俺は自由になってやる!~眼球の中を漂う口うるさい精霊から解放されるための旅~

ユウリ(有李)

文字の大きさ
上 下
25 / 74
第二章

8 たどり着いた精霊堂で抱く決意

しおりを挟む
 到着したのは、なんと王宮にある王族専用の精霊堂の中だった。

 床には絨毯が敷かれ、並べられた長椅子も細かい細工がされたひと目で高級品とわかるものだった。

 正面にあるシュテフォーラの像も、大きくて見事なものだ。

『クルスとツァルはここで待っていてください。ひとまず王に詳細を報告して来なければならないので』

「すぐ戻るから、ごめんね」

 そう言い置いて、サリアはアスィと共に精霊堂を出て行った。

 俺は精霊堂の扉が閉まるのを待ってから、一番後ろの長椅子に腰を下ろす。

『サリアの超人的な体力はリフシャティーヌの加護のせいだったとはな』
「守護者も失敗をしたりするもんなんだな」

『そりゃあそうだ。精霊が万能じゃないのは、よく知ってるだろ』
「まあな」

『それにしても、まさかサリアが王家の血を引いているとはな』
「俺、これまでと同じ様に接してるけど、本当に大丈夫だと思うか? 不敬罪とかになったら嫌なんだけどさ」

『本人がこれまでと同じでいいって言ってんだから大丈夫だろ』

 ツァルがどうでもよさそうに答える。

 本当にそれでいいのか?

 王家の血。
 世界を守る守護者に仕える血族。
 何代にも渡って、守護者の手足となり、世界を支える手助けをしてきた一族。 

 東の王家はクーデターにより滅ぼされ、今あるのは西の王家のみ。

 それがどれほどの重責なのか、俺には想像もできない。

 守護者のいない今、西の王家はリファルディアのみならず、近隣都市からの救援にも可能な限り応じているという。

 その都市の王と王女が病に倒れている。

 王妃は既に亡くなっていると聞いた。

 側室はおらず、子どもはナルシーアだけというのが公式の記録だ。

 そんなときに、サリアは俺たちと一緒にうろうろしていていいのか? 

 今からでも、戻ったほうがいいんじゃないのか? 

 詳しいことはわからないし、王族は他にもいるだろう。

 でも、サリアの血は王女の血だ。

 それはとても尊いものじゃないのか?

 俺はシュテフォーラの像の前に立ち、顔を上げた。

 シュテフォーラは角の生えた女性の姿をしている。

 大きく広げた腕は世界を抱き、優しいまなざしは地上を照らす光となる。

 創造主シュテフォーラ。
 世界を支えるふたりの守護者。

 守護者に仕えるふたつの王家。
 そして世界に溢れていた精霊たち。

 その中の多くが、既にこの世界から失われている。

「ツァル」

 俺はひとつの決意を胸に、呼びかけた。

『なんだ?』
「行こう」

 今のうちにここを去ろう。

 サリアを連れては行けない。

 きっと、彼女には別の役目があるはずだ。

『……せっかくいい子を拾ったと思ったんだがな』
「その分、俺ががんばればいいんだろう」

『へえ。常にやる気のないおまえが、がんばるって?』
「ああ。だから行こう」

 俺はシュテフォーラの像に背を向けた。  

『……いいだろう。もともと俺たちだけでやるつもりだったんだ。さっきの通路を使え。鍵は俺がなんとかしてやる』
「ありがとう」

 俺は歩き出す。

 隣には誰もいない。

 ずっとこれが当たり前だったはずなのに、ぽっかりと穴が開いたような気持ちになって、俺は唇を噛み締めた。

 これでいいんだ。
 これでいい。

 そう、何度も自分に言い聞かせた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

追放された薬師は騎士と王子に溺愛される 薬を作るしか能がないのに、騎士団の皆さんが離してくれません!

沙寺絃
ファンタジー
唯一の肉親の母と死に別れ、田舎から王都にやってきて2年半。これまで薬師としてパーティーに尽くしてきた16歳の少女リゼットは、ある日突然追放を言い渡される。 「リゼット、お前はクビだ。お前がいるせいで俺たちはSランクパーティーになれないんだ。明日から俺たちに近付くんじゃないぞ、このお荷物が!」 Sランクパーティーを目指す仲間から、薬作りしかできないリゼットは疫病神扱いされ追放されてしまう。 さらにタイミングの悪いことに、下宿先の宿代が値上がりする。節約の為ダンジョンへ採取に出ると、魔物討伐任務中の王国騎士団と出くわした。 毒を受けた騎士団はリゼットの作る解毒薬に助けられる。そして最新の解析装置によると、リゼットは冒険者としてはFランクだが【調合師】としてはSSSランクだったと判明。騎士団はリゼットに感謝して、専属薬師として雇うことに決める。 騎士団で認められ、才能を開花させていくリゼット。一方でリゼットを追放したパーティーでは、クエストが失敗続き。連携も取りにくくなり、雲行きが怪しくなり始めていた――。

竜の国のカイラ~前世は、精霊王の愛し子だったんですが、異世界に転生して聖女の騎士になりました~

トモモト ヨシユキ
ファンタジー
辺境で暮らす孤児のカイラは、人には見えないものが見えるために悪魔つき(カイラ)と呼ばれている。 同じ日に拾われた孤児の美少女ルイーズといつも比較されていた。 16歳のとき、神見の儀で炎の神の守護を持つと言われたルイーズに比べて、なんの神の守護も持たないカイラは、ますます肩身が狭くなる。 そんなある日、魔物の住む森に使いに出されたカイラは、魔物の群れに教われている人々に遭遇する。 カイラは、命がけで人々を助けるが重傷を負う。 死に瀕してカイラは、自分が前世で異世界の精霊王の姫であったことを思い出す。 エブリスタにも掲載しています。

間違い転生!!〜神様の加護をたくさん貰っても それでものんびり自由に生きたい〜

舞桜
ファンタジー
「初めまして!私の名前は 沙樹崎 咲子 35歳 自営業 独身です‼︎よろしくお願いします‼︎」  突然 神様の手違いにより死亡扱いになってしまったオタクアラサー女子、 手違いのお詫びにと色々な加護とチートスキルを貰って異世界に転生することに、 だが転生した先でまたもや神様の手違いが‼︎  神々から貰った加護とスキルで“転生チート無双“  瞳は希少なオッドアイで顔は超絶美人、でも性格は・・・  転生したオタクアラサー女子は意外と物知りで有能?  だが、死亡する原因には不可解な点が…  数々の事件が巻き起こる中、神様に貰った加護と前世での知識で乗り越えて、 神々と家族からの溺愛され前世での心の傷を癒していくハートフルなストーリー?  様々な思惑と神様達のやらかしで異世界ライフを楽しく過ごす主人公、 目指すは“のんびり自由な冒険者ライフ‼︎“  そんな主人公は無自覚に色々やらかすお茶目さん♪ *神様達は間違いをちょいちょいやらかします。これから咲子はどうなるのか?のんびりできるといいね!(希望的観測っw) *投稿周期は基本的には不定期です、3日に1度を目安にやりたいと思いますので生暖かく見守って下さい *この作品は“小説家になろう“にも掲載しています

転売屋(テンバイヤー)は相場スキルで財を成す

エルリア
ファンタジー
【祝!第17回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞!】 転売屋(テンバイヤー)が異世界に飛ばされたらチートスキルを手にしていた! 元の世界では疎まれていても、こっちの世界なら問題なし。 相場スキルを駆使して目指せ夢のマイショップ! ふとしたことで異世界に飛ばされた中年が、青年となってお金儲けに走ります。 お金は全てを解決する、それはどの世界においても同じ事。 金金金の主人公が、授かった相場スキルで私利私欲の為に稼ぎまくります。

迷い人と当たり人〜伝説の国の魔道具で気ままに快適冒険者ライフを目指します〜

青空ばらみ
ファンタジー
 一歳で両親を亡くし母方の伯父マークがいる辺境伯領に連れて来られたパール。 伯父と一緒に暮らすお許しを辺境伯様に乞うため訪れていた辺境伯邸で、たまたま出くわした侯爵令嬢の無知な善意により 六歳で見習い冒険者になることが決定してしまった! 運良く? 『前世の記憶』を思い出し『スマッホ』のチェリーちゃんにも協力してもらいながら 立派な冒険者になるために 前世使えなかった魔法も喜んで覚え、なんだか百年に一人現れるかどうかの伝説の国に迷いこんだ『迷い人』にもなってしまって、その恩恵を受けようとする『当たり人』と呼ばれる人たちに貢がれたり…… ぜんぜん理想の田舎でまったりスローライフは送れないけど、しょうがないから伝説の国の魔道具を駆使して 気ままに快適冒険者を目指しながら 周りのみんなを無自覚でハッピーライフに巻き込んで? 楽しく生きていこうかな! ゆる〜いスローペースのご都合ファンタジーです。 小説家になろう様でも投稿をしております。

帝国は滅ぼさせない。

弓チョコ
ファンタジー
憧れの騎士団長が遺した「魔剣」を受け継いで、帝国の支配から世界を救う旅に出た少年。 持ち前の才能と悪運で成長しながら仲間を増やし、幾多の危機を乗り越えていく少年。 ……に、負けるわけにはいかない。 帝国出身の少女アイネは、少年が帝国を滅ぼさないように立ち回ろうとする。 アイネには、少年を危険視する理由と秘密があった。 ※この作品は「アルファポリス」「小説家になろう」「カクヨム」にも掲載しています。

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

処理中です...