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第3章。交差する運命
宣戦布告
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1週間かかると言われた道のりを3日で進む事になり、かなり身体のあちこちが痛い。
「ルナ、大丈夫か?」
ランドルフさんが心配してくれたけど、獣人の国へ入る前に決めた事だから弱音なんて吐かない。
「本当ならランドルフさんと従者の二人で国へ帰ってくる予定だったのに。私が居るせいで日にちが余分に掛かったんだもの。
馬を休ませたら、早く行かなきゃ」
「ラルフだ。いつまでもランドルフさんと呼ばれるのは気に食わない。
あのアホなんか、俺の事を勝手にラルフ呼ばわりして」
「ん? まさかアホとは俺の事か?」
「お前以外に誰が居る? ちゃんとランドルフ"さん"と呼べよ」
「ハハ! じゃあ俺の事はマルク"様"と呼ばなきゃな。なぁラルフ」
マルク兄さんは私の気持ちを知っているからこそ、明るくしてくれているのよね?
順調に進む馬上から見る街の景色は、春だと言うのに窓を閉め、歩く人は少なく皆、何かに怯えている様に思えた。
小さな川を見つけ木陰で休む事にする。降り注ぐ太陽は眩しく、川へ足を入れるとひんやりと冷たく。雪解け水だろうか澄んだ水から魚が跳ねる。
「ラルフさん。春なのに通り過ぎる街はどこも静かで、これが普通なの?
じーじと暮らした村では、春は牧草地に家畜を連れて行ったり、農作業をしてたわ。
それとも、王都が近いと違うの?」
冷えきる前に川から出て振り向くと、目を反らされマルク兄さんと何か話始める。私も話に加わろうと近付くと。
「ルナは馬を見てきてくれないか?」
ラルフさんに言われてしまい渋々離れたが、マルク兄さんの声が僅かに聞こえた。
「じゃあ…… と…… か?」
「…… 場所に! …… 行く……」
私は聞いたらダメなのだろうか?
馬の首を撫でながら、チラリと二人を見るとマルク兄さんと目が合う。
「ルナ! お前も話を聞いておけ」
「今は必要ない! 余計な事を言うな!」
ラルフさんがマルク兄さんへ掴みかかる。慌てて間に入ろうと駆け寄ると、マルク兄さんもラルフさんの胸ぐらを掴んだ。
「お前の守るって意味は何だ! ルナに何も知らせず閉じ込めたいのか!」
「違う! 俺はルナを傷付けたくないだけだ! 何故分からん!」
「何の話? 私にも説明して!」
ラルフさんを突飛ばし、マルク兄さんが私の肩を両手で掴む。真剣な表情に私もじっと話を待った。
「人族が獣人の国へ宣戦布告した。元龍王インセルノと協定を結び、獣人の国を取り戻すと言っている。人族嫌いの獣人達は、王都へ向かっているらしい」
「ユーヴは戦争を望んでいない! 大丈夫だ。ルナが何かしなくても俺とユーヴが皆を説得する」
ふつふつと怒りが沸き上がる。近寄って頭に手を伸ばそうとしたラルフさんの腕を払いのけた。
「私には関係無い? バカにしないで! 誰も傷付いて欲しくない! その思いでここまで来たのよ!
守られるだけは、もう嫌! 私は皆を守る為に戦うわ。戦争なんてさせない」
「っ! ルナ」
踵を返し馬の所へ向かう。後ろからラルフさんの声が聞こえたけど振り反るつもりは無い。
「出ていらっしゃい。私を王都まで案内するのよ」
「ルナ、どうするつもりだ」
「マルク兄さんはヒァマーさんの所へ行ってルガーダさんからの手紙を渡して」
手紙をマルク兄さんへ頼み、馬の目をじっと見る。
「マルク兄さんをネコ一族の所へ連れて行って」
馬は私の言葉を理解してマルク兄さんが跨がると嘶きを上げた。マルク兄さんがニヤリと笑い手綱を握る、
「後で俺も行く! むちゃするなよ!」
走り去るマルク兄さんを見送ると、ラルフさんが隣に立っていた。
「ルナ… その力は…」
「分かりません。でも私の本能なのか動物には言葉が通じます。ラルフさんが馬に乗って下さい、私は彼らと共に王都へ向かいます」
私の後ろには、山で会った獣達がぞろぞろ出てくる。先頭に立つのはあの狼だ。
「俺は… ルナを守りたかっただけだ。すまない、お前の気持ちを無視してしまった」
項垂れたラルフさんは、そっと私の手を両手で包む。
「私もラルフさんを守りたい。一緒に戦ってくれますか?」
「ああ。共に行こう、戦争を止めるぞルナ!」
ふわりと抱き上げられ、馬に乗せられると後ろへラルフさんも乗った。
「どうなろうと俺はルナを守りたい。それだけは忘れないでくれ」
「私にもラルフさんを守らせて下さい。みんな行くわよ!」
狼達の声が響きわたる。人族が攻め込むのも止めなければならない。限られた時間の中で考えなければ…
『人族嫌いの筆頭は虎一族よ。彼らを止められるのはルナだけ』
ルガーダさんの言葉を思い出す。大丈夫、私ならやれる、必ず止めてみせる!
「ルナ、大丈夫か?」
ランドルフさんが心配してくれたけど、獣人の国へ入る前に決めた事だから弱音なんて吐かない。
「本当ならランドルフさんと従者の二人で国へ帰ってくる予定だったのに。私が居るせいで日にちが余分に掛かったんだもの。
馬を休ませたら、早く行かなきゃ」
「ラルフだ。いつまでもランドルフさんと呼ばれるのは気に食わない。
あのアホなんか、俺の事を勝手にラルフ呼ばわりして」
「ん? まさかアホとは俺の事か?」
「お前以外に誰が居る? ちゃんとランドルフ"さん"と呼べよ」
「ハハ! じゃあ俺の事はマルク"様"と呼ばなきゃな。なぁラルフ」
マルク兄さんは私の気持ちを知っているからこそ、明るくしてくれているのよね?
順調に進む馬上から見る街の景色は、春だと言うのに窓を閉め、歩く人は少なく皆、何かに怯えている様に思えた。
小さな川を見つけ木陰で休む事にする。降り注ぐ太陽は眩しく、川へ足を入れるとひんやりと冷たく。雪解け水だろうか澄んだ水から魚が跳ねる。
「ラルフさん。春なのに通り過ぎる街はどこも静かで、これが普通なの?
じーじと暮らした村では、春は牧草地に家畜を連れて行ったり、農作業をしてたわ。
それとも、王都が近いと違うの?」
冷えきる前に川から出て振り向くと、目を反らされマルク兄さんと何か話始める。私も話に加わろうと近付くと。
「ルナは馬を見てきてくれないか?」
ラルフさんに言われてしまい渋々離れたが、マルク兄さんの声が僅かに聞こえた。
「じゃあ…… と…… か?」
「…… 場所に! …… 行く……」
私は聞いたらダメなのだろうか?
馬の首を撫でながら、チラリと二人を見るとマルク兄さんと目が合う。
「ルナ! お前も話を聞いておけ」
「今は必要ない! 余計な事を言うな!」
ラルフさんがマルク兄さんへ掴みかかる。慌てて間に入ろうと駆け寄ると、マルク兄さんもラルフさんの胸ぐらを掴んだ。
「お前の守るって意味は何だ! ルナに何も知らせず閉じ込めたいのか!」
「違う! 俺はルナを傷付けたくないだけだ! 何故分からん!」
「何の話? 私にも説明して!」
ラルフさんを突飛ばし、マルク兄さんが私の肩を両手で掴む。真剣な表情に私もじっと話を待った。
「人族が獣人の国へ宣戦布告した。元龍王インセルノと協定を結び、獣人の国を取り戻すと言っている。人族嫌いの獣人達は、王都へ向かっているらしい」
「ユーヴは戦争を望んでいない! 大丈夫だ。ルナが何かしなくても俺とユーヴが皆を説得する」
ふつふつと怒りが沸き上がる。近寄って頭に手を伸ばそうとしたラルフさんの腕を払いのけた。
「私には関係無い? バカにしないで! 誰も傷付いて欲しくない! その思いでここまで来たのよ!
守られるだけは、もう嫌! 私は皆を守る為に戦うわ。戦争なんてさせない」
「っ! ルナ」
踵を返し馬の所へ向かう。後ろからラルフさんの声が聞こえたけど振り反るつもりは無い。
「出ていらっしゃい。私を王都まで案内するのよ」
「ルナ、どうするつもりだ」
「マルク兄さんはヒァマーさんの所へ行ってルガーダさんからの手紙を渡して」
手紙をマルク兄さんへ頼み、馬の目をじっと見る。
「マルク兄さんをネコ一族の所へ連れて行って」
馬は私の言葉を理解してマルク兄さんが跨がると嘶きを上げた。マルク兄さんがニヤリと笑い手綱を握る、
「後で俺も行く! むちゃするなよ!」
走り去るマルク兄さんを見送ると、ラルフさんが隣に立っていた。
「ルナ… その力は…」
「分かりません。でも私の本能なのか動物には言葉が通じます。ラルフさんが馬に乗って下さい、私は彼らと共に王都へ向かいます」
私の後ろには、山で会った獣達がぞろぞろ出てくる。先頭に立つのはあの狼だ。
「俺は… ルナを守りたかっただけだ。すまない、お前の気持ちを無視してしまった」
項垂れたラルフさんは、そっと私の手を両手で包む。
「私もラルフさんを守りたい。一緒に戦ってくれますか?」
「ああ。共に行こう、戦争を止めるぞルナ!」
ふわりと抱き上げられ、馬に乗せられると後ろへラルフさんも乗った。
「どうなろうと俺はルナを守りたい。それだけは忘れないでくれ」
「私にもラルフさんを守らせて下さい。みんな行くわよ!」
狼達の声が響きわたる。人族が攻め込むのも止めなければならない。限られた時間の中で考えなければ…
『人族嫌いの筆頭は虎一族よ。彼らを止められるのはルナだけ』
ルガーダさんの言葉を思い出す。大丈夫、私ならやれる、必ず止めてみせる!
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