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そして……

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「ウワン!ワン!!ワンワンワン!」
「るさい…」

 しきりに吠える声がまるで金槌で打ち付けるように脳を揺さぶる。

「キャン!キャン!ゥワン!」
「もう、うるさい!カナン!犬がうるさい!」
「ショーティ」

 耳に滑り込んだ自身の名に、下肢がビクンと震える。
 それから、え?と驚いたように身を起こした。しかし、

「え?」と別の意味で声をこぼす。

 腕と言わず足と言わず力が入らない。
 身体全体で体重を支えきれないのだ。
 わけがわからず周囲を見回すとそこに見慣れた顔があり、さらに、

「え!?」と声を上げる。

「なんで?…あれ?…カナン、は…」
「かなんなら、そこにいるだろう?」

 開け放たれた窓から、ニューヨーク独特の香りを含む早朝の風が吹き寄せる。
 青年の金茶の髪をさらい、同色の瞳がベッドサイドで尾を振る犬に注がれる。

「ちが、それは、カナンが連れて来た犬で、それより、ちょっと待ってよアーネスト!僕、いつの間にここに?や、でも、ちょっと」

 言いながら、自身の声がかなり枯れていることを知り、かあーっと赤面する。
 月の学園で一緒だった彼アーネストとは春先から一緒に住み始めている。
 ショーティにとっては麗しきパートナーだ。
 実のところは学園時代から肉体関係はあった。
 あったがしかし、かれこれ7年ばかりになるが、訳がわからなくなるのは初めてで、

「僕、起きられないんだけど……」

 暗に、どういうこと?と問うてみる。
 もちろん、なぜ起きられないのかはわかる。そんなことを今さら聞きたいわけじゃない。
 聞きたいのは、何があって、こういう事になったのか、である。
 長い付き合いで、それでなくても察しのいい青年アーネストは、楽しそうな笑みをその口元に乗せた。

「笑い事じゃないよアーネスト!立てなくなるほどじゃなくて、記憶がなくなるほど……じゃなくてっ!」

 問題はそこではないのだが、ショーティにとってはそこも重要らしく、やはりアーネストは笑みを抑えられない。

「違うよ、ショーティ」

 そして、アーネストはベッド脇に腰をおろし、その栗色の髪をさらさらと撫でる。

「なくしていた記憶を取り戻したんだ」
「え?」

 意味が解せない、と言う視線を送りつけるショーティに、アーネストは意味深な笑みを目元に浮かべた。

「取り戻そうか?」
「アーネスト?」
「昨夜の記憶も…」

 告げるアーネストの口元がショーティのそれを捕らえる。

「ま、って……っ…」

 押しとどめるショーティの声に力はなく、触れ合う口唇に熱が体内から滲み出す。
 幾度となく果てたはずなのにそれでも欲しくなる自分が浅ましく、それでも、言い出したアーネストが冗談だと言うのではと思い、逃げることもできず口づけを受けていた。しかし。
 触れる口づけが、首筋を伝いシャツを着付けているその肩越しへ移った瞬間、

「や、ほんと、むり。………アーネスト! 煽らないで!!」

 ショーティは叫んでいた。
 これ以上は身体がもたない……。

「アーネスト!!」
「……僕もね……」

 耳元で囁く声が力の入らない身を震わせる。

「君を堪能したいんだ」
「…って……そんなの…いつも……」

 珍しくもあるアーネストの要求に、けれど息を切らしながらも抵抗する。

「うん、今の君とは久しぶりなんだ」

 簡単に身を返され、後ろから抱きしめられ、器用にシャツを脱がされる。
 そのままうなじに、背中に赤い印がついていく。
 アーネストの手はショーティの胸を弄りながら彼を高めていく。

「……っ…」
「名前を呼んで、ショーティ」
「………名前……?あっ!……っ」

 耳元でそう囁きながら、アーネストの指が核心へと絡んでくる。
「アー……ネ…」

 わけがわからずにその名を呼ぼうとするのだが、指が、唇が、声…が、アーネストのその全てでショーティを煽る。

「もっと……呼んで?」

 手の中のショーティは既にたかぶっている。

「あ…、アーネスト!!」

 指先が意味もなくシーツを握りしめると、背がしなる。
 これ以上、進んだら!

「とまら……な……」

 はや、口にのる言葉はなかった……。

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