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【過去話②】稀代の悪女の娘 ①
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※メリルの過去話です。どうしようもない奴らしか出てきません。胸糞注意です。
わたしの母親の名は、マリアナ・ベルクという。
わたしがこの世で最も嫌いな女の名でもある。
わたしの母親の生まれは平民だった。どこぞの町の食堂の娘として生まれたらしい。
父親は不明だったが、実は某貴族家の子息だったらしく、母は魔法の素養をもって生まれた。
それがさる貴族家の目に留まり、後見を受けて当時の名門だった魔法学院に通うことになったらしい。
そこで母は数多の貴族子息たちを魅了し、最後は当時の王太子を含む高位貴族令息たちまでも虜にするに至った。
しかしそれが──後に『ヴァリシュの断罪劇』と呼ばれる事件を引き起こすこととなった。
王太子含む貴公子たちが処罰を受けて落ちぶれていく中、母は王命で貴公子のうちの一人であった男爵家子息と結婚することとなった。
侯爵家以上の高位貴族ばかりの中、まさか自分がマリアナの夫になれるとは思っていなかったのだろう。父となる男爵子息は望外の僥倖に歓喜した。
しかし──父がそうやって喜んでいられたのも、ほんのわずかの間だけだった。
母は、父との結婚に不満だったらしい。
侯爵家以上の高位貴族とも親しくしていたのに、結婚できたのは貴族階級では最も家位の低い男爵家だったのだ。
母は父を侮り、学院時代からの奔放な男性付き合いを改めることなく、むしろ悪化させた。
母一筋の父は必死に彼女の関心を引こうと、母が喜びそうな豪華なドレスや宝飾品を次々と買い与えた。
豪商上がりであったために潤沢にあった財産を注ぎ込み、せっせと母に貢いだのだ。
やがて母は懐妊し、娘であるわたしが産まれた。
すると母は、これで義理は果たしたとばかりにさらに男爵家や父のもとに寄り付かなくなった。父はそれにさらに焦り、商会の運営すらほっぽり出して、母を追いかけてあちこち探し回る日々を送った。
当然、そんな両親が赤子であるわたしに関心を向けるはずもなく、産まれたあと放っておかれそうになったわたしは、まともな使用人によって乳母が手配され、何とか命をつなぐことができた。
だが、母の豪遊や不倫による賠償金の発生などで多額の金が必要なのに、主人が不在がちな商会の業績は傾く一方で、父は金を都合するために商会の従業員や男爵邸の使用人を解雇したり減給したりしたらしい。
そのため、わたしの世話を焼く使用人たちは不承不承な様子がありありと見て取れたし、本当に死なない程度に面倒を見るという感じがひしひしと伝わった。
「⋯⋯まったく、なんであんな女の子供の世話をしないといけないんだか。あの女のせいであたしらの給金も減らされたんだよ?」
「ほんと、あの馬鹿夫婦には困ったものよね」
「まぁ、この子も可哀想な子なのかもしれないけどね。父親がどこの誰とも知れないじゃないか」
「あれだけ派手に遊び回っているからねぇ⋯⋯それがわかってるから、父親もこの子に会いに来ないんだろう」
「そういえば、知ってるかい?あの女、この子を産んだときに真っ先に髪と瞳の色を確認したらしいよ。それで、『よかった』って言ったらしい」
「そりゃ、両親ともと違う色だとまずいからね」
「幸いにも母親と同じ色だ。あの女、喜んだんじゃないの?これなら誰の子供でも不思議じゃないよ」
そんな話を幼い子供の前でしながら、使用人たちは愉快そうに下品に笑っていた。
当時のわたしはその話の内容を半分も理解できなかったが、ただ、父が本当の父親ではないということだけはわかった。
──わたしのほんとうのお父さまは、どこにいるんだろう。
小汚い小さな部屋の粗末なベッド─その待遇は使用人たちと変わりないが、誰もそのことを気にしなかった─に横になりながら、よくそんなことを考えた。
本当の父親であれば、きっと自分のことを見てくれて、自分の話を聞いてくれて、自分のことを愛してくれるはずだ。
そんなことを考えながら眠ると、夢の中の自分はいつも着ている古着のようなドレスではなく、お姫様のようなドレスを着て、優しい父親に甘えていた。
そしていつも──目覚めて自身の姿を見て、落胆していたのだ。
「──あら?何よ、このドレスは。この子には金をかけなくていいって言ったでしょ?古着でいいわ」
母親はたまに家に帰ってくると、必ずわたしの部屋にやって来た。そして、わたしが何か贅沢をしていないかと部屋中を見て回るのだ。
母がどうしてそんなことをしていたのかは、知らない。
それでも、自分の身近に幸せに暮らす人間がいることは絶対に許さないという、意地とでも呼べそうな何かは感じた。そしてその対象は、実の娘も例外ではなかったのだ。
今もまた、勝手に開けた衣装箪笥の中から目ざとくドレスを見つけ、わたし付きの使用人を呼び出して文句を言った。
「それは⋯⋯以前に奥様が仕立てられたけれど、お気に召さなかったドレスです。お嬢様にはまだ大きいですが、いずれ着られるかと思って」
使用人が小さな声で言う。
母は次から次へとドレスを作ったが、その中にはやっぱり気に入らないからと、一度も着ずに無駄になってしまうものがあった。そうしたドレスは、かといって捨てるわけにもいかず、わたしの衣装箪笥にたどり着くことがあった。
「今着られないんだったら意味ないわ。タンスの肥やしになるだけでしょ?」
「ですが⋯⋯」
「そうだ、それならアンタにあげるわ。アンタが着てもいいし、娘がいたら娘に着させてもいいじゃない」
母親がそう言うと、女の使用人は明らかに表情を輝かせた。本当によろしいのですかと、口では遠慮することを言いながらも、目は明らかに母の手のドレスに釘づけになっている。
自分なり娘なりが着ている姿を想像しているのか、それとも減らされた給金の足しにしようと値踏みしているのだろうか。
母はそんな彼女に蔑んだ瞳を向けながらも、ええと言ってにっこりと笑ってみせた。
そして、馬鹿にするような視線をわたしに寄越す。
「⋯⋯お母さま、お話があります」
「アンタにお母さまなんて呼ばれたくないわ」
「⋯⋯では奥様」
母は忌々しそうに舌打ちをすると、使用人にドレスを押しつけて部屋から追い出した。
そうして、どこか腰かけられるところはないかと視線を彷徨わせ─まともな家具がなく、座れそうなのはベッドくらいだが、それも見るからに硬い─、諦めて立ったまま、早く済ませろとばかりにわたしを促した。
「わたしの本当の父親のことです」
単刀直入に言ったわたしに、母は濃い化粧の施された目をまん丸に見開いた。
だがすぐに、にやりとしか形容できそうもない、醜い笑顔を浮かべる。
「アンタの父親ぁ?⋯⋯さぁて、誰かしら。この家の男爵でないのは確かよ」
本来であれば最も可能性が高いであろう自身の夫を真っ先に否定した。
彼女は顎に手を当てながら、相変わらずにやにや笑っている。
「そうねぇ⋯⋯一番可能性が高いのはサイラスかしら?プライセル公爵家の男よ。まぁ、勘当されちゃったけど。でもなぜだか金はあるみたいだし、いつか必ず公爵位に就くって息巻いていたわ。ま、ハッタリだろうけど。
あとは⋯⋯一番条件のいい奴だとフィングレイ侯爵かしらね。妻が厳しくて頭の固い女だから、ちょおっと甘えてやればすぐコロリといって簡単だったわぁ」
実の娘に聞かせる内容でもない話を、まるで装飾品を見せびらかすかのように嬉々としてしゃべる。
わたしは母親が話す内容を、必死に頭の中に刻み込んだ。
「あとは、大穴も大穴で元王太子殿下ってこともありえるかしら?そんなことがあったら、アンタが王族?あっはははは!冗談にしても笑えないわ!」
その他にも母は、あれやこれやと男の名前と簡単な素性をしゃべると、やがて満足したのか、最後にいくつかわたしの悪口を言ってから部屋を出て行った。
──あの女のことは大嫌いだけど、これだけは感謝よね。
母親があげた名前は、いずれも高位貴族や金のありそうな相手ばかりだった。
そういう相手こそ、品のないと言われそうな母みたいな手合いに弱いのかもしれない。
わたしはもう、いつか素敵なお父さまが迎えに来てくれるだなんて、馬鹿みたいに夢見がちなことを考えるのは止めていた。
ただ現実的に、自分が利用できそうなものを見極めるだけだ。
──一生をあんな女のもとで、馬鹿にされ奪われるだけの人生を送るつもりはない。
その後、両親の仲は修復不可能なほどに拗れた。
母親を追いかけ回すことに疲れた父は、そこを狙ったのだろう別の女に引っかかり、そのもとに足繁く通って貢ぐようになったのだ。
すると母親は、当然のように男を屋敷に連れ込むようになった。
そしてそのうちの何人かのときに、わたしにそれなりの格好をさせて、その場に呼び出した。
「実は⋯⋯この子、本当はあなたとの子供なの」
黙っていてごめんなさい、としおらしく添えて。
母としては、わたしに父親のことを聞かれたし、ついでに父親の可能性がある男たちから金を出しそうな相手を選び、養育費と称して金品を巻き上げようとでも考えたものらしい。
母が金を出すと睨んだ通り、選ばれた数人の男たちはその話を聞くと歓喜し、母に喜んで金を渡していた。
代表的な人物が、フィングレイ侯爵だ。
「あぁ、メリル。お前はマリアナに似て可愛いな。うちの生意気な娘とは大違いだ」
侯爵はそう言って、わたしを猫可愛がりした。
宝飾品やドレスを贈ってくれることもあったが、それは当然のように母親が奪っていった。
侯爵と会うときは身に付けさせてくれることもあったが、基本的には母の部屋のクローゼットに鎮座する。
だけど、別にいいのだ。
そんな一時的に目を楽しませ心を満たしてくれるものなど、後からいくらでも貢がせればいい。
それよりも今の自分に必要なのは、こういう馬鹿な男を誑かすための手練手管なのだ。
わたしはいつか自分がこの家から出て、馬鹿な御大尽を引っかけて、母親たちこの家の住人を見返してやる日を、ずっと夢見ていた。
わたしの母親の名は、マリアナ・ベルクという。
わたしがこの世で最も嫌いな女の名でもある。
わたしの母親の生まれは平民だった。どこぞの町の食堂の娘として生まれたらしい。
父親は不明だったが、実は某貴族家の子息だったらしく、母は魔法の素養をもって生まれた。
それがさる貴族家の目に留まり、後見を受けて当時の名門だった魔法学院に通うことになったらしい。
そこで母は数多の貴族子息たちを魅了し、最後は当時の王太子を含む高位貴族令息たちまでも虜にするに至った。
しかしそれが──後に『ヴァリシュの断罪劇』と呼ばれる事件を引き起こすこととなった。
王太子含む貴公子たちが処罰を受けて落ちぶれていく中、母は王命で貴公子のうちの一人であった男爵家子息と結婚することとなった。
侯爵家以上の高位貴族ばかりの中、まさか自分がマリアナの夫になれるとは思っていなかったのだろう。父となる男爵子息は望外の僥倖に歓喜した。
しかし──父がそうやって喜んでいられたのも、ほんのわずかの間だけだった。
母は、父との結婚に不満だったらしい。
侯爵家以上の高位貴族とも親しくしていたのに、結婚できたのは貴族階級では最も家位の低い男爵家だったのだ。
母は父を侮り、学院時代からの奔放な男性付き合いを改めることなく、むしろ悪化させた。
母一筋の父は必死に彼女の関心を引こうと、母が喜びそうな豪華なドレスや宝飾品を次々と買い与えた。
豪商上がりであったために潤沢にあった財産を注ぎ込み、せっせと母に貢いだのだ。
やがて母は懐妊し、娘であるわたしが産まれた。
すると母は、これで義理は果たしたとばかりにさらに男爵家や父のもとに寄り付かなくなった。父はそれにさらに焦り、商会の運営すらほっぽり出して、母を追いかけてあちこち探し回る日々を送った。
当然、そんな両親が赤子であるわたしに関心を向けるはずもなく、産まれたあと放っておかれそうになったわたしは、まともな使用人によって乳母が手配され、何とか命をつなぐことができた。
だが、母の豪遊や不倫による賠償金の発生などで多額の金が必要なのに、主人が不在がちな商会の業績は傾く一方で、父は金を都合するために商会の従業員や男爵邸の使用人を解雇したり減給したりしたらしい。
そのため、わたしの世話を焼く使用人たちは不承不承な様子がありありと見て取れたし、本当に死なない程度に面倒を見るという感じがひしひしと伝わった。
「⋯⋯まったく、なんであんな女の子供の世話をしないといけないんだか。あの女のせいであたしらの給金も減らされたんだよ?」
「ほんと、あの馬鹿夫婦には困ったものよね」
「まぁ、この子も可哀想な子なのかもしれないけどね。父親がどこの誰とも知れないじゃないか」
「あれだけ派手に遊び回っているからねぇ⋯⋯それがわかってるから、父親もこの子に会いに来ないんだろう」
「そういえば、知ってるかい?あの女、この子を産んだときに真っ先に髪と瞳の色を確認したらしいよ。それで、『よかった』って言ったらしい」
「そりゃ、両親ともと違う色だとまずいからね」
「幸いにも母親と同じ色だ。あの女、喜んだんじゃないの?これなら誰の子供でも不思議じゃないよ」
そんな話を幼い子供の前でしながら、使用人たちは愉快そうに下品に笑っていた。
当時のわたしはその話の内容を半分も理解できなかったが、ただ、父が本当の父親ではないということだけはわかった。
──わたしのほんとうのお父さまは、どこにいるんだろう。
小汚い小さな部屋の粗末なベッド─その待遇は使用人たちと変わりないが、誰もそのことを気にしなかった─に横になりながら、よくそんなことを考えた。
本当の父親であれば、きっと自分のことを見てくれて、自分の話を聞いてくれて、自分のことを愛してくれるはずだ。
そんなことを考えながら眠ると、夢の中の自分はいつも着ている古着のようなドレスではなく、お姫様のようなドレスを着て、優しい父親に甘えていた。
そしていつも──目覚めて自身の姿を見て、落胆していたのだ。
「──あら?何よ、このドレスは。この子には金をかけなくていいって言ったでしょ?古着でいいわ」
母親はたまに家に帰ってくると、必ずわたしの部屋にやって来た。そして、わたしが何か贅沢をしていないかと部屋中を見て回るのだ。
母がどうしてそんなことをしていたのかは、知らない。
それでも、自分の身近に幸せに暮らす人間がいることは絶対に許さないという、意地とでも呼べそうな何かは感じた。そしてその対象は、実の娘も例外ではなかったのだ。
今もまた、勝手に開けた衣装箪笥の中から目ざとくドレスを見つけ、わたし付きの使用人を呼び出して文句を言った。
「それは⋯⋯以前に奥様が仕立てられたけれど、お気に召さなかったドレスです。お嬢様にはまだ大きいですが、いずれ着られるかと思って」
使用人が小さな声で言う。
母は次から次へとドレスを作ったが、その中にはやっぱり気に入らないからと、一度も着ずに無駄になってしまうものがあった。そうしたドレスは、かといって捨てるわけにもいかず、わたしの衣装箪笥にたどり着くことがあった。
「今着られないんだったら意味ないわ。タンスの肥やしになるだけでしょ?」
「ですが⋯⋯」
「そうだ、それならアンタにあげるわ。アンタが着てもいいし、娘がいたら娘に着させてもいいじゃない」
母親がそう言うと、女の使用人は明らかに表情を輝かせた。本当によろしいのですかと、口では遠慮することを言いながらも、目は明らかに母の手のドレスに釘づけになっている。
自分なり娘なりが着ている姿を想像しているのか、それとも減らされた給金の足しにしようと値踏みしているのだろうか。
母はそんな彼女に蔑んだ瞳を向けながらも、ええと言ってにっこりと笑ってみせた。
そして、馬鹿にするような視線をわたしに寄越す。
「⋯⋯お母さま、お話があります」
「アンタにお母さまなんて呼ばれたくないわ」
「⋯⋯では奥様」
母は忌々しそうに舌打ちをすると、使用人にドレスを押しつけて部屋から追い出した。
そうして、どこか腰かけられるところはないかと視線を彷徨わせ─まともな家具がなく、座れそうなのはベッドくらいだが、それも見るからに硬い─、諦めて立ったまま、早く済ませろとばかりにわたしを促した。
「わたしの本当の父親のことです」
単刀直入に言ったわたしに、母は濃い化粧の施された目をまん丸に見開いた。
だがすぐに、にやりとしか形容できそうもない、醜い笑顔を浮かべる。
「アンタの父親ぁ?⋯⋯さぁて、誰かしら。この家の男爵でないのは確かよ」
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彼女は顎に手を当てながら、相変わらずにやにや笑っている。
「そうねぇ⋯⋯一番可能性が高いのはサイラスかしら?プライセル公爵家の男よ。まぁ、勘当されちゃったけど。でもなぜだか金はあるみたいだし、いつか必ず公爵位に就くって息巻いていたわ。ま、ハッタリだろうけど。
あとは⋯⋯一番条件のいい奴だとフィングレイ侯爵かしらね。妻が厳しくて頭の固い女だから、ちょおっと甘えてやればすぐコロリといって簡単だったわぁ」
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「あとは、大穴も大穴で元王太子殿下ってこともありえるかしら?そんなことがあったら、アンタが王族?あっはははは!冗談にしても笑えないわ!」
その他にも母は、あれやこれやと男の名前と簡単な素性をしゃべると、やがて満足したのか、最後にいくつかわたしの悪口を言ってから部屋を出て行った。
──あの女のことは大嫌いだけど、これだけは感謝よね。
母親があげた名前は、いずれも高位貴族や金のありそうな相手ばかりだった。
そういう相手こそ、品のないと言われそうな母みたいな手合いに弱いのかもしれない。
わたしはもう、いつか素敵なお父さまが迎えに来てくれるだなんて、馬鹿みたいに夢見がちなことを考えるのは止めていた。
ただ現実的に、自分が利用できそうなものを見極めるだけだ。
──一生をあんな女のもとで、馬鹿にされ奪われるだけの人生を送るつもりはない。
その後、両親の仲は修復不可能なほどに拗れた。
母親を追いかけ回すことに疲れた父は、そこを狙ったのだろう別の女に引っかかり、そのもとに足繁く通って貢ぐようになったのだ。
すると母親は、当然のように男を屋敷に連れ込むようになった。
そしてそのうちの何人かのときに、わたしにそれなりの格好をさせて、その場に呼び出した。
「実は⋯⋯この子、本当はあなたとの子供なの」
黙っていてごめんなさい、としおらしく添えて。
母としては、わたしに父親のことを聞かれたし、ついでに父親の可能性がある男たちから金を出しそうな相手を選び、養育費と称して金品を巻き上げようとでも考えたものらしい。
母が金を出すと睨んだ通り、選ばれた数人の男たちはその話を聞くと歓喜し、母に喜んで金を渡していた。
代表的な人物が、フィングレイ侯爵だ。
「あぁ、メリル。お前はマリアナに似て可愛いな。うちの生意気な娘とは大違いだ」
侯爵はそう言って、わたしを猫可愛がりした。
宝飾品やドレスを贈ってくれることもあったが、それは当然のように母親が奪っていった。
侯爵と会うときは身に付けさせてくれることもあったが、基本的には母の部屋のクローゼットに鎮座する。
だけど、別にいいのだ。
そんな一時的に目を楽しませ心を満たしてくれるものなど、後からいくらでも貢がせればいい。
それよりも今の自分に必要なのは、こういう馬鹿な男を誑かすための手練手管なのだ。
わたしはいつか自分がこの家から出て、馬鹿な御大尽を引っかけて、母親たちこの家の住人を見返してやる日を、ずっと夢見ていた。
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