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契約結婚の温もりに触れて
契約結婚の温もりに触れて
しおりを挟むリビングに戻ると、ソファーに座りタブレットを操作している匡介さん姿を見つけて安心する。昨日の今日だから彼も部屋に篭ってしまうかもしれない、そんな不安があった。
匡介さんも私が雷雨を苦手なのは知っている、だからと言って私から彼にどうしてほしいなんて口にしたことはない。
だから、いまさらこんな時は傍にいてなんて口に出すことも出来なくて……
「今夜は部屋で休まないのですか?」
どうしてこんな自分の気持ちと反対の言葉ばかりが出てくるのだろう? 本当に言いたいのはここに居てくれてありがとう、なのに。
「ああ、もうしばらくはここに居る。今日はまだやり残した仕事があるんだ、遅くなりそうだが君はどうする?」
匡介さんは私に部屋に戻るか彼の傍にいるのかの選択肢をくれる、いつもならば杏凛は先に休みなさいというはずなのに。
……今夜はまだ二人でいてくれるってこと?
「では、もう少しここに。私、コーヒーを淹れてきますね?」
「ああ、頼む。杏凛、君の分も用意してきなさい。少しの時間でいいから眠くならないように俺の話し相手にでもなってくれ」
「……はい」
匡介さんがそんな事を言うなんて珍しい、仕事の話も私相手にはほとんどしたことなんてないのに。
私は丁寧に二人分のカップにコーヒーを淹れると、少しのドライフルーツやチョコレートと一緒にトレーに乗せてリビングへ。
甘いものが好きな匡介さんにはこうやって、摘まめるようなお菓子を出すようにしている。一度そうした時に、彼の口角が僅かに上がった事に気付いたから。
「ありがとう、俺は杏凛が淹れてくれるこのコーヒーを飲むと作業が捗るんだ」
テーブルの置いたコーヒーのカップをチラリと見て、匡介さんは私とは視線を合わせないままそう言った。
もしかして私にそう伝えることに照れているのだろうか、匡介さんは。そんな無理しなくてもいいのにと思う反面、言葉にしてくれて嬉しいとも感じてしまう。
「そうなんですね、私の淹れるコーヒーで よければ何杯でもどうぞ」
「ああ、君も早くソファーに座るといい」
匡介さんにそう言われて、私も彼から少し間を空けてソファーへと腰を下ろした。リビングのソファーは二人で座っても十分な余裕がある。
それでもこうして二人だけで座るのは、少し彼を意識してしまう。匡介さんの方は何も気にせずタブレットの捜査に集中しているようだけど。
「雨、強くなってきましたね……」
音楽やテレビもほとんどつける事が無い私達、シンとしたリビングに響くのは先ほどよりも勢いを増した雨音だけ。
「そうだな、もうすぐ雷雨になるんだろう。早めに仕事を切り上げておいて正解だった」
さして喜んでいるとは思えない感情の読めない話し方だけど、それももう慣れている。こうして早く帰ってきてくれただけでも今の私には有り難かった。
「雷雨……」
自分が雨や雷が苦手になった理由を覚えてはいない、昔はそうでなかったはずなのに気付いたらもの凄く恐怖を感じるようになっていた。
「不安を感じているなら俺が君の傍にいる、だからそう心配しなくていい」
「匡介さん……」
当たり前のようにそう言ってくれるのは、身内と匡介さんくらいかもしれない。でも本当にこの人の優しさに全部甘えてしまってはいけない。
私たちは……今はまだただの契約夫婦のはずだから。
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