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契約結婚の優しさに触れて
契約結婚の優しさに触れて
しおりを挟む「……っつ! はあっ……はっ、う……」
上手く息が出来ない、酸素を吸っても身体がうまく取り込めないかのように喉がヒュッヒュッと音を立てる。目の前がグルグルと周り、頭の中でぐわんぐわんと大きな音を鳴らされてみたに感じる。
……これが初めての事ではないけれど、何度経験しても慣れることは出来そうにない。せめて苦しんでいる表情を匡介さんに見せないようにしなくては、と身体を丸めて顔を隠そうとしたのだけど。
「杏凛! そんなに下を向かないでくれ、余計に息が苦しくなるかもしれない」
匡介さんは立ち上がり私の隣に来ると、その大きな手でそっと俯いていた顔を上げさせてしまう。発作の苦しさもあってか彼の手を振り払う事が出来ず、私はその表情も簡単に彼に見られてしまって。
夫婦として一緒に暮らしていれば、遅かれ早かれこういう状況になる事は分かっていたのだけど……それでもやはり自分の苦しむ姿を見られたくない気持ちはあった。
私にはまだ契約という形でしかない結婚相手の匡介さんに、弱い自分をさらけ出すだけの覚悟は無かったの。
「だい、じょうぶ……ですからっ……はっ、あ……だから」
途切れ途切れの言葉は匡介さんにうまく伝わらないかもしれない、それでも自分に気を使う必要なんてないと伝えようとしたの。
でもその瞬間、彼の手が椅子と私の身体の隙間に差し込まれて……
「え? あ、きゃ……っ!?」
匡介さんはそのまま私を軽々と抱き上げると、会計を済ませてスタスタと店の外へと歩き出してしまう。私は発作の苦しさもあって、そんな匡介さんの胸に甘えるようにしがみついてしまって……
「そうだ、君はそうしていると良い。すぐに楽になれる場所に連れて行く」
匡介さんはそんな私に優しい言葉をかけて、この身体を抱く腕に力を込めたようだった。本当はお礼の一つも言うべきなのにそれも出来ず、彼の腕の中で荒い呼吸を繰り返していた。
どこに行こうとしているのか、匡介さんの歩くスピードは速い。それでも彼は私に負担がかからないように丁寧に運んでくれているのが分かる。
「きょ、う……けさん、あの……」
「杏凛、今は無理をして話そうとしなくていい。だから、こんな時くらいは夫の俺を頼ってくれないか?」
すぐ傍から聞こえてくる低い声は真剣そのもので、心の奥をじんわりと温めていくように感じる。こうして優しくするのに、昨日は一晩中私を一人にしていたり……ねえ、貴方は私をいったいどうしたいの?
思いやりが嬉しい気持ちもあるけれど、彼に対する隠しきれない不安も同じようにこの心の中にはある。
そんな余計な考え事をしてしまったせいか乱れた呼吸はなかなか整ってくれず、私はただ匡介さんの広い胸に顔埋めている事しか出来なかった。
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