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契約結婚で隠された愛情に
契約結婚で隠された愛情に3
しおりを挟む「夫にちゃんと言っておきます、ごめんなさい」
「冗談ですよ! ちょっと羨ましいんで妬んで言ってるだけです。俺はまだそんな相手がいないんで」
ぺこぺこと頭を下げる私に飛島君はそう言って笑ってくれるけれど、恥ずかしすぎて今すぐ家に帰りたい気分だった。
私にはそんな素振りは見せもしないで、知らないところで本当の気持ちを他の人に話している。そんな匡介さんにちょっとだけ腹も立って……
「怒らないで下さいね、鏡谷部長は杏凛さんを誰より大切に思ってる。それだけ伝えておきたかったので。ほら、この部屋です。俺はこれで失礼しますね」
医務室と小さなプレートが付いている部屋に案内すると、飛島君はあっという間にまたエレベータのある方向へと走って行ってしまった。
一方的に話されたのに全然嫌じゃなかった、見えなくなった彼に頭を下げて扉を開いた。
「匡介さん……?」
白いカーテンがヒラヒラと風に揺れている、一番奥のベッドで匡介さんは眠っているようだった。静かに近づいて彼の寝顔をじっと観察する。
そう言えば私が彼の寝顔を見るのは初めてかもしれない……
顔色は悪く眼の下の隈も酷い、それに少し痩せたんじゃないのかと思った。離れたのはほんの少しの時間のはずなのに、随分会えなかったような気持ちになる。
「ねえ、どうしてそんなに何でも一人で抱え込んじゃうんですか? こんな風になるまで……」
サラリ、そっと触れた彼の髪は思っていたよりも柔らかい。そのまま指を動かせば短い匡介さんの髪はサラサラと指の隙間から零れ落ちていく。
こんな時、私の方が匡介さんを抱きしめてあげられたら良かったのに。
彼との結婚生活の中で少しずつ育った私の中の特別な感情は、もうはっきりと形を成している。
……ただ、私が気持ちを伝えることで匡介さんに迷惑が掛かってしまうのが怖かった。契約を終えて自由になれるはずの彼を、私の我儘で繋ぎ止めていいのかも分からなくて。
それでも一緒に居てこんなに膨らんだ想いを無かったことになんてもう出来そうもない。伝えたい、想い合いたい。私がそう思えるのは他の誰でもなく匡介さんただ一人だけなんだから。
「私はそんなに頼りないですか、匡介さん」
髪に触れていた手を彼の頬へと移動させる、窓が開いて風が入ってくるせいか匡介さんの肌は冷えていた。体温を分けるようにゆっくり手のひらで彼の頬を包んで、そして願った。
……どうか、この人と気持ちが通じ合えますように。本当の夫婦になれますように、と。
「……あ、杏凛?」
「匡介さん、気がつきましたか!」
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