俺は自由になってやる!~眼球の中を漂う口うるさい精霊から解放されるための旅~

ユウリ(有李)

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第四章

2 東西にのびる黒い亀裂

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「どうなってるんだ?」

「すごく大きな地割れができてるみたい。きっと、馬車は隙間に落ちたんだと思う」

 馬車が落下するほどの、大きな地割れだって? 

 ぞくりとして、馬車の止まっていたはずの場所を凝視する。

 いくら目を凝らしても、やっぱりそこには何もなかった。

 引き寄せられるように、俺は足を踏み出した。

『近づくな。地盤が弱くなっているはずだ。崩れたら今度こそおまえも落ちるぞ』

 ツァルが鋭い声で警告する。

「黒い亀裂が、東西に伸びてるの。まるで、アラカステルからペリュシェスへと向かう道を断っているみたい」

「深そうか?」

「たぶん。あれを越えるのは大変だと思う。こちら側に逃げて良かったね」

「ご無事ですか?」

「ああ。親衛隊士は全員無事か?」

「はい。なんとか」

 トルダが隊士の顔を確認してから答える。

「それは良かった」

「ですが馬車を失ってしまいました」

「俺たちはここまでずっと歩いて旅をしてきたから、徒歩には慣れてる。平気だ」

「隊士たちを無事な馬の回収に向かわせます。何頭見つかるかはわかりませんが、少しここでお待ちいただいてもいいですかな?」

「構わないけど」

「できるだけ急がせます」

 そう告げると、トルダは隊士たちに指示を出し始めた。

 馬のある隊士は即座に駆け出し、馬のない隊士は食料や水などの確認を始めている。

『それにしてもひどいな』

『急いだほうがよいかもしれませんね』

 今の地震はこれまでで一番大きかったように感じた。

 各地でかなりの被害が出ているはずだ。

 俺は唇を噛み締めた。

「トルダが戻ってきたら、相談してみよう」

「そうだね」

 サリアが不安そうに頷いた。

 リファルディアにいる父親と姉のことを、そしてルークにいるという家族のことを心配しているんだろう。

 俺は南へと視線を向けた。

 脈々と連なるペリュー山脈がすぐそこに見える。

 一刻も早く彼の地へ。

 自然と鼓動が速まるのを感じた。
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