。病み上がりとはいえ、週1~2度は射撃に通っているアーネストである。筋力はある方だ。なのに、抑え込まれ身動きすらできなかった。

 そして、キス…。

 ……けれど今度は柔らかなキス。互いの存在を確認するかのように舌が輪郭をなぞってゆく。
 深く、深く触れてくるキス。

「……ショーティ…」

 静かに唇が離れた時、アーネストの息は上がっていた。けれどそんなアーネストの状態もつぶやきすらも気付かないようにショーティはアーネストの首筋に唇を落とす。頬を撫でる栗色の髪が柔らかな香りを伴って。

「っ……!」

 首筋の口づけはいつしかはだけられたアーネストの胸元を滑り、掴まれていた手首の自由とともにショーティの指先はためらいなくアーネストの核心へと落ちていく。

「シ…待っ…」

 声にしたいが、いきなりの行為に言葉を取られた。引き離したい理性とどうしようもない快楽の本能が責め動き腕に力が入らない。

 不意にショーティがアーネストの唇に触れ合うだけのキスを落とし、ゆっくりとアーネストの瞳をみつめた。

 乱れた自分の息遣いを感じながらアーネストもショーティの瞳をみつめる。…いつもと違う愛らしいだけの印象ではない栗色の瞳。……今日は鋭い牙を持った猛禽類のようだった。またそれが否応なくアーネストの中の理性を食い破ろうとしている。

 そんなアーネストにショーティはクスリと笑う。当然シニカルなものを含んだものだった。

「…いいね。そそられるよアーネスト。こんなに色っぽいの、初めて見る」

 ささやきは耳をかじられるのと同時だった。指先はアーネストを翻弄させたまま止めることはなく。
 呼吸が加速度をつけて荒々しくなっていく…。

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