桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜

花室 芽苳

文字の大きさ
上 下
96 / 132
契約結婚とあの日の事実は

契約結婚とあの日の事実は5

しおりを挟む


 慌てて名前を呼ばれた方を見れば……どれだけ力いっぱい蹴り開けたのか、べコリと真ん中が凹んだ扉。その横で真っ直ぐにこちらを睨みつける匡介きょうすけさんは、私が今までに見たことのない顔をしていた。
 もともと愛想の良い人じゃないのは分かってる、でもこんな風に鋭く攻撃的な視線を向けてくる彼は知らなかった。

「匡介さん! ごめんなさい、私……」

「やっぱり来たんだな、鏡谷かがみや 匡介きょうすけ。予定より早いけど……まあ、仕方ないか」

 今回郁人いくと君に捕まってしまったのは、私がきちんと気を付けていなかったことが原因だ。だからすぐに出てきたのは彼への謝罪の言葉だったのに、そんな私の様子を見て匡介さんは少し傷付いたような表情をする。
 そんな私たちを馬鹿にしたように、郁人君は掴んだままだった私の肩を引き寄せ大きな窓の傍へと連れて行く。

「……よせ、妻に何をするつもりだ? 今さら何をしたってお前が杏凛あんりの心を手に入れるなんて出来ないことは分かるだろう?」

 低く唸るような声、いつも聞いている匡介さんのそれとは違う。ジリジリとした痛さを感じる様なその圧に、普段は冷静な匡介さんがどれだけ怒っているのかを嫌でも感じ取れた。
 ……私の背中を伝う汗はこれから何をする気なのか分からない郁人君への恐怖からなのか、それとも今まで見たことも無い夫の一面を知ってしまった緊張からか。

「……愛の無い結婚で、杏凛ちゃんの心が手に入れられないのはお前もだろう? なあ、鏡谷 匡介」

 片手に小さなナイフと何かのリモコンを持ったまま、私の首に腕を回した郁人君は楽しそうに笑う。それを聞いた匡介さんの表情が少し苦しげに歪んだ気がした。
 
 ……違う、郁人君と匡介さんは私にとって同じじゃない!




 それを伝えたいのに、郁人いくと君の腕が咽喉にあたって上手く声が出せない。
 匡介きょうすけさんにならば私の心全てを許しても構わない、それが出来ないでいるのは私が弱くて怖がりだから。契約という形でしか妻になれない自分が本気になっても、いつか来る終わりに怯えなければいけないから。
 もちろん、そんな事を匡介さんに話したことなんてなかったけれど。

「ああ、分かってるさ。それでもお前に杏凛あんりを渡すわけにはいかない、たとえ俺では彼女を幸せに出来なくとも」

 真っ直ぐな眼差しを向ける匡介さんの言葉を、私は信じられない気持ちで聞いていた。私を幸せに出来なくても? その言い方ではまるで匡介さんは本心では私を幸せにしたいと言っているように聞こえてしまう。三年という契約期間を設けたのは彼なのに、どうして……?

「自信の無い奴は引っ込んでいたらどうかな? 俺ならば杏凛ちゃんを幸せに出来る、杏凛ちゃんもそう思うだろ?」

 そう言ってニタリと笑う郁人君はもう私の知っている彼ではなかった、身体中がビリビリと郁人君に強い拒否反応を起こしているみたいに痛い。
 私には郁人君と幸せな未来なんかこれっぽっちも見えてこない。私が一緒に幸せを感じたいのは……

 声を出せない代わりに必死で首を振る。郁人君が今なら考え直してくれるかもしれない、そんな小さな期待を持って。だけど……

「ふうん? 杏凛ちゃん、俺より鏡谷かがみや 匡介きょうすけの方がいいんだ?」


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる

Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。 でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。 彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

【完結】誰にも知られては、いけない私の好きな人。

真守 輪
恋愛
年下の恋人を持つ図書館司書のわたし。 地味でメンヘラなわたしに対して、高校生の恋人は顔も頭もイイが、嫉妬深くて性格と愛情表現が歪みまくっている。 ドSな彼に振り回されるわたしの日常。でも、そんな関係も長くは続かない。わたしたちの関係が、彼の学校に知られた時、わたしは断罪されるから……。 イラスト提供 千里さま

2番目の1番【完】

綾崎オトイ
恋愛
結婚して3年目。 騎士である彼は王女様の護衛騎士で、王女様のことを何よりも誰よりも大事にしていて支えていてお護りしている。 それこそが彼の誇りで彼の幸せで、だから、私は彼の1番にはなれない。 王女様には私は勝てない。 結婚3年目の夫に祝われない誕生日に起こった事件で限界がきてしまった彼女と、彼女の存在と献身が当たり前になってしまっていたバカ真面目で忠誠心の厚い騎士の不器用な想いの話。 ※ざまぁ要素は皆無です。旦那様最低、と思われる方いるかもですがそのまま結ばれますので苦手な方はお戻りいただけると嬉しいです 自己満全開の作品で個人の趣味を詰め込んで殴り書きしているため、地雷多めです。苦手な方はそっとお戻りください。 批判・中傷等、作者の執筆意欲削られそうなものは遠慮なく削除させていただきます…

処理中です...