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第一章

第二話

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「フリート・シントール。シントール伯爵家の長男です。どうぞよろしくおねがいします」

 パラパラと起こる拍手。目立って大きいのは教室の隅に座るラングのそれだ。

ーーうん、何とも印象に残らない自己紹介だ。まあ目立たず普通に過ごせれば良いわけだからなんの問題もないけれど。

 主人公がいる1-Aはともかく、フリートの所属する1-Bには大した生徒はいない。皇子や公爵令嬢なんてのは粗方A組に纏まっているのだ。それには学園側の思惑というものがある程度あるのだろう。なにせ生徒のレベルをある程度分けられれば教育のカリキュラムは作りやすい。
 だが、何にでも例外は存在するわけで。

「リーク帝国第二皇子、ビハイム・ルフト・リークだ。……このクラスには王爵や公爵はおろか、侯爵もおらんようだ。よって、フリート・シントールとラング・ハイナ。貴様らに私の側に控えることを許す」

 第二皇子、ビハイム。第一皇子とは双子の兄弟であり、ほんの数秒の差で次期皇帝の座を奪われた者でもある。
 本来なら皇子はA組に配属されるのが通例だが、Aには既に第一皇子が配属されている。兄弟が同じクラスになることは無い。これは公式的に定められた原則なのである。よって彼はBに配属されることとなり、上位貴族の少ないBの中では上位となるフリートとラングを取り巻きとして指名したのだ。
 最も皇子の取り巻きと言ってもここは所詮学園である。皇子のお側仕えと言えば聞こえはいいが、要は体の良いパシリ。そしてパシリにされた上位貴族の子女は関係の深い下位貴族にそれをさせることとなる。

ーーそんなクソみたいなことで領地近隣の貴族と関係悪化させてたまるかよ……! 俺は将来的にお気楽領主でありたいんだ。そんな問題なんて抱えたくない。

 だが実際問題、これを断ることは非常に難しい。なにせ相手は皇族、それも分家ではない本家の人間だ。将来的には分家となる第二皇子の身分とはいえ、今は言うなれば「皇帝の位に二番目に近い男」である。仮に第一皇子が病死した場合は彼が第一皇子となるし、そうでなくとも有力貴族の大多数から支援されれば皇帝の位に十分立つ事が出来るのだ。
 謂わばこれは「お前ら俺と道連れな? 皇帝になったら良い官職あげるから働けよ?」という命令である。

 まあ実際の所派閥に入らせる程の強制力はないのだが、側仕えをすることは断りづらい。そして側仕えをしていることを周囲に見せつけることで、周囲は勝手に派閥に入ったものだと思い込むだろう。実際は違ったとしても周りからはそう見えるし、少なくとも第一皇子側からの心象は悪くなる。

 そしてそれとは別に、フリートにはどうしても断りたい理由があった。

ーーこの世界が本当にゲーム通りにストーリーを進むんだとしたら、アイツに関わるのは絶対に回避しなきゃいけないんだよな。本当にアイツ側だと思われるのはシャレにならん。

 理由を語るには、『revolues』のストーリーについて話す必要がある。
 『revolues』は帝国の革命の話だ。そして革命がおこるには何らかの直接的な原因が当然存在する。長年の鬱憤があったとしても、それを爆発させるものというのがあるのだ。
 ゲームにおいて革命が起きるのは、主人公が二年生になった秋の、とある事件がきっかけである。
 そう、その事件の中心人物こそが第二皇子なのだ。
 秋に存在する収穫祭。学園でも当然祭が催されるのだが、その中で第二皇子が婚約者である公爵令嬢に向かって婚約破棄を告げることで事件は始まる。皇帝から第二皇子は叱責され公爵家には多額の賠償金がされたが、それだけで解決するのを良しとしない者たちが現れたのだ。それは、第二皇子派閥にいた者達。特に、中心メンバーの一部であった中位貴族たちである。
 上位貴族ならともかく、中位貴族など代えが効くような存在だ。公爵の後ろ盾を自ら放棄した第二皇子の皇帝継承の可能性がゼロに等しくなった以上第二皇子派閥であった彼らは確実に中央から遠ざけられる。それを忌避した一部が暴走し、彼らは婚約破棄をされ恥をかかされた公爵を巻き込み事件を内乱にまで発展させてしまう。
 降伏した旧王族などを巻き込んだ長期内乱になったそれによって民衆の生活は悪化。そこに革命の聖女と呼ばれる少女が登場したことで革命勢力という第三勢力が誕生することとなる。

 と、説明は長くなったが、ともかくゲームにおいて第二皇子がそれ以降登場することは無い。彼は事件を起こした責任者として処刑されてしまうからだ。

ーーそんな奴の側仕えなんか怖くてできるかよ。巻き込まれたら最悪処刑だぞ!? しかし、どうやったら断れるんだ……?

 皇族のお言葉という高すぎる壁にぶち当たり頭を抱えることになるフリートだが、そんなことなど気にも留めずビハイムは何事かを偉そうに話し着席する。

「うむ。では、次の人は立ってくれ」

 ジン先生も若干適当さが滲んだあしらい方をしながら次の人を立たせる。立ったのは丁度フリートの隣に座る子爵令嬢だ。

「カノン・レイレットです。よろしくお願いします」

 どうやらより短い自己紹介をした人がいたらしいと、フリートが思わず顔を見つめる。

ーー流石は貴族と言ったところか。凄く可愛い顔してんな。 ……いや、今はそんなこと思ってる場合じゃない。どうやったら逃れられるか考えんとな。取り敢えずこれ終わったらラングと話してみるか。

 そのラングは先程からずっと苦笑を頬に張り付けたまま固まっている。

ーー多分、面倒臭すぎてフリーズしてんな。アイツは考えんの嫌いだったし。

「はあ……」

 いきなり危機が訪れ、思わずため息が漏れるフリートなのであった。
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