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第3章。交差する運命
グラム誘拐計画
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テーブルの上にある小瓶を見て息を飲む。もしコレを纏い戦となれば、理性のタガが外れた獣人に人族は蹂躙されてしまう。
「今、無効化する物をルガーダ様が作っておいでですが、正直間に合うかは分かりません」
エイヴさんの説明にマルク兄さんが席を立つ、
「ルナ、シャドに会いに行くぞ。奴なら何か知っているかも、全て話してもらう」
「でも! 正面からでは会えない…」
ガチャ… 静かな部屋に扉が開く音が響き、入ってきたのはラルフさんとルガーダさんだ。
二人は私を確認すると近付きラルフさんが背中から肩へ手を置き耳元に唇を寄せた。
カッと頬が熱くなり、固まる私へ。
「二人で話がしたい」
その声は甘さなど無く、思いつめたような声で私もスッと表情を改めた。
「この二人は今から別行動するわ。マルクは私と共に研究室へ、あとの皆は引き続き情報を集めて。
ほら、爺さんも行くわよ、マルク! 担いで着いて来て」
「担ぐって。まぁいいか、爺さん行くぞ」
「自分で歩けるわぃ」
ガヤガヤして三人は出て行き、私はラルフさんに連れられ違う部屋へ来た。
ずっと背中を向けていたが、部屋の扉を閉めると向き直ったラルフさんの表情は固い。
「香水の話しは聞いたか?」
「はい。ルガーダさんが今、無効化する物を作っていると」
手を引かれソファへ並んで座ると膝に置いた手へラルフさんの手が重なりびっくりして顔を上げると瞳が交わる。
「明日、グラムを誘拐する」
「...? 今、何て?」
意味が分からずラルフさんをじっと見返すと何故か大きなため息を吐かれた。
「あのルガーダって人が何を考えているか全く理解出来ない。ルナを囮にしてグラムを誘拐する。反対したがそれなら作戦に参加させないと言ってきた」
「私が囮? すみません。最初から話してもらっても」
入口で別れてから、ラルフさんはルガーダさんと話し合いをしていた。
「ラルフにはルナの護衛をして欲しいの」
ルガーダさんから席に座るよう促され、対面に座って放された最初の言葉に今更何を言うかと、席を立とうとした時。真後ろに気配無く現れた何者かに肩を掴まれ立ち上がる事が出来なかった。
「へぇ、この男がグラム様の大切な姫を拐かした者? あまりに抜けててこんなんじゃ足手まといになりますよぉ」
「サハ、私の指示に従わないなら契約は無効よ」
肩から手を離し、一歩後ずさる。振り向けば小柄で華奢な黒ずくめの少年が軽く両手を上げニヤリと笑っていた。
「紹介するわ。彼はサハ、グラムの影よ。彼がグラムの所まで案内するからルナとラルフはグラムを誘拐して欲しいの」
ルガーダさんの話しの意図が分からず、じっと次の言葉を待っていると、
「おばさん、コイツ分かって無いよ。うーん、簡単に説明するとボクはグラム様を裏切ったんだよね。んで、そこのおばさんに取引を持ちかけたんだ。
ボクはね、グラム様を死なせたくない、だからグラム様の代わりにクソムカつく奴らを殺してくれる人を探してたって訳」
隣に座りつらつら話す少年は、悪びれる事無く話しだした。
「正式に裁かれなけばならないと言ったの、それは何度も説明したはずよ」
「ハハ! 奴らがもし平民になったら今までの恨みでなぶり殺しされるだろうね」
「一体、何の話しだ」
要領の得ない話しを続ける2人へ視線を向ければ、サハはプイッと横を向き足を組む。
「そうね。最初から話すわ」
ルガーダさんが俺に向き直り、真剣な顔つきになった。
この場所に着いた夜。深夜にサハが部屋に現れたそうだ。
敵意は無いと言い、一枚の紙と小瓶を渡してきた。
グラムが作った香水の小瓶、その作り方と効能について事細かく書かれていた紙。
何故、持って来たかを聞くと、グラムの計画を止めて欲しい。その代わり小瓶と紙は渡すと、
グラムの計画。
人族と獣人族の戦争を利用して、両族にいる闇取引をしている奴らを殺しアンドリュー、メラン公爵の暗殺。第二皇子フレデリックを皇太子にして、元龍王のインセルノ、番アリアの首を獣人国へ献上。
そしてフレデリックの妻にルナを迎える。
「グラムの考えは、過激だが平穏を求めていると?」
「グラム様はさぁ、自分が全ての罪を被るつもりなんだよねぇ。元々、ちゃんと取締り出来なかった王家や獣人国が悪いのに、姫の為だってよ。
グラム様以外が何人死のうとボクは関心無いけど、グラム様が死ぬのは我慢出来ないんだ」
どこから取り出したのか、ナイフをクルクル回しながらヒョイっと投げれば壁をに止まっていた蛾を仕留める。ニヤリと笑い俺を見る姿は見下していると一目で窺い知れた。
「それで何故、誘拐なんだ」
「んな事も分からないの? ねぇおばさん、やっぱり姫と二人で行くよ。コイツはきっとお綺麗な場所しか知らないんだよぉ、自分で考える事も無かったんだろうねぇ」
思わず胸ぐらを掴もうと手を伸ばす前に、スッと身を引き座っていた椅子を足で蹴り上げ避けようとした所で、背後から腕が回り首にナイフを突きつけられる。
「いい加減にしなさい!」
「だってさ」
「サハ!」
ルガーダさんに叱られ渋々ナイフを離すと、耳元でサハが告げた。
「グラム様をこちら側へ引き入れる為だよ。いくらボク達が守ろうとしても聞かないからね」
「ラルフ、聞いてちょうだい。グラムのやり方は間違っている、だけど目指す場所は同じなのよ。勿論、今までの事が無かった事にはならないけど、だからって助けを求める者を見捨てる事は出来ないわ」
「ルガーダさんの言っている意味は分かった。だが、ルナを連れて行く意味が分からない」
「本当に頭が悪いね。姫の為にグラム様が動いているんだ、姫が一緒でなければ例えキミでもグラム様には勝てない。何故だか分かる? キミは獣人だろ? そして人族がいくら強くてもグラム様には敵わない、獣人もグラム様の纏う香水で意識を操られてしまう。唯一、グラム様の心を揺り動かせるのはルナ様だけ、でも、ルナ様だけだと監禁されてしまうからね。
だからもう一人必要だと言ったらキミを連れて行けとおばさんに言われたのさ」
別室で話していた内容を聞き、私は怒りを覚えた。
「分かったわ、今すぐシャド兄さんを誘拐しましょ! 何が私の為よ、兄さんを犠牲にして私が嬉しいとでも思ってるなら大間違いよ!」
「さすが姫、そこの唐変木とは違うねぇ」
いつ来たかも分からず声のする方を見れば小柄な少年がにこやかに近付いて来た。
「あなたがサハさんね。兄さんは何処に居るの?」
「明日は貴族の夜会だよ、そこの唐変木と一緒に夜会へ行ってもらうね。大丈夫、仮面をつけるから姫だと気付かれない」
「サハ、約束を忘れるなよ。ルナが危ないと俺が感じたら作戦は中止する」
こうして、私とラルフさんは夜会へ出る為にサハさんが用意した屋敷へ向うのだった。
******
なかなか更新出来ず、申し訳ありません。
「今、無効化する物をルガーダ様が作っておいでですが、正直間に合うかは分かりません」
エイヴさんの説明にマルク兄さんが席を立つ、
「ルナ、シャドに会いに行くぞ。奴なら何か知っているかも、全て話してもらう」
「でも! 正面からでは会えない…」
ガチャ… 静かな部屋に扉が開く音が響き、入ってきたのはラルフさんとルガーダさんだ。
二人は私を確認すると近付きラルフさんが背中から肩へ手を置き耳元に唇を寄せた。
カッと頬が熱くなり、固まる私へ。
「二人で話がしたい」
その声は甘さなど無く、思いつめたような声で私もスッと表情を改めた。
「この二人は今から別行動するわ。マルクは私と共に研究室へ、あとの皆は引き続き情報を集めて。
ほら、爺さんも行くわよ、マルク! 担いで着いて来て」
「担ぐって。まぁいいか、爺さん行くぞ」
「自分で歩けるわぃ」
ガヤガヤして三人は出て行き、私はラルフさんに連れられ違う部屋へ来た。
ずっと背中を向けていたが、部屋の扉を閉めると向き直ったラルフさんの表情は固い。
「香水の話しは聞いたか?」
「はい。ルガーダさんが今、無効化する物を作っていると」
手を引かれソファへ並んで座ると膝に置いた手へラルフさんの手が重なりびっくりして顔を上げると瞳が交わる。
「明日、グラムを誘拐する」
「...? 今、何て?」
意味が分からずラルフさんをじっと見返すと何故か大きなため息を吐かれた。
「あのルガーダって人が何を考えているか全く理解出来ない。ルナを囮にしてグラムを誘拐する。反対したがそれなら作戦に参加させないと言ってきた」
「私が囮? すみません。最初から話してもらっても」
入口で別れてから、ラルフさんはルガーダさんと話し合いをしていた。
「ラルフにはルナの護衛をして欲しいの」
ルガーダさんから席に座るよう促され、対面に座って放された最初の言葉に今更何を言うかと、席を立とうとした時。真後ろに気配無く現れた何者かに肩を掴まれ立ち上がる事が出来なかった。
「へぇ、この男がグラム様の大切な姫を拐かした者? あまりに抜けててこんなんじゃ足手まといになりますよぉ」
「サハ、私の指示に従わないなら契約は無効よ」
肩から手を離し、一歩後ずさる。振り向けば小柄で華奢な黒ずくめの少年が軽く両手を上げニヤリと笑っていた。
「紹介するわ。彼はサハ、グラムの影よ。彼がグラムの所まで案内するからルナとラルフはグラムを誘拐して欲しいの」
ルガーダさんの話しの意図が分からず、じっと次の言葉を待っていると、
「おばさん、コイツ分かって無いよ。うーん、簡単に説明するとボクはグラム様を裏切ったんだよね。んで、そこのおばさんに取引を持ちかけたんだ。
ボクはね、グラム様を死なせたくない、だからグラム様の代わりにクソムカつく奴らを殺してくれる人を探してたって訳」
隣に座りつらつら話す少年は、悪びれる事無く話しだした。
「正式に裁かれなけばならないと言ったの、それは何度も説明したはずよ」
「ハハ! 奴らがもし平民になったら今までの恨みでなぶり殺しされるだろうね」
「一体、何の話しだ」
要領の得ない話しを続ける2人へ視線を向ければ、サハはプイッと横を向き足を組む。
「そうね。最初から話すわ」
ルガーダさんが俺に向き直り、真剣な顔つきになった。
この場所に着いた夜。深夜にサハが部屋に現れたそうだ。
敵意は無いと言い、一枚の紙と小瓶を渡してきた。
グラムが作った香水の小瓶、その作り方と効能について事細かく書かれていた紙。
何故、持って来たかを聞くと、グラムの計画を止めて欲しい。その代わり小瓶と紙は渡すと、
グラムの計画。
人族と獣人族の戦争を利用して、両族にいる闇取引をしている奴らを殺しアンドリュー、メラン公爵の暗殺。第二皇子フレデリックを皇太子にして、元龍王のインセルノ、番アリアの首を獣人国へ献上。
そしてフレデリックの妻にルナを迎える。
「グラムの考えは、過激だが平穏を求めていると?」
「グラム様はさぁ、自分が全ての罪を被るつもりなんだよねぇ。元々、ちゃんと取締り出来なかった王家や獣人国が悪いのに、姫の為だってよ。
グラム様以外が何人死のうとボクは関心無いけど、グラム様が死ぬのは我慢出来ないんだ」
どこから取り出したのか、ナイフをクルクル回しながらヒョイっと投げれば壁をに止まっていた蛾を仕留める。ニヤリと笑い俺を見る姿は見下していると一目で窺い知れた。
「それで何故、誘拐なんだ」
「んな事も分からないの? ねぇおばさん、やっぱり姫と二人で行くよ。コイツはきっとお綺麗な場所しか知らないんだよぉ、自分で考える事も無かったんだろうねぇ」
思わず胸ぐらを掴もうと手を伸ばす前に、スッと身を引き座っていた椅子を足で蹴り上げ避けようとした所で、背後から腕が回り首にナイフを突きつけられる。
「いい加減にしなさい!」
「だってさ」
「サハ!」
ルガーダさんに叱られ渋々ナイフを離すと、耳元でサハが告げた。
「グラム様をこちら側へ引き入れる為だよ。いくらボク達が守ろうとしても聞かないからね」
「ラルフ、聞いてちょうだい。グラムのやり方は間違っている、だけど目指す場所は同じなのよ。勿論、今までの事が無かった事にはならないけど、だからって助けを求める者を見捨てる事は出来ないわ」
「ルガーダさんの言っている意味は分かった。だが、ルナを連れて行く意味が分からない」
「本当に頭が悪いね。姫の為にグラム様が動いているんだ、姫が一緒でなければ例えキミでもグラム様には勝てない。何故だか分かる? キミは獣人だろ? そして人族がいくら強くてもグラム様には敵わない、獣人もグラム様の纏う香水で意識を操られてしまう。唯一、グラム様の心を揺り動かせるのはルナ様だけ、でも、ルナ様だけだと監禁されてしまうからね。
だからもう一人必要だと言ったらキミを連れて行けとおばさんに言われたのさ」
別室で話していた内容を聞き、私は怒りを覚えた。
「分かったわ、今すぐシャド兄さんを誘拐しましょ! 何が私の為よ、兄さんを犠牲にして私が嬉しいとでも思ってるなら大間違いよ!」
「さすが姫、そこの唐変木とは違うねぇ」
いつ来たかも分からず声のする方を見れば小柄な少年がにこやかに近付いて来た。
「あなたがサハさんね。兄さんは何処に居るの?」
「明日は貴族の夜会だよ、そこの唐変木と一緒に夜会へ行ってもらうね。大丈夫、仮面をつけるから姫だと気付かれない」
「サハ、約束を忘れるなよ。ルナが危ないと俺が感じたら作戦は中止する」
こうして、私とラルフさんは夜会へ出る為にサハさんが用意した屋敷へ向うのだった。
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