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00. 20年前の断罪劇
しおりを挟む『貴公子たちの断罪劇』という喜劇がある。
今から20年近く前、平民の間で流行した演劇だ。
とある学院で、5人の貴公子が平民の少女に骨抜きにされ、罪なき者たちを罰しようとして逆に罰され、それぞれが酷いしっぺ返しに遭うという話だ。
平民には手の届かぬ暮らしを送り、ふんぞり返るお坊っちゃまたちが、女に惑わされ、愚かな行動の果てに落ちぶれていく姿が、平民にはおもしろおかしく、痛快であったのだろう。
20年近く経つ今でも、シナリオに少し手が加えられて再上演されるくらいである。
しかし、その喜劇を楽しむ人々は知る由もない。
この喜劇が、ある事実に基づいて作られたのだということを。
その舞台となったのは、国内でも最先端の教育を行う、名門ヴァリシュ魔法学院。
故にそこで起きた出来事は、例の演劇の題名から一部拝借し、『ヴァリシュの断罪劇』と陰で呼ばれるようになった。
そこで何が起き、どう帰結したのか。
まだたったの20年ほど前のことだ。ある一定の年齢以上の貴族は、何が起きたのか、誰が関わったのかを知っている。
しかし、表立って口には出さない。
箝口令が敷かれた訳ではない。それでもその出来事に関することは、一種の禁句のようになっていた。
そうやって配慮せねばならないほど、その断罪劇の関係者たちの身分が高く、厄介であったのだ。
だから、社交界ではそのようなことは無かったかのようになっている。
だけど、誰も忘れていない。
忘れられる訳がなかった。
私も忘れられない一人だ。
そして、残念なことに『ヴァリシュの断罪劇』は過去の出来事などではないし、まだ終わってもいない。
少なくとも、それに関わった人々の中では。
──だからこそ、自分たちの手で始末をつけなければならないのだ。
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