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第四章
20 決意を新たにする夜
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『え……あ、おお。そ、そうか。遊びに、か……』
シュテフォーラが、呟くように言う。
「はい、お待ちしてます!」
力いっぱいサリアが応じる。
『我を待っておるのか』
「はい!」
「私たちも、お待ちしております」
俺も続けて声をかけると、シュテフォーラの、牛に似た尾がぐいと持ち上がった。
『おお、なんと、そうか。あいわかった。考えておこうぞ。うむ、考えておこう。ではな』
短い言葉を残し、黄金の一角獣は今度こそ空を駆け出した。
去って行くシュテフォーラの尾が、嬉しそうに揺れている。
そんな風に見えるのは、俺の気のせいだろうか。
やがてシュテフォーラは空の裂け目へと姿を消した。
まばゆい光を降らせていた裂け目が閉じると、あとには日没後の暗い闇だけが残る。
「なんだか可愛い精霊だったね」
『サリア様、なんと恐れ多いことを』
アスィが諫める。
「いや、でも俺もなんとなくサリアがそう思う気持ちがわかる」
「でしょ? きっと寂しがりやなんだよ」
自ら世界を創り、人間と精霊とで楽しく過ごしていた。
しかしいつしか省みられることのなくなったシュテフォーラ。
彼女は寂しかったんじゃないだろうか。
そして人間に絶望するのが嫌で、逃げ出したのではないだろうか。
だって、俺たちが呼んだら来てくれたじゃないか。
「あっ!」
突然サリアが声を上げる。
「なに?」
「月が出てる」
サリアの視線の先を追うと、確かに丸い月がぽっかりと空に浮いていた。
さっきまでのまばゆい光に慣れてしまった目には暗く感じるけれど、月の光は優しくて気持ちが落ち着く。
サリアの髪の上で、光が弾けている。
『素敵じゃないの。世界崩壊を食い止められた夜に相応しい月だわ』
『そういえば随分と時間が経ってしまいましたが、下はどうなっているのでしょうね?』
ふいに発されたアスィの一言で、一気に現実に引き戻される。
「すっかり忘れてた。まだ問題が残ってたな」
「でも、世界を守れたんだもの。きっとその問題もなんとか解決できるよ」
サリアが言うので、本当にそんな気がしてきた。
そう、なんとかできる。
俺たちの手で、なんとかするんだ。
決意を新たにした夜、白金色の月の光が、優しく世界を包み込んでいた。
シュテフォーラが、呟くように言う。
「はい、お待ちしてます!」
力いっぱいサリアが応じる。
『我を待っておるのか』
「はい!」
「私たちも、お待ちしております」
俺も続けて声をかけると、シュテフォーラの、牛に似た尾がぐいと持ち上がった。
『おお、なんと、そうか。あいわかった。考えておこうぞ。うむ、考えておこう。ではな』
短い言葉を残し、黄金の一角獣は今度こそ空を駆け出した。
去って行くシュテフォーラの尾が、嬉しそうに揺れている。
そんな風に見えるのは、俺の気のせいだろうか。
やがてシュテフォーラは空の裂け目へと姿を消した。
まばゆい光を降らせていた裂け目が閉じると、あとには日没後の暗い闇だけが残る。
「なんだか可愛い精霊だったね」
『サリア様、なんと恐れ多いことを』
アスィが諫める。
「いや、でも俺もなんとなくサリアがそう思う気持ちがわかる」
「でしょ? きっと寂しがりやなんだよ」
自ら世界を創り、人間と精霊とで楽しく過ごしていた。
しかしいつしか省みられることのなくなったシュテフォーラ。
彼女は寂しかったんじゃないだろうか。
そして人間に絶望するのが嫌で、逃げ出したのではないだろうか。
だって、俺たちが呼んだら来てくれたじゃないか。
「あっ!」
突然サリアが声を上げる。
「なに?」
「月が出てる」
サリアの視線の先を追うと、確かに丸い月がぽっかりと空に浮いていた。
さっきまでのまばゆい光に慣れてしまった目には暗く感じるけれど、月の光は優しくて気持ちが落ち着く。
サリアの髪の上で、光が弾けている。
『素敵じゃないの。世界崩壊を食い止められた夜に相応しい月だわ』
『そういえば随分と時間が経ってしまいましたが、下はどうなっているのでしょうね?』
ふいに発されたアスィの一言で、一気に現実に引き戻される。
「すっかり忘れてた。まだ問題が残ってたな」
「でも、世界を守れたんだもの。きっとその問題もなんとか解決できるよ」
サリアが言うので、本当にそんな気がしてきた。
そう、なんとかできる。
俺たちの手で、なんとかするんだ。
決意を新たにした夜、白金色の月の光が、優しく世界を包み込んでいた。
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