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契約結婚から新しい挑戦を

契約結婚から新しい挑戦を3

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「小学生の塾の送り迎えじゃあるまいし、料理教室くらい私一人でも通えます!」

 そうでなくても徒歩で行けるほどの距離しかないのに、何のために匡介きょうすけさんまでついて来る必要があるというのか? そんな私の戸惑いも気にせずに、匡介さんは「着替えてくる」とだけ言うと寝室へと消えてしまう。
 時々だけど……彼は私の意見をまるで聞いてくれない時があるという事を知った。

「なんなの、本当に……?」

 そんな私の小さな呟きは誰にも拾われることもないまま消えていく。私はまだ匡介さんの事を少しも理解出来ないままで……
 私達の関係はこれでいいような気もするし、このままでは全然ダメな気もする。そうやって、ぐるぐる同じところを回っているだけ。

杏凛あんり、待たせてすまなかった。さあ行こうか?」

 本当についてくる気満々の匡介さんを見て、私もつい嫌な顔をしてしまいそうになる。そこまで過保護になられても私は少しも嬉しくないんですけど。

「本当についてこなくていいんですよ、私は一人でのんびり歩いて行けますんで」

「ああ、俺も外を歩きたい気分だったから丁度いい」

 わざわざ早く帰って来て、散歩がしたいなんて全然匡介さんらしくありません! 私はわざとゆっくり歩いたり、速足で進んでみたりしたけれどピタリと隣を歩く彼を遠ざけることは出来なかった。




 何度一人で平気だと言っても、私の隣から全く離れてくれない匡介きょうすけさん。彼が私の事を心配している事は知っていたが、これは流石に度が過ぎるのでは?
 それともこれが普通の夫婦のあるべき形なのか、箱入りの自分には分からない。そんな事を考えているうちに、目の前に料理教室のビルが見えてきてしまって……
 私はもう一度、匡介さんに少しっ強い口調で自分の思っている事を言ってみる。

「どうしていつもそんなに過保護なんですか! 私が行くのはただの料理教室なんですよ?」

 こんな場所で大きな声を出しては周りの人からジロジロ見られることになる、それでも匡介さんは気にする様子もなく淡々と私の質問に答えてくる。
 もちろんそれは私が望むような返事ではなくて……

「確かに俺は君が料理教室に行く事には許可を出したが、一人で通ってもいいとは言っていないはずだ」

 この年齢でまさか習い事に夫がついて来るなんて思う訳がないでしょう? そう思っていたのなら最初から言ってくれれば、私だって申し込むのを止めたかもしれないのに。
 紹介してくれた寧々ねねの事を考えると、今更入会を取り消しますとは言えそうにない。

「そんなのはこじつけです! 匡介さんこそいつも深夜までやっている仕事はどうしたんですか?」

 確か匡介さんは今日の仕事を終わらせてきたとは言っていたけれど、責任ある立場の彼が定時で帰って来ては周りの社員も困るのではないかしら?
 そりゃあ、真面目なこの人がそんな無責任な事をするとも思えないけれど……
 

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