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終章

2 代理

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『そろそろ戻る時間だぞ』

 回廊を人の姿をしたツァルが歩いてくる。

「えー、もう?」

『サリアはここに置いていっても別に構わないが?』

「意地悪ね。水をやったらすぐに帰るよ。だからあと少しだけ待って」

『ま、俺はいいけどな。怒られるのはクルスなわけだし』

「あっ……。ごめん、クルス。急ぐね」

「いや、別に。怒られるっていっても、そんなにきつく叱られたりはしないし」

『そりゃあ王様だもんな』

「王様じゃなくて都市長代理だよ」


 とりあえず都市が落ち着くまでは、ヴァヴァロナの都市長代理を俺がすることになった。

 ザルグムにはもちろん任せておけないし、後任選びには慎重を期する必要がある。

 でも、今更王制に戻すつもりはなかった。

 王家という肩書きがなくなっても、俺の役目は変わらない。

 都市が落ち着いて、新しい市長が決まれば、俺はここペリュシェスに引っ越そうと思っている。

 ここで、サリアと一緒にこの樹を見守りながら過ごすんだ。

 今となっては、この樹を守ることが世界を守ることでもある。

 ヴァルヴェリアスは守護者の塔にはあまり立ち寄らなくなって――というか、もともといつもあそこにいたわけではなく、誰かの訪問があるときだけ来ていたらしい。

 普段は世界中を見回っているか、リフシャティーヌのところにいるのだとか。

 つまり、守護者のふたりはそういう関係だということだ。

 まあ、それはそれでいいんじゃないかと思う。

 守護者としての責任をしっかり全うしてくれさえすれば。

 守護者の塔の代わりに精霊の塔を使うことは、ヴァルヴェリアスも了承済みだ。


「あれ、まだいたの? さっきツァルが……ああ、なんだ、ここにいたんだね」

 反対側の回廊からマーサンがポーチェと並んで現れた。

『水やりに忙しいらしくてな』

『大事な樹ですから』

 ポーチェが柔らかい微笑を浮かべてサリアと樹の芽を見ている。

「あとは任せるからな。しっかり守ってくれよ」

「誰に向かって言ってるんだい。僕のおかげで、ここまで育ったようなものだよ」

 マーサンはメ・ルトロの活動場所をペリュシェスに移した。

 武器は携帯せず、精霊との強制契約を規制し、名実共に精霊と自然を愛する集団として活動を始めている。

 構成員は減ったようだけれど、これで充分だとマーサンは言う。

 畑を作ったり水を引いたりという作業はメ・ルトロが先導して行ってくれるので随分と助かっている。

「感謝している」

「え?」

 マーサンが口をぽかんと開けて俺を凝視する。

 俺が礼を言うのは驚くほどのことなのか?

「なんだよ」

「ああ……いや、別に僕は感謝してほしくてやっているわけじゃないからね。そこのところ勘違いはしないでほしいな」

 マーサンが視線を泳がせながら言うので、苦笑する。

「終わったよー。あ、これお願いしてもいい?」

 立ち上がったサリアがマーサンに駆け寄り、水桶を差し出す

「え、ああ、もちろんいいとも」

 素直に受け取るマーサンに礼を言い、サリアが俺のもとに戻ってきた。

「お待たせ」

「よし、じゃあ行こう」

『やれやれ。俺は便利な移動手段じゃないんだけどな』

 ぶつぶつ言いながら赤い鳥の姿に戻ったツァルの背に俺とサリアが乗る。

『お気をつけて』

「じゃあ、またね」

 マーサンとポーチェに見送られてペリュシェスを飛び立った。
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