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契約結婚とあの日の事実は

契約結婚とあの日の事実は2

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「そろそろ降るかなあ? 今日を杏凛あんりちゃんが選んでくれて、僕は本当に運がいい」

 窓からどんどん黒くなっていく雲を見つめて嬉しそうに笑う、そんな郁人いくと君に聞きたい事はたくさんあるのに言葉が見つからない。
 用意周到に準備されていた罠に掛ったのは私、それでも郁人君がいたタイミングはあまりにも良過ぎる気がした。

「どうして、私が実家に帰ると分かったの? 数か月ぶりなのに、普通は分からないはずよ?」

「そのためにプレゼントも送ったし、料理教室の生徒にも頼んでおいたからね。杏凛ちゃんの大事にしていた、あの天然石のブレスレット……思い出さなかった?」

「何を言って……?」

 確かに封筒で届いた天然石はアクセサリーに使用するものだった、それに料理教室の女性の事だって。
 まさかそこまで計算されているとは思っても無くて、ただ彼の事が恐ろしいと思った。

「誰からのプレゼントか知らないけど、君はあのブレスレットを特別大切にしてた。あの日もそう、僕が触れようとしたら杏凛ちゃんはもの凄く怒って……」

 ズキンズキンと酷く頭が痛む、遠くの方で雨の降りだした音が聞こえてくる。暗い部屋に郁人君と二人きり、雨音と遠くから聞こえてくる雷鳴が私の奥に仕舞われた記憶を呼び起こそうとする。

「私は……」




 確かに私はあの頃、あるブレスレットをとても大切にしていた。あれは誰からのプレゼントだったか思い出せないけれど、私の為のお守りなんだってそう言われた気がする。
 でも、あの日……郁人いくと君があのブレスレットに触れようとしたから。

「郁人君を引っ叩いたのよね、あの時の私は」

「そう、流石に腹が立ったからあのブレスレット引き千切ってあげたけど」

 あの時は床に散らばった天然石は全部拾いきれずに、そのまま腕を掴まれ郁人君に椅子に座らされ縛られた。
 じゃあ、それからは……?

「いたっ、頭が痛いの……」

 思い出そうとすれば頭が酷く痛む、それでも必要な事なんだって必死で過去と向き合おうとする。
 こんな時に限って何故か匡介きょうすけさんの少し不機嫌そうな顔が浮かんだ。あんなに心配してくれたのに、私は言う事を聞かないで結局……

「もしかしてまた鏡谷かがみや 匡介が迎えに来てくれるって期待してない? 杏凛あんりちゃんは本当にあの男を信頼しちゃってるのかな。アイツは新婚初日に妻を置いて外泊するような男なのに?」

「郁人君、どうして貴方がそれを……?」

 私と匡介さん、そして寧々ねねしか知らない事をどうしてこの人が知っているの? 今でも私が匡介さんを問い詰められないでいる事、それをまるで全部知っているかのように。

「二人の特別な夜を他の女と一緒に居たのかもしれない、そんな鏡谷 匡介を君は本当に信じてもいいの?」

「……そんな」


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