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契約結婚の優しさに触れて
契約結婚の優しさに触れて10
しおりを挟む「謝る必要はない、俺はただ自分の考えを杏凛に知って欲しかっただけだ。そして……俺も君の考えている事を知りたいと思っている」
「私の考えている事を、ですか……?」
匡介さんが怒っても仕方ない発言ばかりなのに、彼は決して私を責めようとはしない。それどころか彼はそんな私の事を理解しようとしてくれる。
彼のこの言動は、本当にただの契約妻に対してのものなの? もしかしたら何か他に理由があるのかもしれない、どうしてもそうやって後ろ向きに考えてしまう。
それなのに……
「ああ、もっと杏凛の事を知りたい。君がどうすれば笑ってくれるか、どうすれば沈んだ顔をさせずに済むのか……どうすれば俺を頼ってくれるのか、色んなことを君から聞きたい」
かあああっと一気に顔が熱くなってくるのが分かった。今のはいったい何、匡介さんは何を考えてこんな事を言うの?
私を笑わせたい、私の沈んだ顔が見たくない。そして私に頼って欲しい、なんて……それじゃあまるで私を本当の妻のように扱いたいと言っているみたいじゃない。
「杏凛、どうした? 少し顔色が……もしかして熱が出たのだろうか」
「……っ!」
そう言って再び伸ばされた手、動揺したままの私は匡介さんの手のひらから逃げるように身体を反らしてしまったのだった。
行き場の無くなったその手を匡介さんはしばらく見つめていたが、小さな溜息をついてそのまま引っ込めてしまう。どう考えても今のは私が悪い、それなのに……
「悪かった、杏凛が俺に触れられたくないことくらいちゃんと理解している」
どうしてそんな事になるの? 私が言ってもいない事をそんな風に勝手に決めつけないでよ。匡介さんが私を混乱させるような事ばかりをしてくるからこんな態度になるのに。
「違います、今のは……匡介さんが、あんなことを言うから」
これでも私は、彼に触れられたくない訳じゃないと伝えたつもりだった。だって本当に彼が私に触れて嫌だと感じたことは無いのだから。
「分かってる、俺の言葉はいつも君に嫌な思いをさせている。次からは気を付けるから……」
「だから、そうじゃないって言ってるんです!」
話し途中の匡介さんを黙らせるように、普段出す事の無い大きな声で言葉を被せる。こんな風に匡介さんばかりに気を使わせたいわけではないし、彼の言葉で嫌な思いもしていないのだから。
「杏凛、君もそんな大声を出すことがあるんだな」
驚くところがズレているのが、やはり匡介さんらしい。だけどそんなところも嫌いだとは思わなかった。
だからと言って特別な意味で好きだとも言えないのだけど。
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