桃色溺愛婚 〜強面御曹司は強情妻を溺愛し過ぎて止まらない〜

花室 芽苳

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契約結婚とあの日の事実は

契約結婚とあの日の事実は

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「僕に並んで歩いて、変におどおどしないで普段のようにね」

 そう言って私の隣に寄り添うように歩く郁人いくと君、彼の服で隠してあるが私の両手首は今もガムテープで巻かれたままだった。
 連れて来られたのは町外れにある少し古いホテルで、中に入るとすぐに愛想の悪い女性が郁人君に部屋のキーを渡してきた。
 その女性が一瞬だけ私に視線を向けたが、すぐに何もなかったかのようにそっぽを向いてしまう。
 ……この人は私の状態に気付いているはずなのに、あえて見ないふりをした?

「無駄だよ、ここで助けを求めても。大人しくついて来て」

 郁人君の冷たい声を聴きながら女性に目を向けると、彼女はそそくさと奥に行ってしまう。つまり……ここの人たちに助けを求めるのは難しい、という事なのかもしれない。

 エレベーターで三階に昇り、一番端の部屋の鍵を開け私を中へと入らせる。郁人君はそのまま中から鍵をかけて、鞄の中から出したチェーンをドアノブに巻き付けた。

「まあ、こんなのあの男には意味がないだろうけど念のためにね」

「あの男……?」

 郁人君は誰かを警戒している、それは何となく分かった。

鏡谷かがみや 匡介きょうすけだよ、アイツは前も僕と杏凛あんりちゃんの二人の時間の邪魔をして……! しかもあの男は君の記憶が無い事を良いことに、強引に結婚までしたんだ」

 忌々しいと言わんばかりに歪んだ郁人君の表情は、私の知っている彼ではない。匡介さんとの結婚だって、私は無理強いされたわけでもないのに……




郁人いくと君、私は……」

「ああ、杏凛あんりちゃんは余計なことは喋らないで。その椅子に座って大人しくしてくれる?」

 最初から用意されていたように一脚だけ置かれた椅子に私は黙って腰かける。目の前に見えるのは大きなガラス窓で、ここから見える空は今にも泣き出しそうな色をしている。
 そう言えば雷雨になると言っていたわね、小さくため息をつきこれからの事を考える。もしこのままの状態で雷が鳴りだせば私はどうなるだろう?
 それにこの景色、なんだか前にも見たことがあるような……

「ふふ、あの日とそっくりでしょ? さすがに同じ場所っていうわけにはいかなかったけれど、なるべく似たところを探したんだ」

「それは私を監禁したっていう日のこと? 何のためにこんな事を……」

 郁人君は妙に私の記憶に拘っている、私が忘れてしまったあの日に彼にとって大事な何かが残っているのかもしれない。
 ズキズキと頭は痛むままだが、いまだ全部を思い出してはいない。彼はあの日を再現して私に思い出させようというのだろうか?

「杏凛ちゃんが思い出してくれなくきゃ、意味が無いんだ。あの時言ってくれた言葉は君の本心のはずだから」

「……私の本心?」

 やはり郁人君の言っている事が分からない。あの日、私はいったい彼に何を言ったの?


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