14 / 42
【幕間①】ヴァリシュ魔法学院の栄光
しおりを挟むかつて、ヴァリシュ魔法学院という教育機関があった。
今から100年ほど前の当時の国王の一大政策として開学した学院で、その新しいシステムや目指す校風は当時たいへんな話題になったという。
ヴァリシュ魔法学院に入学するために必要な条件はたったの3つだ。
まずは、魔法の素養があること。
次に、14歳以上であること。
最後に、親かそれに準ずる者の承諾。
それを満たせば誰でも入学試験を受けられて、しかも受験料も学費も無償だった。
何よりも人々を驚かせたのは、貴族だけでなく広く平民にもその門戸を開いていることだ。
もちろん、条件の中の『魔法の素養があること』という時点で、ほとんどの平民は弾かれてしまう。
魔法は、貴族の特権的な能力であったからだ。
だが、ごく稀にだが、平民の中にも魔法の力をもって産まれてくる者もいる。
そういった者たちは、よほど運が良ければ貴族に養子として拾ってもらえるものの、ほとんどはその力を活かせることなく埋没してしまっていた。
魔法立国を掲げようとしている国にとって、そういう貴重な人材を発掘することは急務だったのだ。
故に、型破りだが新しい学校の形は、貴族から平民にまで受け入れられることになった。
そしてそこから、ヴァリシュ魔法学院一強の時代が始まる。
当時の王の一大政策である。王族はその学院に通うのが慣例になった。
それに伴い、王族と縁を結びたい高位貴族も集まった。
そして、そうした高位貴族と縁を結びたい下位貴族がさらに殺到し⋯⋯という具合に、学院は活況を呈した。
しかも、入学試験が当時の最難関であったことは、ヴァリシュ魔法学院に箔をつけた。
貴族たちにとって、子供をかの学院に通わせること、かの学院を卒業していることがステータスとなった。
平民も、魔法の素養をもつ者─中には、魔法が使えると偽る者もいたらしい─は、駄目元でも受験してみるのが一般的だった。
幼い頃から高い教育を受ける貴族も苦戦する試験である。もとより、まともな教育を受ける機会に乏しい平民に歯が立つわけがない。
それでも、魔法の素養をもつことだけでも認めてもらえれば、国や貴族に拾ってもらえて、より豊かな生活を送れるようになるのは間違いなかった。
こうして、貴きも卑しきも、ヴァリシュ魔法学院を目指すことが当然のような風潮になった。
そしてそれは、開学から80年ほどが経っても変わらなかった。
そんなある年──ヴァリシュ魔法学院に、久しぶりに平民の入学者が出た。
そしてその入学者こそが、学院を転落させる起爆剤となったのだ。
平民の入学者は非常に珍しいが、今までいなかった訳ではない。
20年に一度くらいは、早い段階で貴族に見出され、教育を施された平民入学者が現れることがあった。
その入学者─マリアナという少女─も、その類だと思われた。
学院生となった者は、その出自に関わらず平等であるという原則があるため、表向きは平民であろうとも軽んじられることはない。
しかし、それはあくまで建前だ。学院内には、当然、純然たる身分階級が残っている。
そのため、学院唯一の平民であるマリアナは、孤立するはずだった。
だが、マリアナは大方の予想を裏切った。
平民ならではと言うべきなのか、奔放と紙一重の自由さと、不敬を飛び超えた無邪気さを彼女は発揮した。
そしてそれは、これまた予想外なことに、家のためにという名目のもと、自身の感情は押し込めることが美徳とされた貴族社会の中、本来ははしたないと軽蔑されるような率直な感情表現が、目新しく素晴らしいものに映ったのだ。
瞬く間にマリアナは、やんごとなき令息たちの心を射止めるに至った。
そしてそのことこそが──後に『ヴァリシュの断罪劇』と呼ばれる出来事を生み出すこととなった。
84
お気に入りに追加
1,370
あなたにおすすめの小説

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。
紺
ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」
実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて……
「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」
信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。
微ざまぁあり。


悪役令嬢ですか?……フフフ♪わたくし、そんなモノではございませんわ(笑)
ラララキヲ
ファンタジー
学園の卒業パーティーで王太子は男爵令嬢と側近たちを引き連れて自分の婚約者を睨みつける。
「悪役令嬢 ルカリファス・ゴルデゥーサ。
私は貴様との婚約破棄をここに宣言する!」
「……フフフ」
王太子たちが愛するヒロインに対峙するのは悪役令嬢に決まっている!
しかし、相手は本当に『悪役』令嬢なんですか……?
ルカリファスは楽しそうに笑う。
◇テンプレ婚約破棄モノ。
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇なろうにも上げてます。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)

【完結】陛下、花園のために私と離縁なさるのですね?
紺
ファンタジー
ルスダン王国の王、ギルバートは今日も執務を妻である王妃に押し付け後宮へと足繁く通う。ご自慢の後宮には3人の側室がいてギルバートは美しくて愛らしい彼女たちにのめり込んでいった。
世継ぎとなる子供たちも生まれ、あとは彼女たちと後宮でのんびり過ごそう。だがある日うるさい妻は後宮を取り壊すと言い出した。ならばいっそ、お前がいなくなれば……。
ざまぁ必須、微ファンタジーです。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?
つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。
平民の我が家でいいのですか?
疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。
義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。
学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。
必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。
勉強嫌いの義妹。
この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。
両親に駄々をこねているようです。
私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。
しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。
なろう、カクヨム、にも公開中。

【完結】元婚約者であって家族ではありません。もう赤の他人なんですよ?
つくも茄子
ファンタジー
私、ヘスティア・スタンリー公爵令嬢は今日長年の婚約者であったヴィラン・ヤルコポル伯爵子息と婚約解消をいたしました。理由?相手の不貞行為です。婿入りの分際で愛人を連れ込もうとしたのですから当然です。幼馴染で家族同然だった相手に裏切られてショックだというのに相手は斜め上の思考回路。は!?自分が次期公爵?何の冗談です?家から出て行かない?ここは私の家です!貴男はもう赤の他人なんです!
文句があるなら法廷で決着をつけようではありませんか!
結果は当然、公爵家の圧勝。ヤルコポル伯爵家は御家断絶で一家離散。主犯のヴィランは怪しい研究施設でモルモットとしいて短い生涯を終える……はずでした。なのに何故か薬の副作用で強靭化してしまった。化け物のような『力』を手にしたヴィランは王都を襲い私達一家もそのまま儚く……にはならなかった。
目を覚ましたら幼い自分の姿が……。
何故か十二歳に巻き戻っていたのです。
最悪な未来を回避するためにヴィランとの婚約解消を!と拳を握りしめるものの婚約は継続。仕方なくヴィランの再教育を伯爵家に依頼する事に。
そこから新たな事実が出てくるのですが……本当に婚約は解消できるのでしょうか?
他サイトにも公開中。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる