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契約結婚で隠された愛情に
契約結婚で隠された愛情に4
しおりを挟む「杏凛、どうして君がここに?」
自分が会社の医務室にいることも分かっていなさそうな匡介さん、私はすぐに起き上がろうとする彼をベッドへと押し戻す。まだ休んでいなければ、こんな状態で仕事に戻すわけにはいかない。
私の行動に匡介さんは驚いた顔をするけど、そんなの構っていられないの。
「倒れたんです、匡介さんは。私は連絡を貰ってここに来た、それだけのことです」
自分の事より私の事ばかり気遣う匡介さんに、そう言って毛布を綺麗にかけなおす。心配した、そう言えばきっと匡介さんは心配かけないようにもっと無理をするに違いないから。
「そうか、すまなかった。俺はもう大丈夫だから君は月菜さんの所へ……どうしたんだ、その傷は!」
私を月菜さんの所へ行かせようとする匡介さんにムッとして、居座ってやろうと置いてあるパイプ椅子に腰かけた。そんな私を見た匡介さんが今度こそ勢いよく起き上がる。
そのままベッドを飛び降りるようにして私に近づいた匡介さんは、私の傷付いた足や汚れたスカートを見てさっき以上に顔を青くした。
「あ、これは……ちょっと急いでて」
「ジッとしてるんだ、すぐに手当てをするから!」
滅多に怒ったりしない彼が私に強い口調でそう言った。それくらい匡介さんが私を心配してくれてることが、胸の奥をジンとさせる。
ああ、やっぱり……この人が好き。
「どうしたらこんな怪我をするんだ、俺がついていればこんな事には……」
そう言って急いで脱脂綿を消毒液で浸して、そっと傷口を撫でていく。彼がどれだけ沁みないように優しく触れているのかが分かって、胸がきゅんとしてしまう。
私が匡介さんに何かしてあげたいのに、結局こうなってしまうのよね。
「沁みないか? 痛かったら言ってくれ」
「大丈夫、痛くないので」
匡介さんは大きめのガーゼを取り出し傷口を保護すると、その上からネット包帯をはめていく。いくらなんでもこれは……
「大げさじゃないですか? ちょっと転んだくらいの怪我で」
「いいや、後で病院に行って診てもらってくれ。月菜さんにそう頼んでおく」
まるでこのまま私を帰すような言い方に少し多気カチンとくる。自分は倒れるほど無理をしてるくせに、私に何も心配させてくれないの?
もちろんこのまま帰る気なんてない私は……
「それなら匡介さんが病院まで連れて行って下さい。それまでここから動きません」
「杏凛……?」
驚いた顔をする匡介さんだが私は引き下がる気はない、私を病院に行けというのなら匡介さんだって行くべきだわ。そんなわたしから少し距離を取ろうとする匡介さんの腕を掴んで引き止める。
「しかし、俺は仕事に戻らなくては……」
「では終わるまでここで待ちます、それなら文句ないでしょう? でも飛島君たちがこんな状態の匡介さんに仕事を任せるとは思えませんけど」
これは何となくそう思って言っただけだけど、きっとそうなんじゃないかしら。
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