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契約結婚の優しさに触れて

契約結婚の優しさに触れて3

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 なんとなく今は匡介きょうすけさんの顔を見ることが出来なくて、シーツを被った状態のまま壁側を向いてしまった。どうしていつも、彼に対してこんなに可愛げのない態度を取ってしまうの?

杏凛あんり、もう少しすれば主治医の鵜方うがた先生が来てくれるそうだ」

「わざわざ先生にお願いしたのですか? こんな事くらいで大げさな……」

 普段の私なら発作が起きた程度ではわざわざ主治医を呼ぶ事などしない、それは結婚前に匡介さんにも説明したはずなのに。
 
「君はそう言うかと思ったが、新しい生活を始めたばかりなんだ。用心して診てもらっておくに越したことは無い」

 確かに今までと違う環境や匡介さんの存在、それが私の精神状態を大きく変化させてくるのは事実で……
 この結婚で私は迷惑かけないように生活することだけを考えていたのに、この身体も心も思い通りにはいかない事が悔しい。

「……迷惑をかけてすみません」

「杏凛はいつもそればかりだな、俺に謝る必要はないと何度も言っているのに」

 確かにいつもいつも自分が謝らなければいけないことが多すぎて、匡介さんにはそう感じるのかもしれない。だからと言って何度そう言われても、ただ一方的に彼に甘える事なんて出来るわけもない。
 私はこの結婚生活で匡介さんに与えられるものなど何一つないのだから……




「俺が迷惑だと思ってないのだから、君が気にする必要もない。この結婚で俺の存在が杏凛あんりの負担になっては意味が無いんだ」

 迷いのない匡介きょうすけさんの言葉に、自分はもしかしてこの人に大切にされているのではないかと錯覚しそうになる。この結婚生活においてお荷物でしかないはずの私に、彼はそんな態度を一切見せる様子はなかった。
 確かに強引な一面もある、だからと言って匡介さんは私の意見を全く聞いてくれない訳じゃない。彼は私を自分と対等なのだと、何度も態度で表してくれる。

「でも、私は……」

 そう簡単に気持ちを変える事なんて出来ない。周りの人からだって、鏡谷かがみやコンツェルンの御曹司は行き遅れのお嬢様を妻にしたと散々言われている事も知っている。
 結婚の相手が私さえでなければ、そう思わずにはいられない。
 それなのに、私よりもその事を耳にしているはずの匡介さんは……

「これからの結婚生活で、杏凛はそうやって俺に「すみません」ばかりを聞かせるつもりなのか? 俺だって妻から聞く言葉はすみませんよりもが良いんだが」

 この結婚に何の迷いもなかったような態度のまま。やはり約束の期間が終わるまで、この結婚生活を続ける気持ちに変わりはない事を伝えてくる。

「匡介さん……」

 彼の言う通り、私だって貰う言葉はすみませんよりありがとうの方がずっといい。そうやってこの人は私が持っている彼に対しての罪悪感を少しでも減らそうとしてくれてるの?


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