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第二章
8 たどり着いた精霊堂で抱く決意
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到着したのは、なんと王宮にある王族専用の精霊堂の中だった。
床には絨毯が敷かれ、並べられた長椅子も細かい細工がされたひと目で高級品とわかるものだった。
正面にあるシュテフォーラの像も、大きくて見事なものだ。
『クルスとツァルはここで待っていてください。ひとまず王に詳細を報告して来なければならないので』
「すぐ戻るから、ごめんね」
そう言い置いて、サリアはアスィと共に精霊堂を出て行った。
俺は精霊堂の扉が閉まるのを待ってから、一番後ろの長椅子に腰を下ろす。
『サリアの超人的な体力はリフシャティーヌの加護のせいだったとはな』
「守護者も失敗をしたりするもんなんだな」
『そりゃあそうだ。精霊が万能じゃないのは、よく知ってるだろ』
「まあな」
『それにしても、まさかサリアが王家の血を引いているとはな』
「俺、これまでと同じ様に接してるけど、本当に大丈夫だと思うか? 不敬罪とかになったら嫌なんだけどさ」
『本人がこれまでと同じでいいって言ってんだから大丈夫だろ』
ツァルがどうでもよさそうに答える。
本当にそれでいいのか?
王家の血。
世界を守る守護者に仕える血族。
何代にも渡って、守護者の手足となり、世界を支える手助けをしてきた一族。
東の王家はクーデターにより滅ぼされ、今あるのは西の王家のみ。
それがどれほどの重責なのか、俺には想像もできない。
守護者のいない今、西の王家はリファルディアのみならず、近隣都市からの救援にも可能な限り応じているという。
その都市の王と王女が病に倒れている。
王妃は既に亡くなっていると聞いた。
側室はおらず、子どもはナルシーアだけというのが公式の記録だ。
そんなときに、サリアは俺たちと一緒にうろうろしていていいのか?
今からでも、戻ったほうがいいんじゃないのか?
詳しいことはわからないし、王族は他にもいるだろう。
でも、サリアの血は王女の血だ。
それはとても尊いものじゃないのか?
俺はシュテフォーラの像の前に立ち、顔を上げた。
シュテフォーラは角の生えた女性の姿をしている。
大きく広げた腕は世界を抱き、優しいまなざしは地上を照らす光となる。
創造主シュテフォーラ。
世界を支えるふたりの守護者。
守護者に仕えるふたつの王家。
そして世界に溢れていた精霊たち。
その中の多くが、既にこの世界から失われている。
「ツァル」
俺はひとつの決意を胸に、呼びかけた。
『なんだ?』
「行こう」
今のうちにここを去ろう。
サリアを連れては行けない。
きっと、彼女には別の役目があるはずだ。
『……せっかくいい子を拾ったと思ったんだがな』
「その分、俺ががんばればいいんだろう」
『へえ。常にやる気のないおまえが、がんばるって?』
「ああ。だから行こう」
俺はシュテフォーラの像に背を向けた。
『……いいだろう。もともと俺たちだけでやるつもりだったんだ。さっきの通路を使え。鍵は俺がなんとかしてやる』
「ありがとう」
俺は歩き出す。
隣には誰もいない。
ずっとこれが当たり前だったはずなのに、ぽっかりと穴が開いたような気持ちになって、俺は唇を噛み締めた。
これでいいんだ。
これでいい。
そう、何度も自分に言い聞かせた。
床には絨毯が敷かれ、並べられた長椅子も細かい細工がされたひと目で高級品とわかるものだった。
正面にあるシュテフォーラの像も、大きくて見事なものだ。
『クルスとツァルはここで待っていてください。ひとまず王に詳細を報告して来なければならないので』
「すぐ戻るから、ごめんね」
そう言い置いて、サリアはアスィと共に精霊堂を出て行った。
俺は精霊堂の扉が閉まるのを待ってから、一番後ろの長椅子に腰を下ろす。
『サリアの超人的な体力はリフシャティーヌの加護のせいだったとはな』
「守護者も失敗をしたりするもんなんだな」
『そりゃあそうだ。精霊が万能じゃないのは、よく知ってるだろ』
「まあな」
『それにしても、まさかサリアが王家の血を引いているとはな』
「俺、これまでと同じ様に接してるけど、本当に大丈夫だと思うか? 不敬罪とかになったら嫌なんだけどさ」
『本人がこれまでと同じでいいって言ってんだから大丈夫だろ』
ツァルがどうでもよさそうに答える。
本当にそれでいいのか?
王家の血。
世界を守る守護者に仕える血族。
何代にも渡って、守護者の手足となり、世界を支える手助けをしてきた一族。
東の王家はクーデターにより滅ぼされ、今あるのは西の王家のみ。
それがどれほどの重責なのか、俺には想像もできない。
守護者のいない今、西の王家はリファルディアのみならず、近隣都市からの救援にも可能な限り応じているという。
その都市の王と王女が病に倒れている。
王妃は既に亡くなっていると聞いた。
側室はおらず、子どもはナルシーアだけというのが公式の記録だ。
そんなときに、サリアは俺たちと一緒にうろうろしていていいのか?
今からでも、戻ったほうがいいんじゃないのか?
詳しいことはわからないし、王族は他にもいるだろう。
でも、サリアの血は王女の血だ。
それはとても尊いものじゃないのか?
俺はシュテフォーラの像の前に立ち、顔を上げた。
シュテフォーラは角の生えた女性の姿をしている。
大きく広げた腕は世界を抱き、優しいまなざしは地上を照らす光となる。
創造主シュテフォーラ。
世界を支えるふたりの守護者。
守護者に仕えるふたつの王家。
そして世界に溢れていた精霊たち。
その中の多くが、既にこの世界から失われている。
「ツァル」
俺はひとつの決意を胸に、呼びかけた。
『なんだ?』
「行こう」
今のうちにここを去ろう。
サリアを連れては行けない。
きっと、彼女には別の役目があるはずだ。
『……せっかくいい子を拾ったと思ったんだがな』
「その分、俺ががんばればいいんだろう」
『へえ。常にやる気のないおまえが、がんばるって?』
「ああ。だから行こう」
俺はシュテフォーラの像に背を向けた。
『……いいだろう。もともと俺たちだけでやるつもりだったんだ。さっきの通路を使え。鍵は俺がなんとかしてやる』
「ありがとう」
俺は歩き出す。
隣には誰もいない。
ずっとこれが当たり前だったはずなのに、ぽっかりと穴が開いたような気持ちになって、俺は唇を噛み締めた。
これでいいんだ。
これでいい。
そう、何度も自分に言い聞かせた。
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