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第3章。交差する運命
狂乱の後(獣人の国)
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まさか、こんな場所でニアと会うとは思わなかった。
これを幸運と呼ぶべきか、不運と呼ぶべきか……
出発は、最低でも2日後となる。正規ルートを通れない為に準備が必要だからだ。
通された部屋で、ソファへ座ると思い出されるのは。ニアが消え、インセルノが狂乱した王宮での出来事。本当ならすぐニアを探しに行くつもりだったが、父が倒れ俺が獅子一族をまとめなければならなかった。
******
「ユーヴ、これはどういう事だ。説明しろ!」
父が運ばれ王宮の一室に集まったのは、俺とユーヴ。後ろにはフェリクと騎士が控えていた。
「アリアだ。インセルノが狂ってしまったのはアリアが原因だ」
握った拳でテーブルを叩き割り怒りを露にしたユーヴだが、
「アリア… あれは偽物じゃなかったのか?」
その時、部屋に飛び込んできたのはリーリアだ。
「バカ龍とアリア様が消えたって本当なの!?」
「すまん、止められなかった」
ユーヴに掴みかかるリーリアをフェリクが止める。彼らは一体何の話をしているんだ。
「リーリア。父が殺されかけた、最悪死ぬかも知れない。龍王に何があったんだ! 俺に分かるように説明しろ」
香水の出所とニアを自分の番にする為。秘密の庭から帰り、フェリクと二人で動いていた。ララーの所からフェリクを引き上げ香水の提供者と接触するのを待っていたが、忽然と姿を消し今もララーは見つからない。そして最も怪しいグラムの姿も……
媚薬の事を知っている人物を増やす事は出来ない。広く知られれば悪用される危険がある為に俺とフェリク。二人で調べるしかなく時間を取られている間。人族の事はユーヴが監視し、後宮へ入れないユーヴに代わりリーリアが直接人族の傍に居る話だったのだが。
「アリア様はバカ龍の本物の番だったのよ。そして…」
リーリアが話したのは人族アリアの過去。夫を目の前で殺され、獣人へ強い憎しみを持ったアリアは本物の番と分かっても龍王を拒絶した。
獅子一族の首を差し出せ。それがアリアの要求だったが、頷くはずも無く断り続けていた。
「なら、さっきのは何なんだ!」
「血よ。アリア様は私達の目を盗みバカ龍が飲むワインに自分の血を混ぜて飲ませていたの」
番が自分のモノにならないのなら、食い殺してしまう。本来はその前に狂って自分で死を選ぶ。しかし、本能が強い龍族が番の血を飲んでしまえば……
リーリアの顔を見ると唇を噛み、俺の考えが分かったのか頷いた。
「逆らう事は出来なくなるでしょうね。誰に聞いたのかは分からないけど、少しずつ、そして確実にインセルノは狂っていったのよ」
「何故! 早く引き離さなかった!」
「心から結ばれたなら大丈夫でも、拒否され血を飲まされた番から離れられる訳無いじゃない!」
「すまない。セルなら大丈夫だと俺が信じたかったんだ。全て俺の失態だ」
ユーヴが力無く笑う。獣人の王となるべく育てられたインセルノは、俺たち皆の憧れだった。威風堂々とした姿をユーヴはずっと間近で見ていた。
『セルを支える為に強くなる』
これが学生時代からユーヴの口癖。ギリッと奥歯を噛み、一度、頭の中をリセットして、これからの事を話し合わなければ。
第1にインセルノとアリアの確保。次は新しい獣人の王を決める為に各一族と協議しなければならない。
「アリアは人族の王に言われて香水を使ったのか?」
「違う。宰相からの指示らしい、確かメラン公爵」
「おい! 今メラン公爵と言ったか? クソッ早く聞いていれば!」
急に立ち上がった俺をユーヴとリーリアが見上げた。
「メラン公爵は、グラムの母である人族の実家だ。ずっと隠していたらしく調べるのも時間がかかったが、その話が本当ならグラムとメラン公爵は繋がっている。多分香水の出所はメラン公爵だ」
「グラムの母親に聞き出すか」
「もう遅い。グラムの母はすでに亡くなっている」
人族の国へ、メラン公爵に話を聞きたいと言っても簡単に許可は降りないだろう。
獣人の本能、それを香水一つで操れると知られれば昔のように獣人は人族の奴隷となるかも知れない。
「ルガーダおばさんなら、もしかすると何とか出来ないかしら?」
リーリアが上げた名前。人族嫌いの一族からは裏切り者と呼ばれ、今は人族の国に住んでいると聞く。
「リーリアは、ルガーダと知り合いなのか?」
ユーヴの問いかけに頷いた。
「ええ、私の母とお友達なの。確かショワン様の所で薬師の勉強もしていたはずよ」
今度はユーヴがリーリアへ詰め寄る。フェリクが慌ててリーリアを守るが、ユーヴはそれを押し退けた。
「ショワン様は生きていらっしゃるのか!」
「それは分からないけど、ルガーダおばさんなら、知っていると思うの」
「ショワン様とは誰だ?」
「シリウス王の親友であり、元ワニ一族の長だ。薬師として、そして獣人達の中でも慕う者が多く。今の人族との交流にも尽力した人物」
「では、そのショワン様とか言う奴に頼めばインセルノは正気になり、媚薬の香水も無効に出来るって訳か?」
じっとユーヴを見ると下を向き首を横に振った。
「分からない。ショワン様が生きていても、薬を作れるか。それにルガーダも同じように、例え作れたとしても何年もかかればセルを救う事は出来ないだろう」
「私がルガーダおばさんの所へ行くわ」
「ダメだ! もしリーリアに何かあれば生きては行けない!」
フェリクがリーリアを抱きしめ離そうとはしない。
「俺が行く。ユーヴとフェリクは龍王とアリアを探し、他の一族と話し合え」
しかし、この時。龍王とアリアが獅子一族の街へ近づいていたのを俺たちは知るよしも無かった。
これを幸運と呼ぶべきか、不運と呼ぶべきか……
出発は、最低でも2日後となる。正規ルートを通れない為に準備が必要だからだ。
通された部屋で、ソファへ座ると思い出されるのは。ニアが消え、インセルノが狂乱した王宮での出来事。本当ならすぐニアを探しに行くつもりだったが、父が倒れ俺が獅子一族をまとめなければならなかった。
******
「ユーヴ、これはどういう事だ。説明しろ!」
父が運ばれ王宮の一室に集まったのは、俺とユーヴ。後ろにはフェリクと騎士が控えていた。
「アリアだ。インセルノが狂ってしまったのはアリアが原因だ」
握った拳でテーブルを叩き割り怒りを露にしたユーヴだが、
「アリア… あれは偽物じゃなかったのか?」
その時、部屋に飛び込んできたのはリーリアだ。
「バカ龍とアリア様が消えたって本当なの!?」
「すまん、止められなかった」
ユーヴに掴みかかるリーリアをフェリクが止める。彼らは一体何の話をしているんだ。
「リーリア。父が殺されかけた、最悪死ぬかも知れない。龍王に何があったんだ! 俺に分かるように説明しろ」
香水の出所とニアを自分の番にする為。秘密の庭から帰り、フェリクと二人で動いていた。ララーの所からフェリクを引き上げ香水の提供者と接触するのを待っていたが、忽然と姿を消し今もララーは見つからない。そして最も怪しいグラムの姿も……
媚薬の事を知っている人物を増やす事は出来ない。広く知られれば悪用される危険がある為に俺とフェリク。二人で調べるしかなく時間を取られている間。人族の事はユーヴが監視し、後宮へ入れないユーヴに代わりリーリアが直接人族の傍に居る話だったのだが。
「アリア様はバカ龍の本物の番だったのよ。そして…」
リーリアが話したのは人族アリアの過去。夫を目の前で殺され、獣人へ強い憎しみを持ったアリアは本物の番と分かっても龍王を拒絶した。
獅子一族の首を差し出せ。それがアリアの要求だったが、頷くはずも無く断り続けていた。
「なら、さっきのは何なんだ!」
「血よ。アリア様は私達の目を盗みバカ龍が飲むワインに自分の血を混ぜて飲ませていたの」
番が自分のモノにならないのなら、食い殺してしまう。本来はその前に狂って自分で死を選ぶ。しかし、本能が強い龍族が番の血を飲んでしまえば……
リーリアの顔を見ると唇を噛み、俺の考えが分かったのか頷いた。
「逆らう事は出来なくなるでしょうね。誰に聞いたのかは分からないけど、少しずつ、そして確実にインセルノは狂っていったのよ」
「何故! 早く引き離さなかった!」
「心から結ばれたなら大丈夫でも、拒否され血を飲まされた番から離れられる訳無いじゃない!」
「すまない。セルなら大丈夫だと俺が信じたかったんだ。全て俺の失態だ」
ユーヴが力無く笑う。獣人の王となるべく育てられたインセルノは、俺たち皆の憧れだった。威風堂々とした姿をユーヴはずっと間近で見ていた。
『セルを支える為に強くなる』
これが学生時代からユーヴの口癖。ギリッと奥歯を噛み、一度、頭の中をリセットして、これからの事を話し合わなければ。
第1にインセルノとアリアの確保。次は新しい獣人の王を決める為に各一族と協議しなければならない。
「アリアは人族の王に言われて香水を使ったのか?」
「違う。宰相からの指示らしい、確かメラン公爵」
「おい! 今メラン公爵と言ったか? クソッ早く聞いていれば!」
急に立ち上がった俺をユーヴとリーリアが見上げた。
「メラン公爵は、グラムの母である人族の実家だ。ずっと隠していたらしく調べるのも時間がかかったが、その話が本当ならグラムとメラン公爵は繋がっている。多分香水の出所はメラン公爵だ」
「グラムの母親に聞き出すか」
「もう遅い。グラムの母はすでに亡くなっている」
人族の国へ、メラン公爵に話を聞きたいと言っても簡単に許可は降りないだろう。
獣人の本能、それを香水一つで操れると知られれば昔のように獣人は人族の奴隷となるかも知れない。
「ルガーダおばさんなら、もしかすると何とか出来ないかしら?」
リーリアが上げた名前。人族嫌いの一族からは裏切り者と呼ばれ、今は人族の国に住んでいると聞く。
「リーリアは、ルガーダと知り合いなのか?」
ユーヴの問いかけに頷いた。
「ええ、私の母とお友達なの。確かショワン様の所で薬師の勉強もしていたはずよ」
今度はユーヴがリーリアへ詰め寄る。フェリクが慌ててリーリアを守るが、ユーヴはそれを押し退けた。
「ショワン様は生きていらっしゃるのか!」
「それは分からないけど、ルガーダおばさんなら、知っていると思うの」
「ショワン様とは誰だ?」
「シリウス王の親友であり、元ワニ一族の長だ。薬師として、そして獣人達の中でも慕う者が多く。今の人族との交流にも尽力した人物」
「では、そのショワン様とか言う奴に頼めばインセルノは正気になり、媚薬の香水も無効に出来るって訳か?」
じっとユーヴを見ると下を向き首を横に振った。
「分からない。ショワン様が生きていても、薬を作れるか。それにルガーダも同じように、例え作れたとしても何年もかかればセルを救う事は出来ないだろう」
「私がルガーダおばさんの所へ行くわ」
「ダメだ! もしリーリアに何かあれば生きては行けない!」
フェリクがリーリアを抱きしめ離そうとはしない。
「俺が行く。ユーヴとフェリクは龍王とアリアを探し、他の一族と話し合え」
しかし、この時。龍王とアリアが獅子一族の街へ近づいていたのを俺たちは知るよしも無かった。
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