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契約結婚と秘密の交換条件

契約結婚と秘密の交換条件7

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「え? 今から鵜方うがた先生の病院へ?」

「ええ。匡介きょうすけさんから鵜方うがた先生の診察の予約をしたので、杏凛あんりさんを連れて行って欲しいと」

 深夜に月菜つきなさんの家に連れて来られて、一晩中彼女の腕の中で泣いて。朝方になって用意された部屋のベッドで眠ってしまった。不思議なことに悪夢には魘されずにぐっすりと眠ることが出来たのだけど。
 昼過ぎに起きて月菜さんが作ってくれた食事を頂き、泣きすぎて腫れた瞳を温めていた。そんな時に月菜さんから鵜方先生の診察についてそう話されて。

「そう、でも今は鵜方先生と何を話せばいいのか……」

 鵜方先生に話さなければいけない事は沢山ある、でも気が進まない。その理由は匡介さんとの結婚が終わるかもしれないから。
 もし話を聞いた鵜方先生は反対するだろうか、それとも……

「私もついて行ってもいいですか? 杏凛さんが不安なら、診察の間も私が傍にいますから」

「月菜さん……本当に? それじゃあ、お願いしてもいいかしら」

 普段は一人で診察を受けていたが、時々匡介さんが付いて来てくれた。今は一人になるのがとても心細い、だから月菜さんの言葉に素直に甘えることにした。
 そんな私に月菜さんは「任せてください!」とやる気満々でその様子がちょっと可愛かったけれど。




「事件の事は旦那さん……匡介きょうすけ君から聞いてるよ、記憶が戻ったそうだね?」

「はい……」

 匡介さんが鵜方うがた先生に大まかな事は話をしていたらしく、私は診察室に入るなり彼に真剣な表情でそう聞かれた。それでも戻った記憶は途切れ途切れで、どこか他人事のように感じている部分もあった。
 過去の事件では途中で気を失ってしまった私、今も雷や酷い雨に対しての恐怖が残っているくらいで……どちらかと言えば今回の事件に対してのショックの方が大きかった。

「毎晩魘されている、とも聞いているけれど」

 カルテに目を通しながら鵜方先生はチラリとこちらに視線を移す。嘘なんてついたって長い付き合いだからすぐにバレる、そう思ってきちんと話す事にした。

「はい、事件の日から毎晩……加害者の男性が夢に出てきます」

「どんな風に?」

 真剣な表情の鵜方先生、いつもは軽口なのに今日はそんな様子は全く見せない。それほどまでに大事な話をしているんだって分かってるけれど苦しくて。

「自分なら私を幸せに出来る、そう言って手を伸ばして。私はいつもその手を払って、でも……」

 息が上手く出来なくなる気がする、思い出せばすぐ傍に郁人いくと君が来てしまうような気がして。ここに匡介さんがいないことが物凄く不安だった。

杏凛あんり、落ち着いてゆっくり呼吸しなさい。その男はもう君に近づくことはない、そうだろう?」


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