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あなたは…?
しおりを挟むscene 3
金色、でもないんだ。
翌日、同じカフェで向かいに座った青年をみつめ、ショーティは心中でつぶやいた。
昨日、射抜かれたような金色を呈していた髪は茶かかったもので、しかし、それさえも彼には似合っており、同姓として少しだけ悔しく思う。
その容姿、佇まいはまさしく欧州の紳士のようで。とはいえまだ若く、やはり20歳前半だろうと思う。
様になるな……。
飲み物を口にするその一挙一動にも、感嘆のため息がこぼれる。
「……それで、と聞いてもいいのかな?」
青年は、しばしの間を置き、口を開いた。
観察の時間をくれたかのようなそのタイミングの良さに、思わず笑みがこぼれそうになる。しかし、笑っている場合ではないのだ、と自分に言い聞かせる。
「……何から話せばいいのか…」
まっすぐに青年をみつめ、意を決したように口を開く。
「えっと、僕のこと、知ってるんだよね?ショーティ、っていうのは僕の本当の名前なわけ?」
「……まず、そう尋ねる謂れから聞きたいものだけれど」
見事な英国英語が表情を崩すことなく淡々とした響きで促す。
それさえも耳に心地よく響き、なぜそう捉えるのかも謎であったが、
「信じるかどうか…」と、言い淀みながらも続ける。
「事故にあったらしくて、その時に打ち所悪くてさ、記憶がないんだよね」
どう話してもそのような内容にしかならず、ショーティはどこか吹っ切れたように言葉をつむいだ。
前ほど切羽詰った心持ちでないことが不思議だったが、青年は、ふと視線を伏せる。
「僕は、誰?知ってるんだよね?」
少し身を乗り出すように問いかけると、青年は少しだけ間を置き、ため息を一つつく。
「例えば、僕が知っているとする。けれどそれを裏付ける確たる証拠はない。どうするのかな?」
「僕のことをショーティ、と呼んだよね?ひとまずは、ニューヨークの医療記録は本物だと、わかる」
「医療記録の改ざん…。僕が、君の言う夫人の回し者だとは?」
「NO!キャサリンの反応でそれはないと思う。それに、そこまで手の込んだ事をするいわれが僕にはなさそうだ」
「なぜ、そう思うのか聞いても?」
「貴方ほど、魅力はないから」
ついと告げる言葉に、青年の視線が一瞬、鋭い眼光を発した。が、ショーティは軽く肩をすくめると、
「というのは半分冗談で、事件がおきてないから、かな」
「……事件が起きていないと、なぜわかるんだい?」
「邸内が静かなんだ。人の出入りが激しいとか、報道に関してもそれらしいことは流れてないし、僕の行動が自由なこと。夫人はほんとに善意の第3者。僕に記憶がないのも多分、夫人のせいじゃない」
「薬や暗示による方法、いくらでもあるけれど」
「う~ん、記憶がない、って言った時本当に動揺していたんだよね。犬がいたから病院に渡すこともできなかったんじゃないかな」
「なるほど」
ショーティの瞳の中で青年は、ふっと口元に笑みを浮かべた。どこか柔らかなその笑みに、一瞬声をかけようと口を開きかける。
「……」
が、それは言葉にはならなかった。もどかしいばかりの思いが心中を駆け巡る。
「えっと…」
そしてショーティは軽く息を吐いた。
「……名前……。教えてほしいんだ」
ふっ、と青年の動きが止まった。雑多な香りを含む風が足元で激しく起こり、青年の表情を、言葉を消し去る。
「なに?」
深く考え込んでいるようにも見えるのに、そうとは見せないすっきりとした目元が深い色合いでショーティをみつめる。そしてゆっくりと紡ぐように、
「思い出してごらん。ショーティ・アナザー」
名を呼んだ。
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