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契約結婚に希望を見つけて
契約結婚に希望を見つけて7
しおりを挟む「なんだ?」
そう言った匡介さんはいつも通りで、私が馬場さんから彼の秘密を見せてもらっているなんて思いもしないのでしょう。
いざ聞こうとすると、何と言って切り出せばいいのか分からない。せっかく馬場さんが二人で話す時間を作ってくれたというのに。
「その……ずっと疑問だったのですが、どうして匡介さんは私と結婚しようと思ったんですか? きっと貴方なら私よりももっと魅力的な女性が紹介されていたはずなのに」
鏡谷コーポレーションの御曹司で、強面ではあるが決して容姿は悪くない。それに真面目で仕事熱心な彼なら、引く手数多に違いないのだから。
それなのに決して仲の良いとは言えない幼馴染、そんな私を匡介さんはどうして……?
「あの時、君が義祖父の会社の事で悩んでいたのを知ったから」
「そんな理由で、私と結婚を……?」
確かに彼は幼馴染として出来る事と、妻に対して出来る事は違うと言った。それでもあの時はまだ、匡介さんが私と結婚するほかのメリットがあるのだとばかり思っていたのに。
私の祖父の会社の立て直しなど、彼にとってメリットなど有りそうにない。それでも私を助けるためだけに、彼は結婚という形を選んでくれたのだろうか?
「そんな理由なんて事は無い。少なくともそれがきっかけで、俺はこうして杏凛の傍にいることが出来ている」
どこまでも真っ直ぐに見つめてくるこの人の言葉に嘘は無いのだと思う。言葉少ない彼がこうして語ってくれる本音はいつも私の胸を温かくさせるものばかりなの。
匡介さんの心の内を聞くたびに、二人の関係に少しずつ希望が見つかっていくような気がしていた。
「そうなんですね、匡介さんは最初からそう思ってくれてるの……」
素直にその言葉を受けとれば、今までの不安が吹き飛んでしまうのではないかと思うほど嬉しかった。私は思ってたよりもずっと匡介さんの中で特別な存在なのかもしれないから。
「ああ、そうだ。それで、杏凛は他に聞きたいことがまだ何かあるんだろう? 馬場が気を使って戻ってこないから、今のうちに何でも聞くといい」
気付いていないのかと思っていたけれど、もしかしてパスケースの事を言っているの? 確かに気になってはいるけれど、本当に聞くべきなのか分からない。
彼の気持ちはあのパスケースに隠された写真で十分すぎるほど理解出来た。それで私はこんなに心が温かいのだから。
……それに、もし匡介さんに「愛してる」と言われても私にはまだ答えが出せてない。
彼に座らせてもらったソファーから立ち上がり、窓の外の景色をゆっくりと眺める。インコの鳴き声が時々聞こえ、小動物と暮らす生活も悪くないなんて思う余裕まで出てきた。
「大丈夫です。もう答えをもらってるのに、もっと欲張ろうとしちゃっただけですから」
「そうなのか?」
私の言っていいる事がよく分からないという表情の匡介さん。だけど、今はこれでも二人の関係は充分よくなっている気がする。
「ふふ、これから赤ちゃんインコとの生活も楽しみですね」
「ああ、そうだな」
ちょっと苦手な笑顔を頑張って作って匡介さんにそう話せば、彼も黙って頷いてくれる。
これでいい。焦る気持ちが無いわけじゃないけれど、これが私たちのスピードなのだから。
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