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記憶

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 開け放たれた窓から吹き寄せるニューヨークの夜の風は、何も纏わない身にしっとりと絡みつく。
 ふわりと揺れる薄色のカーテンがネオンを、騒音を消し去り、ショーティの耳にはただ青年の息遣いだけが響いていた。
 一糸まとわぬその姿が、僅かな光を弾いている。

 内なるものに青年を感じ、自身の息遣いさえも聞こえず、ただ青年の呼ぶ声と重みだけ、背筋からしびれて脳さえも感覚がなくなり、まるで浮遊しているかのような、そんな中で幾度目かの解放を迎える。 
 いつもは優雅な青年の額に浮かぶ汗が、どこかぞくりとするものを感じさせ、感覚が研ぎ澄まされているのだと思う。それでも、やはり惹かれずにはいられないのだろうと思う。

 だから、初めて会った時から…。

 記憶が揺れる。身体の震えに伴い、何かが蘇る。
 けれど思考力が覚束ないために、それ以上は進まない。

「だ……………」
「ショーティ…」

 零れる声は幾度も叫んだために掠れ、告げる言葉も意味をなさない。だが、肩越しに腕を回し、すがりつくようにしていたショーティの腕が、ふわりと緩んだ瞬間。

「もう…あ…ア………ネスト………も…う………」

 消えゆく言葉は、シーツの海に意識と一緒に埋もれ、その頬を一筋の涙が伝った………。



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