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第二章
14 車輛内に投げ込まれた軍服の男
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先頭に立っていた男が剣を振り上げた。
遅い。
俺は低く踏み込むと、剣の柄を男の鳩尾にめり込ませた。
男が唾液を吐き散らし、前傾姿勢になって剣を落とす。
からんと通路に剣が落ちる音が響く。
俺はその男を座席のほうに蹴り飛ばした。
その隙に横から迫っていた剣を、自分の剣で受け止める。
手に衝撃が伝わる。
ぎりぎりと押し込んでくる相手に押されて、刃先が徐々に顔に近づいてくる。
特に鍛えているわけじゃないから、力比べじゃ部が悪い。
渾身の力を込めて、相手の剣を押し返す。
その隙に数歩後退して間合いを取り、体勢を立て直す。
「怪我をさせても構わん。とっとと捕らえろ!」
ドッツェの怒声がとぶ。
自分は何もしないくせに、随分と偉そうだ。
こんな奴の下で働かないといけないなんて、こいつらが気の毒になってきた。
男が再度斬りかかってくる。
この男は、他の奴とは違ってなかなかやる。
相手の攻撃を防ぐのに精一杯で、なかなか反撃に出られない。
『そういえばおまえ、剣は苦手だったんだよな』
「は? そうなの?」
記憶はないけれど、剣を持った感覚に覚えがあったから、てっきりそこそこ使えるんだと思っていた。
その隙を狙って、男の剣が襲いかかる。
俺は慌ててそれを弾き、更に下がる。
『王子だから剣術の練習もやってたんだけどな、おまえはいつまでたっても上達しなかった』
「この状況でそんなこと言うなよ」
すっかり勝てる気がしなくなった。
そうか、俺、剣は下手なのか。
『ま、ほどほどのヤツが相手なら対等にやり合えるだろ』
ほどほどってどの程度だ!?
その時、キィンという音がして、俺が握っていた剣が吹っ飛ばされた。
しまった!
剣を失った手が空を掴む。
「ここまでだ。怪我をしたくなかったら大人しくしろ」
剣先が真っ直ぐ、俺の喉もとにつきつけられる。
俺はごくりと唾を呑みこんで男の目を睨みつけた。
真っ直ぐに俺を射抜く瞳に負け、目を逸らす。
視界の隅をツァルがちらちらと移動してゆく。
おまえのせいだぞ、と文句を言いたくなる。
言ったところで、この状況をどうにかできるわけじゃないけれど。
俺は両手を上げて降参の意を表した。
「逃げようとは思わないことだ」
ここまでか。
俺は抵抗を諦めた。
――その時。
「思うに決まってるでしょ!」
突然、女の声が投げこまれ、俺たちは一斉に周囲を見渡した。
どこだ!?
どこから聞こえた?
『馬鹿、今だ。逃げろ』
声の主を探そうとしていた俺は、ツァルに言われてはっと我に返った。
男の剣先から逃れるように後退する。
そこに、窓から人影が飛び込んできた。
その人影はドッツェにぶつかり、諸共に倒れこむ。
人が飛び込んできたんじゃない。
軍服を着た男の体が、投げこまれたんだ。
そちらに気をとられているうちに、続いてもうひとり、窓から侵入してきた。
こちらは自分の意思で入ってきたようだ。
「どうして置き去りにしたのよ、クルス!」
俺の名前を呼ぶその声の主は――。
「サリア!?」
そこに立っているのは、黒く光る重そうな剣を手にしたサリアだった。
遅い。
俺は低く踏み込むと、剣の柄を男の鳩尾にめり込ませた。
男が唾液を吐き散らし、前傾姿勢になって剣を落とす。
からんと通路に剣が落ちる音が響く。
俺はその男を座席のほうに蹴り飛ばした。
その隙に横から迫っていた剣を、自分の剣で受け止める。
手に衝撃が伝わる。
ぎりぎりと押し込んでくる相手に押されて、刃先が徐々に顔に近づいてくる。
特に鍛えているわけじゃないから、力比べじゃ部が悪い。
渾身の力を込めて、相手の剣を押し返す。
その隙に数歩後退して間合いを取り、体勢を立て直す。
「怪我をさせても構わん。とっとと捕らえろ!」
ドッツェの怒声がとぶ。
自分は何もしないくせに、随分と偉そうだ。
こんな奴の下で働かないといけないなんて、こいつらが気の毒になってきた。
男が再度斬りかかってくる。
この男は、他の奴とは違ってなかなかやる。
相手の攻撃を防ぐのに精一杯で、なかなか反撃に出られない。
『そういえばおまえ、剣は苦手だったんだよな』
「は? そうなの?」
記憶はないけれど、剣を持った感覚に覚えがあったから、てっきりそこそこ使えるんだと思っていた。
その隙を狙って、男の剣が襲いかかる。
俺は慌ててそれを弾き、更に下がる。
『王子だから剣術の練習もやってたんだけどな、おまえはいつまでたっても上達しなかった』
「この状況でそんなこと言うなよ」
すっかり勝てる気がしなくなった。
そうか、俺、剣は下手なのか。
『ま、ほどほどのヤツが相手なら対等にやり合えるだろ』
ほどほどってどの程度だ!?
その時、キィンという音がして、俺が握っていた剣が吹っ飛ばされた。
しまった!
剣を失った手が空を掴む。
「ここまでだ。怪我をしたくなかったら大人しくしろ」
剣先が真っ直ぐ、俺の喉もとにつきつけられる。
俺はごくりと唾を呑みこんで男の目を睨みつけた。
真っ直ぐに俺を射抜く瞳に負け、目を逸らす。
視界の隅をツァルがちらちらと移動してゆく。
おまえのせいだぞ、と文句を言いたくなる。
言ったところで、この状況をどうにかできるわけじゃないけれど。
俺は両手を上げて降参の意を表した。
「逃げようとは思わないことだ」
ここまでか。
俺は抵抗を諦めた。
――その時。
「思うに決まってるでしょ!」
突然、女の声が投げこまれ、俺たちは一斉に周囲を見渡した。
どこだ!?
どこから聞こえた?
『馬鹿、今だ。逃げろ』
声の主を探そうとしていた俺は、ツァルに言われてはっと我に返った。
男の剣先から逃れるように後退する。
そこに、窓から人影が飛び込んできた。
その人影はドッツェにぶつかり、諸共に倒れこむ。
人が飛び込んできたんじゃない。
軍服を着た男の体が、投げこまれたんだ。
そちらに気をとられているうちに、続いてもうひとり、窓から侵入してきた。
こちらは自分の意思で入ってきたようだ。
「どうして置き去りにしたのよ、クルス!」
俺の名前を呼ぶその声の主は――。
「サリア!?」
そこに立っているのは、黒く光る重そうな剣を手にしたサリアだった。
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