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契約結婚でも変わる努力を
契約結婚でも変わる努力を7
しおりを挟む次の朝、匡介さんはいつもと変わらず早くに家を出て仕事場へと向かう。私はそんな彼の様子を部屋の壁を一枚隔てて窺っていた。
昨日の今日だから、匡介さんから何か言ってくるかもしれない。そしたら私もちゃんと謝って……なんて、そんな私の考えは甘え過ぎだと反省するしかなかった。
「喧嘩ですか? いったい、またどうして」
結局自分一人で解決できず、こうして相談に乗ってくる寧々に頼ってしまう。私は昨日会った出来事を、丁寧に寧々に説明してみせた。
しかし寧々は送り主の分らない手紙と天然石の話になると、普段見せないような険しい表情になって……
「私は旦那様の言うことに賛成ですね。この事は彼に任せて、杏凛様はなるべく私や旦那様の傍にいるべきです」
「寧々まで、どうして……」
匡介さんも寧々も私の知らない何かに気付いていて、そうして私にだけそれを隠そうとしているみたい。
何も話せないという姿勢はどちらも同じで、それ以上はいくら頼んでも寧々は私の質問には答えなかった。
匡介さんと結婚するまでも、私は実家でかなり過保護にされてきた。でもそれはずっと私が病気だからだとばかり思っていた。
でも、もし何か違う理由があるのだとしたら、それはいったい何なのだろうか? この日も不安な気持ちを抱えつつ、ただじっと匡介さんの帰りを待った。
今日に限って寧々が一緒に匡介さんの帰りを待っていると言ったが、今夜は雷雨だと天気予報は言っていたので無理やり帰ってもらった。
今夜が雷雨なら、匡介さんと話をするのは難しいかもしれない。私は前からどうも雨の音や雷が苦手だから。
昼間は明るかった空も、夕方くらいには曇り空に代わり今はもう真っ暗だ。匡介さんは何時頃帰ってくるだろう? 今夜も昨日のように部屋に一人にされたくない……
そんな私の気持ちが彼に通じたように、玄関の扉の開く音がした。
私は椅子から立ち上がり、急いで玄関へ向かう。いつの間にか雨が降り出していたらしく、匡介さんはハンカチでスーツの水滴を拭っている。
「匡介さん、おかえりなさい。もう降ってきたんですね、お風呂に先に入りますか?」
「ああ、そうさせてもらう。悪いが鞄を書斎に持っていってくれ」
そう言って鞄を差し出すと。匡介さんはさっさとバスルームへと行ってしまった。私は鞄を書斎に運んだあと、彼の着替えを用意し脱衣所へと置いておいた。
「……着替えの用意をありがとう、杏凛は入らなくていいのか?」
しばらくしてリビングに入って来た匡介さんにそう聞かれる。私はグラスにミネラルウォーターを注いで彼に渡しながら
「はい、これから入らせていただきます」
とだけ答えておいた。窓からは少しずつ強くなっていく雨音が聞こえる、早くお風呂を済ませておかなかった事を後悔していた。
その後、私はビクビクしてお風呂に入りゆっくり湯船につかる事もせずリビングへと戻っていった。
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