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契約結婚が想像と違います
契約結婚が想像と違います7
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匡介さんはそんなに簡単に言うけれど、私はそんな気楽に考えることは出来ない。仕事を頑張っているのは匡介さんで、私は彼の用意してくれた家でのんびりしているだけ。
せめて何かの役に立てていれば、少しくらいの我儘は許されるのかもしれないけれど。
「杏凛は難しく考えすぎだ。君がもっと使いたいというのならば、俺が仕事を増やせばいいことなんだぞ」
「冗談はやめて? 私は匡介さんにそんな事望んでませんから」
彼が言うと本気なのか、そうでないのかの区別もつかない。鏡谷コンツェルンの次期社長でもある彼の仕事量は少なくはないはず、それなのに匡介さんはこんな事を当たり前のように口にしてくる。
私が匡介さんにして欲しいのはそんな事じゃないのに、この心の中は少しも彼には伝わらない。
「やはり君は優しいな……」
しみじみとそんな事を言う匡介さんは、どこかズレてるのではないかと思ってしまう。両親からはずっと、仕事もバリバリできる有能な人だと聞いていたのだけど。
「私は優しくなんて……」
「優しいさ、杏凛は。子供の頃からずっと」
ふっと彼の口角が僅かに上がった事に気付く。それだけで強面の彼がずっと柔らかな雰囲気になるにだと知った。
……いま、彼は何を想像して微笑んだの? もしかして小さい頃の私だったり、なんて考えて首を振る。
そんなはずはない、私はずっと匡介さんに睨まれていたのだから。
「そうだ、君は服も少ししか持ってきていなかっただろう? 俺の知り合いが経営している店がこの近くにあるから、そこに行こう」
「ええっ? ちょっと待って、匡介さんっ」
そう言って彼は私の手を掴んで当然のように引っ張っていく、いきなり強引になる匡介さんに私は戸惑うばかりで。
確かに私は新居にあまり荷物を持っては来なかった。だけどそれはこの結婚が短い期間だけを共に過ごすという事と、自分が滅多に外に出ないため必要ないからで……
それに普段からそう高い服ではなく、着心地の良い値段もリーズナブルなものを選んで買っているくらいなのだから気が引ける。
「あの……匡介さんに服を買ってもらっても、私には着る機会もありませんし」
私の言葉に目の前のブランドショップに入ろうしていた匡介さんがピタリと足を止める。
良かった、分かってくれたのだと私は思ったのだけど……
「何故だ? 服ならば杏凛が俺と出掛ける時にいくらでも着ればいい。それとも自分の妻を着飾らせたいという夫はおかしいのか?」
匡介さんに真剣な表情でそう聞かれてしまい、返答に困ってしまう。
確かに普通の夫婦であればおかしなことではないと思うけれど、私達は契約で結ばれただけの関係なのだから。
せめて何かの役に立てていれば、少しくらいの我儘は許されるのかもしれないけれど。
「杏凛は難しく考えすぎだ。君がもっと使いたいというのならば、俺が仕事を増やせばいいことなんだぞ」
「冗談はやめて? 私は匡介さんにそんな事望んでませんから」
彼が言うと本気なのか、そうでないのかの区別もつかない。鏡谷コンツェルンの次期社長でもある彼の仕事量は少なくはないはず、それなのに匡介さんはこんな事を当たり前のように口にしてくる。
私が匡介さんにして欲しいのはそんな事じゃないのに、この心の中は少しも彼には伝わらない。
「やはり君は優しいな……」
しみじみとそんな事を言う匡介さんは、どこかズレてるのではないかと思ってしまう。両親からはずっと、仕事もバリバリできる有能な人だと聞いていたのだけど。
「私は優しくなんて……」
「優しいさ、杏凛は。子供の頃からずっと」
ふっと彼の口角が僅かに上がった事に気付く。それだけで強面の彼がずっと柔らかな雰囲気になるにだと知った。
……いま、彼は何を想像して微笑んだの? もしかして小さい頃の私だったり、なんて考えて首を振る。
そんなはずはない、私はずっと匡介さんに睨まれていたのだから。
「そうだ、君は服も少ししか持ってきていなかっただろう? 俺の知り合いが経営している店がこの近くにあるから、そこに行こう」
「ええっ? ちょっと待って、匡介さんっ」
そう言って彼は私の手を掴んで当然のように引っ張っていく、いきなり強引になる匡介さんに私は戸惑うばかりで。
確かに私は新居にあまり荷物を持っては来なかった。だけどそれはこの結婚が短い期間だけを共に過ごすという事と、自分が滅多に外に出ないため必要ないからで……
それに普段からそう高い服ではなく、着心地の良い値段もリーズナブルなものを選んで買っているくらいなのだから気が引ける。
「あの……匡介さんに服を買ってもらっても、私には着る機会もありませんし」
私の言葉に目の前のブランドショップに入ろうしていた匡介さんがピタリと足を止める。
良かった、分かってくれたのだと私は思ったのだけど……
「何故だ? 服ならば杏凛が俺と出掛ける時にいくらでも着ればいい。それとも自分の妻を着飾らせたいという夫はおかしいのか?」
匡介さんに真剣な表情でそう聞かれてしまい、返答に困ってしまう。
確かに普通の夫婦であればおかしなことではないと思うけれど、私達は契約で結ばれただけの関係なのだから。
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