73 / 74
終章
2 代理
しおりを挟む
『そろそろ戻る時間だぞ』
回廊を人の姿をしたツァルが歩いてくる。
「えー、もう?」
『サリアはここに置いていっても別に構わないが?』
「意地悪ね。水をやったらすぐに帰るよ。だからあと少しだけ待って」
『ま、俺はいいけどな。怒られるのはクルスなわけだし』
「あっ……。ごめん、クルス。急ぐね」
「いや、別に。怒られるっていっても、そんなにきつく叱られたりはしないし」
『そりゃあ王様だもんな』
「王様じゃなくて都市長代理だよ」
とりあえず都市が落ち着くまでは、ヴァヴァロナの都市長代理を俺がすることになった。
ザルグムにはもちろん任せておけないし、後任選びには慎重を期する必要がある。
でも、今更王制に戻すつもりはなかった。
王家という肩書きがなくなっても、俺の役目は変わらない。
都市が落ち着いて、新しい市長が決まれば、俺はここペリュシェスに引っ越そうと思っている。
ここで、サリアと一緒にこの樹を見守りながら過ごすんだ。
今となっては、この樹を守ることが世界を守ることでもある。
ヴァルヴェリアスは守護者の塔にはあまり立ち寄らなくなって――というか、もともといつもあそこにいたわけではなく、誰かの訪問があるときだけ来ていたらしい。
普段は世界中を見回っているか、リフシャティーヌのところにいるのだとか。
つまり、守護者のふたりはそういう関係だということだ。
まあ、それはそれでいいんじゃないかと思う。
守護者としての責任をしっかり全うしてくれさえすれば。
守護者の塔の代わりに精霊の塔を使うことは、ヴァルヴェリアスも了承済みだ。
「あれ、まだいたの? さっきツァルが……ああ、なんだ、ここにいたんだね」
反対側の回廊からマーサンがポーチェと並んで現れた。
『水やりに忙しいらしくてな』
『大事な樹ですから』
ポーチェが柔らかい微笑を浮かべてサリアと樹の芽を見ている。
「あとは任せるからな。しっかり守ってくれよ」
「誰に向かって言ってるんだい。僕のおかげで、ここまで育ったようなものだよ」
マーサンはメ・ルトロの活動場所をペリュシェスに移した。
武器は携帯せず、精霊との強制契約を規制し、名実共に精霊と自然を愛する集団として活動を始めている。
構成員は減ったようだけれど、これで充分だとマーサンは言う。
畑を作ったり水を引いたりという作業はメ・ルトロが先導して行ってくれるので随分と助かっている。
「感謝している」
「え?」
マーサンが口をぽかんと開けて俺を凝視する。
俺が礼を言うのは驚くほどのことなのか?
「なんだよ」
「ああ……いや、別に僕は感謝してほしくてやっているわけじゃないからね。そこのところ勘違いはしないでほしいな」
マーサンが視線を泳がせながら言うので、苦笑する。
「終わったよー。あ、これお願いしてもいい?」
立ち上がったサリアがマーサンに駆け寄り、水桶を差し出す
「え、ああ、もちろんいいとも」
素直に受け取るマーサンに礼を言い、サリアが俺のもとに戻ってきた。
「お待たせ」
「よし、じゃあ行こう」
『やれやれ。俺は便利な移動手段じゃないんだけどな』
ぶつぶつ言いながら赤い鳥の姿に戻ったツァルの背に俺とサリアが乗る。
『お気をつけて』
「じゃあ、またね」
マーサンとポーチェに見送られてペリュシェスを飛び立った。
回廊を人の姿をしたツァルが歩いてくる。
「えー、もう?」
『サリアはここに置いていっても別に構わないが?』
「意地悪ね。水をやったらすぐに帰るよ。だからあと少しだけ待って」
『ま、俺はいいけどな。怒られるのはクルスなわけだし』
「あっ……。ごめん、クルス。急ぐね」
「いや、別に。怒られるっていっても、そんなにきつく叱られたりはしないし」
『そりゃあ王様だもんな』
「王様じゃなくて都市長代理だよ」
とりあえず都市が落ち着くまでは、ヴァヴァロナの都市長代理を俺がすることになった。
ザルグムにはもちろん任せておけないし、後任選びには慎重を期する必要がある。
でも、今更王制に戻すつもりはなかった。
王家という肩書きがなくなっても、俺の役目は変わらない。
都市が落ち着いて、新しい市長が決まれば、俺はここペリュシェスに引っ越そうと思っている。
ここで、サリアと一緒にこの樹を見守りながら過ごすんだ。
今となっては、この樹を守ることが世界を守ることでもある。
ヴァルヴェリアスは守護者の塔にはあまり立ち寄らなくなって――というか、もともといつもあそこにいたわけではなく、誰かの訪問があるときだけ来ていたらしい。
普段は世界中を見回っているか、リフシャティーヌのところにいるのだとか。
つまり、守護者のふたりはそういう関係だということだ。
まあ、それはそれでいいんじゃないかと思う。
守護者としての責任をしっかり全うしてくれさえすれば。
守護者の塔の代わりに精霊の塔を使うことは、ヴァルヴェリアスも了承済みだ。
「あれ、まだいたの? さっきツァルが……ああ、なんだ、ここにいたんだね」
反対側の回廊からマーサンがポーチェと並んで現れた。
『水やりに忙しいらしくてな』
『大事な樹ですから』
ポーチェが柔らかい微笑を浮かべてサリアと樹の芽を見ている。
「あとは任せるからな。しっかり守ってくれよ」
「誰に向かって言ってるんだい。僕のおかげで、ここまで育ったようなものだよ」
マーサンはメ・ルトロの活動場所をペリュシェスに移した。
武器は携帯せず、精霊との強制契約を規制し、名実共に精霊と自然を愛する集団として活動を始めている。
構成員は減ったようだけれど、これで充分だとマーサンは言う。
畑を作ったり水を引いたりという作業はメ・ルトロが先導して行ってくれるので随分と助かっている。
「感謝している」
「え?」
マーサンが口をぽかんと開けて俺を凝視する。
俺が礼を言うのは驚くほどのことなのか?
「なんだよ」
「ああ……いや、別に僕は感謝してほしくてやっているわけじゃないからね。そこのところ勘違いはしないでほしいな」
マーサンが視線を泳がせながら言うので、苦笑する。
「終わったよー。あ、これお願いしてもいい?」
立ち上がったサリアがマーサンに駆け寄り、水桶を差し出す
「え、ああ、もちろんいいとも」
素直に受け取るマーサンに礼を言い、サリアが俺のもとに戻ってきた。
「お待たせ」
「よし、じゃあ行こう」
『やれやれ。俺は便利な移動手段じゃないんだけどな』
ぶつぶつ言いながら赤い鳥の姿に戻ったツァルの背に俺とサリアが乗る。
『お気をつけて』
「じゃあ、またね」
マーサンとポーチェに見送られてペリュシェスを飛び立った。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
恋人に夢中な婚約者に一泡吹かせてやりたかっただけ
棗
恋愛
伯爵令嬢ラフレーズ=ベリーシュは、王国の王太子ヒンメルの婚約者。
王家の忠臣と名高い父を持ち、更に隣国の姫を母に持つが故に結ばれた完全なる政略結婚。
長年の片思い相手であり、婚約者であるヒンメルの隣には常に恋人の公爵令嬢がいる。
婚約者には愛を示さず、恋人に夢中な彼にいつか捨てられるくらいなら、こちらも恋人を作って一泡吹かせてやろうと友達の羊の精霊メリー君の妙案を受けて実行することに。
ラフレーズが恋人役を頼んだのは、人外の魔術師・魔王公爵と名高い王国最強の男――クイーン=ホーエンハイム。
濡れた色香を放つクイーンからの、本気か嘘かも分からない行動に涙目になっていると恋人に夢中だった王太子が……。
※小説家になろう・カクヨム様にも公開しています
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
【完結】夫が愛人と一緒に夜逃げしたので、王子と協力して徹底的に逃げ道を塞ぎます
よどら文鳥
恋愛
夫のザグレームは、シャーラという女と愛人関係だと知ります。
離婚裁判の末、慰謝料を貰い解決のはずでした。
ですが、予想していたとおりザグレームとシャーラは、私(メアリーナ)のお金と金色の塊を奪って夜逃げしたのです。
私はすぐに友人として仲良くしていただいている第一王子のレオン殿下の元へ向かいました。
強力な助っ人が加わります。
さぁて、ザグレーム達が捕まったら、おそらく処刑になるであろう鬼ごっこの始まりです。
貴方が側妃を望んだのです
cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。
「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。
誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。
※2022年6月12日。一部書き足しました。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
史実などに基づいたものではない事をご理解ください。
※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。
表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。
※更新していくうえでタグは幾つか増えます。
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる