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契約結婚から輝ける未来へ

契約結婚から輝ける未来へ

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「……り、杏凛あんり。今日はみんなが家に集まってくる、そろそろ起きないと君は準備が必要だろう?」

 そう言って私の額を優しく撫でる、そんな匡介きょうすけさんの温もりを感じながら微睡んでいた。だけど今日は月菜つきなさんや香津美かつみさんがやってくることを思い出すと、ガバリと起き上がり目覚まし時計を確認した。

「もうこんな時間! どうしてもっと早く起こしてくれなかったんですか?」

 いつも早起きの匡介さんは既にしっかりと自分の準備は済ませてしまっている、私のことももっと早く起こしてくれてもいいはずなのに。
 プリプリと怒る私に、匡介さんはすまなそうな顔でこういった。

「すまない。だが昨日は君に随分無理をさせてしまったから、出来るだけゆっくり休ませたくて」

 匡介さんの言葉に、昨日の夜の事を思い出し顔を真っ赤に染める。次の日が休みだからと匡介さんは昨日の夜、私を思いきり甘やかし何度も求めてきた。一度身体を繋げてから彼はそれまでが何だったのかと思うほど、私を欲しがるのだから困ってしまう。

「そういう事は言わないでください、特にみんなの前では!」

 ずっと惚気るなんて姿は見たことなかったのに、想いが通じ合ってからの彼は別人のようで。聖壱せいいちさんや柚瑠木ゆるぎさんに負けじと、みんなの前でそれはそれは私を甘やかそうとするのだ。
 
「しかし、俺は杏凛の事が心配で……」

「そんなに過保護にならなくても大丈夫です! 最近は調子もいいんですから」




 そう、あれだけ悩まされた悪夢も今はほとんど悩まされることはない。見ても目を開ければ匡介きょうすけさんが傍にいてくれる、それだけでずいぶん落ち着いた。
 長年悩んでいた発作も今は随分減り、安定してきたねと鵜方うがた先生にも褒められたくらいだった。
 ……もしかしたら近いうちに、飲んでいる薬も減らせるようになるかもしれない。いつか二人の子供を望める日が来るかもしれないのだと、そんな希望さえ持てるようになっていた。

「怒っている時間がもったいないだろう、手伝うから急いで準備をするといい」

「言われなくてもそうします!」

 素直に分かりましたと言えない、そんな私なのに匡介さんは嬉しそうに見てるから調子が狂う。こんな気の強い強情妻でも、彼には誰よりも可愛く見えるらしいのだから。

「匡介さんは先に昨日作っておいた料理を並べておいてくださいね?」

「分かってるから、君は気にせず自分の事だけやればいい」

 ……そうやってまた甘やかす、こういうとこは全く変える気はないらしい。でもそんな匡介さんだから私も素直になれるようになった。
 その腕に飛び込む勇気が持てた。だから、これからもずっとそのままでいて欲しい。

【ピンポーン】

 私の準備が終わると同時に玄関のチャイムが鳴る、私と匡介さんは並んでドアを開けて……

「いらっしゃい、聖壱せいいちさんと香津美かつみさん、柚瑠木ゆるぎさんと月菜つきなさんも。さあ、あがって!」

 ――そうやって私たちの契約結婚は、二人の輝ける未来へと形を変えていくのだから。


      ―END―

     2022/02/15 花吹


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