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第四章
8 神殿前での思いがけない再会
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『ちゃんと着地しろよ』
わかってる! と心の中で応える。
このまま落ちれば、自分は着地できる。
俺は空中で相手の腕を離した。
頭を下にしていた射手は、着地の前に上手く体を回転させていた。
着地はほぼ同時。動き出すのは、俺のほうが少しばかり早かった。
着地したばかりの射手は、すぐには動けない。
回し蹴りが決まる。
射手は柱に頭をぶつけて、意識を失った。
『危なかったな』
「この程度の高さなら、平気だ」
『みたいだな』
「クルスッ!」
サリアが黒光りする剣で敵を薙ぎ倒しながらこちらに駆け寄ってくる。
「俺は大丈夫だ、サリア」
「よ、よかったぁ。心臓が止まるかと思った……」
『無茶は感心しませんね』
「悪い」
素直に謝っておく。
『ま、無茶したってきっと死にはしないけどな。これから塔を上るのに怪我をされたら面倒だ』
「は?」
「え?」
ツァルがぼそりと呟いた言葉に、俺とサリアは同時に疑問符を投げかけた。
『後ろです』
キィンという音がすぐ近くで聞こえた。
アスィの声に即座に反応したサリアが、斬りかかってきた敵の剣をはね飛ばした音だ。
丸腰になった相手の顎に俺が掌底を打ち込む。
ふっ飛んだ男は脳震盪を起こしているのかすぐには動かない。
「なんだって?」
『お偉いさんのお出ましだ。あれが都市長のザルグムだ』
ツァルは俺の問いに答えない。
「ザルグム!?」
神殿へと続く大廊下の先、石階段の上に豪華な椅子を置かせ、そこに腰を下ろす男の姿があった。
傍にはドッツェが控えている。
周囲をヴァヴァロナ兵に守られ、随分と仰々しいお出ましだ。
ギリッと奥歯が鳴った。
父上を、母上を、兄上を、姉上を、妹を、そして親しかった者たちを殺された恨みが体の奥底から湧き上がる。
腸が煮えくり返るほどの怒り。
こいつが俺の敵。
俺の仇。
握る拳に力が入る。
掌に爪が食い込む。
その時、柔らかいものがそっと俺の手に触れた。
サリアの手だ。
「クルス、辛いだろうけど、今は精霊の塔に行くことだけを考えよう。世界を救わないと、ヴァヴァロナも救えないよ」
サリアの手が、俺の拳をそっと包む。
その優しさに、拳から力が抜ける。
俺は静かに、ゆっくりと深呼吸をした。
そうだ。
サリアの言うとおりだ。
「ああ、そうだな。もう、大丈夫だ。ありがとう、サリア」
サリアが首を小さく横に振る。
ついさっきまで戦っていた連中が、ザルグムを守るように後方に下がる。
俺たちとザルグムとの間に、障害物は何もない。
距離をあけて対峙する。
「そろそろ観念したらどうだ?」
唇を歪めた醜い笑みを浮かべていたザルグムが口を開いた。
わかってる! と心の中で応える。
このまま落ちれば、自分は着地できる。
俺は空中で相手の腕を離した。
頭を下にしていた射手は、着地の前に上手く体を回転させていた。
着地はほぼ同時。動き出すのは、俺のほうが少しばかり早かった。
着地したばかりの射手は、すぐには動けない。
回し蹴りが決まる。
射手は柱に頭をぶつけて、意識を失った。
『危なかったな』
「この程度の高さなら、平気だ」
『みたいだな』
「クルスッ!」
サリアが黒光りする剣で敵を薙ぎ倒しながらこちらに駆け寄ってくる。
「俺は大丈夫だ、サリア」
「よ、よかったぁ。心臓が止まるかと思った……」
『無茶は感心しませんね』
「悪い」
素直に謝っておく。
『ま、無茶したってきっと死にはしないけどな。これから塔を上るのに怪我をされたら面倒だ』
「は?」
「え?」
ツァルがぼそりと呟いた言葉に、俺とサリアは同時に疑問符を投げかけた。
『後ろです』
キィンという音がすぐ近くで聞こえた。
アスィの声に即座に反応したサリアが、斬りかかってきた敵の剣をはね飛ばした音だ。
丸腰になった相手の顎に俺が掌底を打ち込む。
ふっ飛んだ男は脳震盪を起こしているのかすぐには動かない。
「なんだって?」
『お偉いさんのお出ましだ。あれが都市長のザルグムだ』
ツァルは俺の問いに答えない。
「ザルグム!?」
神殿へと続く大廊下の先、石階段の上に豪華な椅子を置かせ、そこに腰を下ろす男の姿があった。
傍にはドッツェが控えている。
周囲をヴァヴァロナ兵に守られ、随分と仰々しいお出ましだ。
ギリッと奥歯が鳴った。
父上を、母上を、兄上を、姉上を、妹を、そして親しかった者たちを殺された恨みが体の奥底から湧き上がる。
腸が煮えくり返るほどの怒り。
こいつが俺の敵。
俺の仇。
握る拳に力が入る。
掌に爪が食い込む。
その時、柔らかいものがそっと俺の手に触れた。
サリアの手だ。
「クルス、辛いだろうけど、今は精霊の塔に行くことだけを考えよう。世界を救わないと、ヴァヴァロナも救えないよ」
サリアの手が、俺の拳をそっと包む。
その優しさに、拳から力が抜ける。
俺は静かに、ゆっくりと深呼吸をした。
そうだ。
サリアの言うとおりだ。
「ああ、そうだな。もう、大丈夫だ。ありがとう、サリア」
サリアが首を小さく横に振る。
ついさっきまで戦っていた連中が、ザルグムを守るように後方に下がる。
俺たちとザルグムとの間に、障害物は何もない。
距離をあけて対峙する。
「そろそろ観念したらどうだ?」
唇を歪めた醜い笑みを浮かべていたザルグムが口を開いた。
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