俺は自由になってやる!~眼球の中を漂う口うるさい精霊から解放されるための旅~

ユウリ(有李)

文字の大きさ
上 下
56 / 74
第四章

5 集まった精霊たちと、誓い

しおりを挟む
「テュッポたちも元気そうでよかった! あのあと、困ったことは何も起こらなかった?」

『ええ、何も。サリアたちにはとても感謝しています』

「ううん、感謝なんていいよ。みんなが元気でいてくれたら、それが一番だもの」

 喜びを分かち合うその様子がなんとも微笑ましくて、俺も思わず表情を緩めた。

「来てくれていたんだな」

『ああ、助かる』

 エスーハで会ったときと比べて、少し気配が濃くなったような気がする。

 大精霊シュテフォーラが降り立った、いわば聖地とも呼べるペリュシェスには、不思議力が宿っているのかもしれない。 

『それにしても驚きました。ペリュシェスから精霊がいなくなったと言われて久しいのに、いつの間にかこれほどの精霊が集っていたとは。旅の成果ですね。あ、あれはメ・ルトロで見かけた精霊ではないですか?』

 アスィの視線の先を追うと、確かに、檻の中に閉じ込められていた狼のような姿の精霊が湖の水を飲みにきているところだった。

 こちらに視線を向け、わずかに頭を下げる。

 俺は軽く手を上げて応えた。

 精霊の姿がそこかしこに見られる湖の畔。

 その先に見えるペリュシェスの遺跡。

 かつて、そこにあった神殿を想像する。

 精霊たちは何を思い、この地を離れたのだろう。

『ペリュシェスの神殿はシュテフォーラのための神殿でした。けれどシュテフォーラがこの世界を去り、神殿の主がいなくなるのと同時に、精霊もこの地を去り始めました。シュテフォーラを追って大精霊の世界ネル・シュテフスへ帰る者。守護者の支える世界に希望を抱き、ペリュー山脈を越える者。やがてペリュシェスから精霊の姿が消え、ここは遺跡と化しました』

 アスィがまるで俺の考えていたことがわかるかのように言葉を紡ぐ。

『ネル・シュテフス』のシュテフスとは、大精霊シュテフォーラのことだ。

 ネルは創成期に用いられていた古代言語で世界の意。 

「アスィは大精霊の世界ネル・シュテフスを知ってるのか?」

『もちろん。この世界にいる精霊には大精霊の世界ネル・シュテフスから来た者と、この地で生まれた者のふた通りあることはご存知でしょうが、わたしとツァルは前者です』

「そうだったのか」

 かつて、シュテフォーラが創造した世界に惹かれて移り棲んだ精霊が多くいたらしい。

 こちらの世界で新たに生まれた精霊たちと移り棲んだ者では年季が違うから、移住した精霊のほうに力の強い者が多いという話は耳にしたことがある。

「どうりで強いわけだ」

『守護者付きですから、相応の能力は一応持っていますよ』

 そう言ってにっこりと微笑むアスィからは、確かに守護者に仕えるに相応しい貫禄を感じた。

 当然のように身近にいるせいで、ツァルとアスィ、このふたりが強大な力を持つ精霊だということを忘れてしまいがちだけれど、ふとした瞬間にやっぱりすごい精霊なんだなと感じる。

 けれどそれは主にアスィに対してで、ツァルは未だにその力を使わない。

 力を使いすぎたと言っていたけれど、それは俺をクーデターの最中から助け出したことに何か関係があるのか? 

 大人しくしていればそのうち力が戻ると言っていたけれど、それはいつだ?

『こんにちは』

 物思いにふけっていたので、反応が遅れた。

 いつの間にか俯きがちになっていた顔を上げるとそこには小さな人形のような姿の精霊が立っていた。

「君は……」

『こんにちは』 

 アスィが精霊に対して笑顔を向ける。

『こんにちはアスィさま。アスィさままでリファルディアを離れていらっしゃるということは、やはりこれが最後の機会なんですわね』

 リファルディアの、川に浮く島の広場にいた精霊だ。

 サリアの行方を教えてくれたり、他の精霊への伝言を預かってくれた。

『あんたのおかげで、リファルディアからも精霊が来てるみたいだな。感謝する』

「どういたしまして」

 ツァルの言葉に、小さな精霊はつんと澄ました顔で応える。

「こんにちは。その節はどうもありがとう。君も来てくれたんだね」

 遅ればせながら、俺も挨拶を返した。

『ええ。何かが起ころうとしているのだということはわかりますわ。こうも変異が続けば、平和なリファルディアに居ても、この世界の寿命が絶えようとしていることには気付きます。わたしはこの世界が好きなのです。リファルディアを愛していますわ。ですから今ここにいるのです。どうか、世界を良き方向へ導いてくださいませ』

 そう言うと、小さな人形の姿をした精霊はスカートをつまみ、貴婦人のように礼をした。
 契約もしていない、主従の関係にもない。
 それなのに、誇り高き精霊が頭を下げたことに驚く。

 俺は小さく息を吸い、握った拳を自分の胸に当てた。

「クルストラ・ディ・ヴァヴァロナの名にかけて、全力を尽くします」

 それは誓いだ。

『よろしくお願いいたしますわ』

 そう言い置いて、小さな精霊は姿を消した。

 俺はしばらくの間動けず、その場に立ち尽くしていた。

 彼女の想いに触れ、胸が熱くなる。

 俺には誰も助けることができない。

 それなら最初から関わらないほうがいい。

 もう、他人には関わらない。

 ラドゥーゼでそう心に決めた。

 ツァルに言われるまま旅に出て各地を巡った。

 他人とは関わらず、言葉もほとんど交わさなかった。

 そんなときサリアに出会った。

 なりゆきで一緒に旅をすることになって、いつしかサリアのことが気になり始めた。

 サリアと別れることを決めたあとも、サリアのことが忘れられなかった。

 ヴァヴァロナの王子だったとわかって困惑したけれど、記憶が戻り、自覚を取り戻した。

 俺はヴァルヴェリアスと約束したことを思い出した。

 ――ヴァルヴェリアスの望みを叶えると。

 追われたり捕らわれたり助けられたりしながらここまで来た。

 俺に何ができるのか、それはわからない。

 けれどツァルが、アスィが、そしてサリアが一緒なのだから、きっと大丈夫だと信じられる。

 親衛隊のみんなも、精霊たちも、ここにいる。

 それがとても心強い。 

『さあ、行くぞ』

「ああ」

 必ず、世界を救ってみせる。

 ペリュシェホスの中心にそびえる精霊の塔が、俺たちを見下ろしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺の娘、チョロインじゃん!

ちゃんこ
ファンタジー
俺、そこそこイケてる男爵(32) 可愛い俺の娘はヒロイン……あれ? 乙女ゲーム? 悪役令嬢? ざまぁ? 何、この情報……? 男爵令嬢が王太子と婚約なんて、あり得なくね?  アホな俺の娘が高位貴族令息たちと仲良しこよしなんて、あり得なくね? ざまぁされること必至じゃね? でも、学園入学は来年だ。まだ間に合う。そうだ、隣国に移住しよう……問題ないな、うん! 「おのれぇぇ! 公爵令嬢たる我が娘を断罪するとは! 許さぬぞーっ!」 余裕ぶっこいてたら、おヒゲが素敵な公爵(41)が突進してきた! え? え? 公爵もゲーム情報キャッチしたの? ぎゃぁぁぁ! 【ヒロインの父親】vs.【悪役令嬢の父親】の戦いが始まる?

神の樹の物語・第一部 (巨大な樹が空を覆う世界に生きる人々)

グタネコ
ファンタジー
荒れ果てた時代の後、巨大な神の樹に守られながら生活している人々。幸福な時代が続いていくと思われたが、神の樹に異変が起き、混乱の時に入っていく。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

守護神の加護がもらえなかったので追放されたけど、実は寵愛持ちでした。神様が付いて来たけど、私にはどうにも出来ません。どうか皆様お幸せに!

蒼衣翼
恋愛
千璃(センリ)は、古い巫女の家系の娘で、国の守護神と共に生きる運命を言い聞かされて育った。 しかし、本来なら加護を授かるはずの十四の誕生日に、千璃には加護の兆候が現れず、一族から追放されてしまう。 だがそれは、千璃が幼い頃、そうとは知らぬまま、神の寵愛を約束されていたからだった。 国から追放された千璃に、守護神フォスフォラスは求愛し、へスペラスと改名した後に、人化して共に旅立つことに。 一方、守護神の消えた故国は、全ての加護を失い。衰退の一途を辿ることになるのだった。 ※カクヨムさまにも投稿しています

異世界転生した俺は、産まれながらに最強だった。

桜花龍炎舞
ファンタジー
主人公ミツルはある日、不慮の事故にあい死んでしまった。 だが目がさめると見知らぬ美形の男と見知らぬ美女が目の前にいて、ミツル自身の身体も見知らぬ美形の子供に変わっていた。 そして更に、恐らく転生したであろうこの場所は剣や魔法が行き交うゲームの世界とも思える異世界だったのである。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

悪役令嬢は婚約破棄後も溺愛される!?~王太子から逃げる方法教えてください~

六角
恋愛
王太子と婚約していたレイナは、彼が恋した聖女エリナと結ばれるために婚約破棄される。しかし、王太子はレイナを諦めきれず、彼女を追いかけてくる。レイナは王太子から逃げるために、様々な手段を試すが、どれも失敗に終わる。果たしてレイナは王太子から逃げ切れるのか?

処理中です...