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第3章。交差する運命
自分の気持ち
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ホーナンを出て三週間。もう少しで獣人の国へ入る所まで来ました。
「今夜には獣人の国へ入るが、ヒァマーの所までは歩きだと1週間はかかる。俺は馬を用意しに一度、街へ降りるからお前達は待っていろ」
マルク兄さんと二人で頷くと朝食の干し肉を齧る。狼と会ってから森の獣達が襲わないと分かり、悪路ながらも夜にぐっすり寝れたのは有難い。
「私、馬に乗った事が無いから、先に二人が行って」
地図があればきっと行けるわ。私のせいで遅れる訳にはいかない。ショワン爺さんとルガーダさんがランドルフさんに頼まれて、媚薬と番の血の事を調べていると早く伝えなきゃ。
「ルナ…… お前は」
「マルク兄さん! そうだルガーダさんから手紙も預かったの。だから早く渡さなきゃならないでしょ?」
リュックの中から手紙を出そうとしてると、
「俺と一緒に乗れば良い。それにルナと離れられると思うか?」
ククッ。笑う姿に背を向ける。朝から止めて欲しい、白虎じゃないと何度言っても全く聞いてくれない。
獣人のランドルフさんには"本物の番"が何処かに居るはず。
この前の人は媚薬を使って番じゃなかったと言っていたけど、ランドルフさんの本物の番が現れ、龍王様の時みたいになったら……
誰かを愛する事が怖い。人族が相手でも今の私では怖さしか感じないかも……
自分の気持ちなんて知らない、知りたくない!
「マルク兄さんと一緒に乗ります! ランドルフさんは1人で馬に乗って下さい!」
マルク兄さんの腕にしがみつくと、
「ハハハ!! マルク兄さんに任せておけ。ラルフなんかと一緒に乗らなくても兄さんがちゃんと"妹"を連れて行ってやるからな」
マルク兄さんがニコニコして私を抱き寄せると、ニヤリとランドルフさんを見る。
「馬が準備出来なかったら俺の背中へ乗れば済む」
「待て待て、それじゃ俺はどうするんだ!」
「歩いて来い」
マルク兄さんが一緒で良かった。もしランドルフさんと二人なら私はどうすれば良いか分からなかったわ。
******
小さな湖が真っ赤な夕陽に染められキラキラ輝く。
「ターキの湖みたい」
「そうだな。ルナ…… 何か悩んでいるなら話してみろ」
あの時みたいにマルク兄さんは湖を見ながら私へ問いかけてくる。
「何も悩んでいないわよ」
笑って答える私へ、ぐしゃぐしゃっと頭を撫でるとゴロンと後ろへ倒れ寝転がった。
「ラルフが怖いか?」
ビクリと肩が揺れたが、気付かないフリをした。そうマルク兄さんが言う通り、私はランドルフさんの言葉が、態度が、瞳が怖い。
「短い付き合いだが、奴は本当にお前の事が好きだと思う。なぁルナ…… 何が怖いんだ」
マルク兄さんは知らないから簡単に聞けるのよ! カッとなり、声を荒らげ気持ちのまま言い放った。
「マルク兄さんは知らないのよ! 獣人が本物の番に会った時どうなるかを。
今は薬で白虎の香りが無い私では、いくらランドルフさんに好きだと言われても信じられない! 本物の番が現れたらきっとまた捨てられるわ!
その時、私はどうすれば良いの?
龍王様の時みたいに逃げ出す?
あの時は少し悲しかっただけで済んだけど、私が…… 私がランドルフさんを愛してしまえば…」
自分の身体を強く抱きしめきつく瞳を閉じた。ランドルフさんを愛してしまえば私はきっと相手を羨ましく思ってしまう。
あの笑顔も、甘い囁きも、抱きしめられた時に感じるあたたかさも。全て私から"本物の番"が奪ってしまうの。
「アハハハハハ!! なんだ、そんな事か」
「マルク兄さんには分からないわ!」
マルク兄さんは起き上がると、私をふわりと引き寄せ腕に捕らえる。
「ラルフはバカみたいに真っ直ぐだからな。あいつは自分の決めた事を曲げないだろう、例え本物の番が現れても絶対見向きもしないと思うぞ。
でも、もしルナ以外を選ぶなら俺がぶっ飛ばして二度とルナとは会わせない。
怖がるな、俺は何があってもお前の味方だ」
気付きたく無かった。だって認めてしまえば私はきっとランドルフさんと離れられなくなる。本物の番にビクビクしながら、それでも求めてしまうの。
「気が済むまで泣けば良い。大丈夫、俺がついている」
子どもの様に泣く私の背中を撫でる手は心地よくて思い切り泣いてしまった。
「ぶさいくだわ」
「ほら、冷たいタオルでも当てとけ」
目に当てられたタオルはひんやりして気持ち良い。
初めて見た時から、きっと私はランドルフさんを好きになってしまっていたの。
思い切り泣いて、その気持ちがはっきりした。本物の番が怖いのは変わらないけど、私は逃げてばかりいたフーニアじゃない!
「マルク兄さん」
「ん? なんだ?」
「私、ランドルフさんが好き。だけど本物の番が怖いのも事実なの。もし私が捨てられたらランドルフさんを殴ってやるわ! その時は今日みたいに抱きしめてくれる?」
「ああ、勿論。俺もルナと一緒にラルフを殴ってやるから安心しろ」
夕陽は沈み、いつの間にか空には星が瞬く。
「遅れてすまん。ルナ! どうした? 泣いたのか?」
馬から飛び降りると私へ駆け寄り抱きしめられた。
「おい! マルクが泣かせたのか! 兄とは言えルナを泣かせるなら容赦しない!」
「マルク兄さんは関係無いわ」
「何故、こんな目になったんだ」
「フフ… 秘密、マルク兄さんに何かしたら怒るからね」
もし本物の番が現れたら。その事ばかりに気をとられてた。今、彼のぬくもりは確かに私を包み込んでいる。
見上げると眉間にシワを寄せて心配そうに私を見てたから、指でぐりぐり伸ばせば、ハハっ! と笑う。
「さぁ、行きましょ!」
「そうだな」
ふわりと私を抱き上げて馬の背に乗せるとランドルフさんが後ろに乗り腰へ手を回した。
「ルナは兄ちゃんと馬に乗るんじゃなかったのか! おいラルフさっさとルナを渡せ!」
「断る。行くぞ」
馬の腹を蹴り、一路ヒァマーさんの住む街へ。自分の気持ちに気付いたからこそ、甘えは許されない。大切な人を守る為に私しか出来ない事がきっとある。
「今夜には獣人の国へ入るが、ヒァマーの所までは歩きだと1週間はかかる。俺は馬を用意しに一度、街へ降りるからお前達は待っていろ」
マルク兄さんと二人で頷くと朝食の干し肉を齧る。狼と会ってから森の獣達が襲わないと分かり、悪路ながらも夜にぐっすり寝れたのは有難い。
「私、馬に乗った事が無いから、先に二人が行って」
地図があればきっと行けるわ。私のせいで遅れる訳にはいかない。ショワン爺さんとルガーダさんがランドルフさんに頼まれて、媚薬と番の血の事を調べていると早く伝えなきゃ。
「ルナ…… お前は」
「マルク兄さん! そうだルガーダさんから手紙も預かったの。だから早く渡さなきゃならないでしょ?」
リュックの中から手紙を出そうとしてると、
「俺と一緒に乗れば良い。それにルナと離れられると思うか?」
ククッ。笑う姿に背を向ける。朝から止めて欲しい、白虎じゃないと何度言っても全く聞いてくれない。
獣人のランドルフさんには"本物の番"が何処かに居るはず。
この前の人は媚薬を使って番じゃなかったと言っていたけど、ランドルフさんの本物の番が現れ、龍王様の時みたいになったら……
誰かを愛する事が怖い。人族が相手でも今の私では怖さしか感じないかも……
自分の気持ちなんて知らない、知りたくない!
「マルク兄さんと一緒に乗ります! ランドルフさんは1人で馬に乗って下さい!」
マルク兄さんの腕にしがみつくと、
「ハハハ!! マルク兄さんに任せておけ。ラルフなんかと一緒に乗らなくても兄さんがちゃんと"妹"を連れて行ってやるからな」
マルク兄さんがニコニコして私を抱き寄せると、ニヤリとランドルフさんを見る。
「馬が準備出来なかったら俺の背中へ乗れば済む」
「待て待て、それじゃ俺はどうするんだ!」
「歩いて来い」
マルク兄さんが一緒で良かった。もしランドルフさんと二人なら私はどうすれば良いか分からなかったわ。
******
小さな湖が真っ赤な夕陽に染められキラキラ輝く。
「ターキの湖みたい」
「そうだな。ルナ…… 何か悩んでいるなら話してみろ」
あの時みたいにマルク兄さんは湖を見ながら私へ問いかけてくる。
「何も悩んでいないわよ」
笑って答える私へ、ぐしゃぐしゃっと頭を撫でるとゴロンと後ろへ倒れ寝転がった。
「ラルフが怖いか?」
ビクリと肩が揺れたが、気付かないフリをした。そうマルク兄さんが言う通り、私はランドルフさんの言葉が、態度が、瞳が怖い。
「短い付き合いだが、奴は本当にお前の事が好きだと思う。なぁルナ…… 何が怖いんだ」
マルク兄さんは知らないから簡単に聞けるのよ! カッとなり、声を荒らげ気持ちのまま言い放った。
「マルク兄さんは知らないのよ! 獣人が本物の番に会った時どうなるかを。
今は薬で白虎の香りが無い私では、いくらランドルフさんに好きだと言われても信じられない! 本物の番が現れたらきっとまた捨てられるわ!
その時、私はどうすれば良いの?
龍王様の時みたいに逃げ出す?
あの時は少し悲しかっただけで済んだけど、私が…… 私がランドルフさんを愛してしまえば…」
自分の身体を強く抱きしめきつく瞳を閉じた。ランドルフさんを愛してしまえば私はきっと相手を羨ましく思ってしまう。
あの笑顔も、甘い囁きも、抱きしめられた時に感じるあたたかさも。全て私から"本物の番"が奪ってしまうの。
「アハハハハハ!! なんだ、そんな事か」
「マルク兄さんには分からないわ!」
マルク兄さんは起き上がると、私をふわりと引き寄せ腕に捕らえる。
「ラルフはバカみたいに真っ直ぐだからな。あいつは自分の決めた事を曲げないだろう、例え本物の番が現れても絶対見向きもしないと思うぞ。
でも、もしルナ以外を選ぶなら俺がぶっ飛ばして二度とルナとは会わせない。
怖がるな、俺は何があってもお前の味方だ」
気付きたく無かった。だって認めてしまえば私はきっとランドルフさんと離れられなくなる。本物の番にビクビクしながら、それでも求めてしまうの。
「気が済むまで泣けば良い。大丈夫、俺がついている」
子どもの様に泣く私の背中を撫でる手は心地よくて思い切り泣いてしまった。
「ぶさいくだわ」
「ほら、冷たいタオルでも当てとけ」
目に当てられたタオルはひんやりして気持ち良い。
初めて見た時から、きっと私はランドルフさんを好きになってしまっていたの。
思い切り泣いて、その気持ちがはっきりした。本物の番が怖いのは変わらないけど、私は逃げてばかりいたフーニアじゃない!
「マルク兄さん」
「ん? なんだ?」
「私、ランドルフさんが好き。だけど本物の番が怖いのも事実なの。もし私が捨てられたらランドルフさんを殴ってやるわ! その時は今日みたいに抱きしめてくれる?」
「ああ、勿論。俺もルナと一緒にラルフを殴ってやるから安心しろ」
夕陽は沈み、いつの間にか空には星が瞬く。
「遅れてすまん。ルナ! どうした? 泣いたのか?」
馬から飛び降りると私へ駆け寄り抱きしめられた。
「おい! マルクが泣かせたのか! 兄とは言えルナを泣かせるなら容赦しない!」
「マルク兄さんは関係無いわ」
「何故、こんな目になったんだ」
「フフ… 秘密、マルク兄さんに何かしたら怒るからね」
もし本物の番が現れたら。その事ばかりに気をとられてた。今、彼のぬくもりは確かに私を包み込んでいる。
見上げると眉間にシワを寄せて心配そうに私を見てたから、指でぐりぐり伸ばせば、ハハっ! と笑う。
「さぁ、行きましょ!」
「そうだな」
ふわりと私を抱き上げて馬の背に乗せるとランドルフさんが後ろに乗り腰へ手を回した。
「ルナは兄ちゃんと馬に乗るんじゃなかったのか! おいラルフさっさとルナを渡せ!」
「断る。行くぞ」
馬の腹を蹴り、一路ヒァマーさんの住む街へ。自分の気持ちに気付いたからこそ、甘えは許されない。大切な人を守る為に私しか出来ない事がきっとある。
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