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終章
3 願い
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ツァルに運んでもらえば、ぺシュシェスからヴァヴァロナまではあっという間だ。
蒸気機関車のように煙を吐くわけでもないし、桁違いに速いので、かなり世話になっている。
「大変だね、クルス」
「まだ、地震がなくなったわけじゃないからな」
シュテフォーラから託された樹の種は芽を出したばかりで、世界中に根を張るほどには育っていない。
世界を支えられるほど大きく強く育てるのは、俺たちの責任だ。
「わたしにできることならなんでも言ってね!」
サリアが拳を握り締めて、俺に笑顔を向ける。
「ああ。じゃあ、今いいか?」
「なに?」
「これを受け取ってもらいたいんだ」
俺は懐から緑色の耳飾りを取り出した。
リファルディアにサリアを置き去りにしたあと、ポルスでサリアのことを想いながら買った耳飾りだ。
渡す機会がないまま今日まできてしまった。
「うわあ、綺麗! すごく綺麗! ありがとうクルス!」
サリアの喜ぶ姿を見て、ほっとする。
気に入ってもらえたようだ。
「よかった。ところでサリア、あの……これからも、俺とずっと一緒にいてほしいんだ」
「いいよ」
即答だった。
あまりの速さに、俺は少し戸惑う。
俺の意図するところがきちんと伝わらなかったんだろうか。
「つまりあれだ。今じゃなくてもいいんだ。色々と落ち着いたらその……俺と結婚してほしい……んだけど」
「いいよ」
「……あ、そうか。って、え!? いいのか? 本当に?」
あっさりと返事をされてしまって、思わず訊き返す。
「もちろん。クルスは意外と面倒くさがりで、剣術は下手だし、体力もないからね。わたしがずっと傍にいてあげる」
「あ――……」
それが理由だとしたら、俺って随分情けなくないか?
そう思ったけれど、事実だけになんとも言えない。
「えーと、じゃあ、これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
互いに頭を下げあっていると、クックッとツァルが笑いを堪えている声が聞こえた。
「ツァル!」
『幸せにな。おまえらの子どもを見るのが楽しみだ』
「こっ、子どもっ!?」
サリアの頬が赤く染まる。
俺も顔から火が出そうだ。
『いいだろ。きっと世界を支える樹と一緒に、すくすくと育つだろうさ』
ツァルがぐんと高度を上げた。
冷たい風が火照った頬に心地よい。
今は、子どものことなんてまだ考えられない。
でも――。
眼下には俺たちの、精霊と人間の世界が広がっている。
死病の流行は終息し、気候は以前に戻りつつある。
あの日、世界崩壊を救った大精霊シュテフォーラ、守護者ヴァルヴェリアスとリフシャティーヌの姿を目にした人も多く、それを機に人間は再度、精霊を受け入れ始めている。
感謝と畏敬の念と共に。
世界の未来は今、ここにひらかれた。
どうか今度こそ、この世界が永遠に在り続けられますように。
これから生まれてくる世界中の精霊たち、そして子どもたちが、ずっとずっと幸せに過ごせるような世界を。
俺は――俺たちは心からそれを願う。
了
蒸気機関車のように煙を吐くわけでもないし、桁違いに速いので、かなり世話になっている。
「大変だね、クルス」
「まだ、地震がなくなったわけじゃないからな」
シュテフォーラから託された樹の種は芽を出したばかりで、世界中に根を張るほどには育っていない。
世界を支えられるほど大きく強く育てるのは、俺たちの責任だ。
「わたしにできることならなんでも言ってね!」
サリアが拳を握り締めて、俺に笑顔を向ける。
「ああ。じゃあ、今いいか?」
「なに?」
「これを受け取ってもらいたいんだ」
俺は懐から緑色の耳飾りを取り出した。
リファルディアにサリアを置き去りにしたあと、ポルスでサリアのことを想いながら買った耳飾りだ。
渡す機会がないまま今日まできてしまった。
「うわあ、綺麗! すごく綺麗! ありがとうクルス!」
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気に入ってもらえたようだ。
「よかった。ところでサリア、あの……これからも、俺とずっと一緒にいてほしいんだ」
「いいよ」
即答だった。
あまりの速さに、俺は少し戸惑う。
俺の意図するところがきちんと伝わらなかったんだろうか。
「つまりあれだ。今じゃなくてもいいんだ。色々と落ち着いたらその……俺と結婚してほしい……んだけど」
「いいよ」
「……あ、そうか。って、え!? いいのか? 本当に?」
あっさりと返事をされてしまって、思わず訊き返す。
「もちろん。クルスは意外と面倒くさがりで、剣術は下手だし、体力もないからね。わたしがずっと傍にいてあげる」
「あ――……」
それが理由だとしたら、俺って随分情けなくないか?
そう思ったけれど、事実だけになんとも言えない。
「えーと、じゃあ、これからもよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
互いに頭を下げあっていると、クックッとツァルが笑いを堪えている声が聞こえた。
「ツァル!」
『幸せにな。おまえらの子どもを見るのが楽しみだ』
「こっ、子どもっ!?」
サリアの頬が赤く染まる。
俺も顔から火が出そうだ。
『いいだろ。きっと世界を支える樹と一緒に、すくすくと育つだろうさ』
ツァルがぐんと高度を上げた。
冷たい風が火照った頬に心地よい。
今は、子どものことなんてまだ考えられない。
でも――。
眼下には俺たちの、精霊と人間の世界が広がっている。
死病の流行は終息し、気候は以前に戻りつつある。
あの日、世界崩壊を救った大精霊シュテフォーラ、守護者ヴァルヴェリアスとリフシャティーヌの姿を目にした人も多く、それを機に人間は再度、精霊を受け入れ始めている。
感謝と畏敬の念と共に。
世界の未来は今、ここにひらかれた。
どうか今度こそ、この世界が永遠に在り続けられますように。
これから生まれてくる世界中の精霊たち、そして子どもたちが、ずっとずっと幸せに過ごせるような世界を。
俺は――俺たちは心からそれを願う。
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