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ショーティは密かに想う
今を一緒に②
しおりを挟む仕事もアーネストも置いて飛び出してくるなど、ありえない。どんな顔をして帰ればいいのかもわからなかった。
珍しくアルコールは入れてなかった。なのに、気が付くと閉店だからと店を出されて、朝焼けが目にしみる。
長い目で待てばいいのだと思う。けれど、本当に自分が傍にいていいのかとも思う。
ショーティとしては絶対に傍にいたいし、誰にも譲りたくない。
けれど、当事者だ。今さらながらにショーティは自覚する。
復活するには、この全ての環境を1から積み上げるには、一番負担になるのは自分の存在なのではないかとようやく思い至る。
「そこは考えつかなかったなぁ」
結局自分自身のことが一番わからない。自分という存在が絡んでくると現状を把握できない。
だから二人でいたいのに。それを指摘してほしいのに。
「あの女性を見つけ出すべき?」
寝てない頭で堂々巡り。
「いやだなぁ…渡したくないなぁ。独り占めしたいなぁ。監禁しちゃおうかなぁ」
そんなことができるはずもないのに、自由なアーネストが見たいのに、思わずつぶやいてしまう。
≫≫≫≫≫
そんなことを一晩中考えて、今はぼーっと河原の土手に座っていた。少しずつ場所を移動しながら、そう、家に戻る道筋をたどりながらゆっくりとけれど、夕方にはちゃんと帰る、そのつもりでショーティは時間を潰す。
朝露に濡れていた芝も今はすっかり渇いて、雑草の類が風に揺れていた。
「誰か……傍に……」
居てくれないかなぁ、と珍しく弱気な発言を口に乗せようとして————やめる。
誰か、じゃだめなのだ。もうそんなことは十分わかっているのだ。
アーネストしか欲しくない……。
「ショーティ!」
それは不意に突然に、訪れた。
ふわりと背中から肩越しに抱き寄せられた腕の感触。頬に触れる金茶の髪。その息遣い。ショーティの名を呼ぶ声。響き。イントネーション。存在そのものをぎゅっと掴まれた衝撃は、一瞬言葉を詰まらせて。
「………アーネスト……」
名を呼んだ瞬間に、アーネストが彼らしくほほ笑む。
昨日の今日で、彼らしく答える。
堂々巡りの末、訳の分からない昔語りで忘れていたような嫉妬心さえ思い出して。
なのに、
「君を迎えに」
などと言う!
アーネストの復活は突然だということをすっかり忘れていた。
いったい何がどうなってここにいるのかなどショーティには理解できない。けれど、迎えに来た。
以前の彼らしい笑みで、ショーティの欲情を簡単に攫って行く。
ずるいなぁ、とはもう何度思ったかしれないショーティの降参にも似た表現だ。
多分ずっと勝てやしないんだ、と思いながら小さくため息をついた。
≫≫≫≫≫
本当に、アーネストの復活はいつもショーティの知らないところで起きる。
以前も一度、あれは夏のコテージだった。
社長就任後、体調を崩して雲隠れしたアーネストは、ショーティが探し出すまでほぼ隠遁のような生活をしていた。偶然を装い再会し、難癖をつけてアーネストの傍に居続けたショーティは、突然復活したアーネストに気づいて地団駄を踏んだものだ。
いつもアーネストは自分の限界に気づかず堕ちる。
そのほとんどが母親絡みではあるのだが、復活はいつも突然でショーティには見当もつかない。
実のところ、復活にはショーティが一役を担っているのは間違いないのだが、そこに、尋ねないショーティと聞かれないから話さないアーネストの図式ができあがるのだった。
2113年11月
アーネストが仕事を始めつつあった。状況はどこか柔らかく二人を包んでいる。
そんな時、ショーティは一人の少女との出会いもあった。なぜか犬が……増えた。
そうしてまた…穏やかな時間が過ぎてゆく。
少しだけ中だるみがあることは否めないけれど、これほど充実した日々はあまり知らない。
居心地が良すぎるからなのか、アーネストが優しすぎるからなのか時々怖くなることもある。6年も追いかけた時間の長さなのか、思いの深さなのか…。
実のところ、ショーティにとっては初恋だ。
聞かれないから言わないが、これほどに人を欲したことはない。だからこそ、……怖くなる。
「らしくないなぁ」
叱咤するようにつぶやく言葉はオープンカフェの高い空に消えていった。
秋は終わり、冬を迎える。今年の冬は暖かく過ごしたいと思うし、過ごさせてあげたいと思う。
クリスマスが来る。無宗教のショーティと違い、アーネストはそう言ったことを大切にするタイプだ。彼がそれを望むなら、いくらでも受け入れようと考える。甘やかしてあげたいと切に思う。
そんな時に、通信デバイスが仕事を知らせる音を重々しく響かせた……。
END
ー・ー・ー・ー・ー
seasonsの思い返しみたいに書いてみました。読んでくださりありがとうございます。次は、アーネストがお母さんと相対します。するのかな?がんばります!よろしくお願いします。
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