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第二章
7 明かされる少女の素性
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『サリア様は、王の体調が思わしくないことを耳にされたのではないですか?』
アスィがサリアに問いかける。
「そうよ。わたしはもう王家とは関係のない存在だけれど、心配で。もしうまくいけば、こっそりとお見舞いくらいはできるかと思ったの」
「ちょっと待ってくれ。関係ないとはいっても、おまえに流れているのは王家の血なんだろ?」
「そうだよ。でも、それだけだよ。わたしの家族は、ルークにいるもの」
「そんなこと言ったって……」
そんな風に、割り切ってしまっていいものなのか?
「わたしはサリアだよ。ここまで一緒に旅をしてきたサリアだよ。血筋とかそんなの関係ない。わたしはわたしだよ」
「いや、でもさ……」
「関係ない!」
サリアが強い口調で否定する。
俺は何か言い返そうとして、でもサリアの瞳に射抜かれて、結局これ以上続けるのは諦めた。
小さく息を吐く。
「わかったよ。……で、何が本当で、何が嘘だったんだ? エスーハまで買い出しにきたんだって言ってたのは?」
「いつも買い出しに来ていたのは本当。でも、クルスにぶつかったのは、ツァルの気配を感じたから気になってあなたのあとを追いかけていたから。思わず助けてって言ったのは……あのまま別れたら、もう会えないかもと思ったから」
足を止めて振り返ったサリアが「ごめんなさい」と頭を下げた。
「そのせいで、俺は面倒に巻き込まれた」
「でも、そのおかげで飢え死にしなくて済んだでしょ?」
あのとき食わせてもらった飯が美味かったことを思い出す。
「じゃあ、尽きない体力のわけは?」
「わたしがリファルディアを去るとき、リフシャティーヌ様の加護をいただいたんだって。あまり疲れないし、力もあるし、運動神経も結構いいの。それに病気にもならない。遠く離れてもわたしが元気で育つようにってことらしいんだけど、ちょっと加減を失敗したみたい」
サリアが苦笑を浮かべる。
確かにやりすぎた感がある。
俺も思わず笑ってしまった。
「そうか」
「うん。ごめんね、黙ってて」
俺は別に怒っているわけじゃない。
サリアが話してくれたことは嬉しいし、おかげですっきりした。
王族は精霊に仕える血族でもあるから、その血が流れているのなら精霊を見ることができるのも納得できる。
「それで、これからどうするんだ? 王と王女に会ったら、ルークに戻るのか?」
「なんで!?」
俯きがちだったサリアが勢いよく顔を上げた。
俺はその勢いに驚いて、思わず身を引く。
「え? だって、見舞いに来るのが目的だったんだろ?」
戸惑いながら答えると、サリアが眉をつり上げた。
「それはそれ。これはこれだよ。わたし、本当にこの世界をなんとかしたいと思ってるんだよ。だから、ペリュシェスまで一緒に行く。この世界のことをすごく心配しているのに、病気のせいでなかなか動けないナルシーア様のためにも、わたしにできることはなんでもしたいの。だから……そんなこと訊かないで」
「わ、悪かった」
その迫力に気圧されるように謝った。
謝りながら、ほっとしている自分に気付く。
サリアがいなくなったらどうしようと不安に思ってしまった。
ただ、もとの状態に戻るだけなのに。
「これからも、よろしくね」
サリアが表情を和らげてから、手を差し出した。細くて小さな手だ。
「よろしく」
俺は力を入れすぎないように、そっとその手を握った。
サリアがきゅっと握り返してくる。
『めでたし、めでたしだな』
『サリア様をあまり危険なことに巻き込まないようにしてくださいね』
これまで引っ込んでいたツァルが暢気に言う。
背後からアスィに忠告されている。
『サリアはもう王家とは関係ないんだろ?』
『表向きはそうなっていますが、心情的にはやはりみな心配しています』
『だからリフシャティーヌ付きのはずのおまえ自ら、わざわざサリアを迎えに来たって?』
『リフシャティーヌ様がおられない今、わたしの役目はほとんどありませんからね。それに、わたしはときどきナルシーア様からサリア様宛の手紙を預かって届けたりしていたので、面識があります。だから適任だと思ったんですよ』
再び歩き始めると、ツァルとアスィの親しげな会話が聞こえた。
「ツァルとアスィは、どういう知り合いなんだ?」
『ずっと昔に挨拶をしたことがある程度だ』
『あなたが生まれるよりも前のことですよ』
ふたりとも、それ以上は話すつもりがないようだ。
地下通路は一本道だった。
まだ着かないのか、と思い始めたころ、サリアが足を止めた。
『お先に失礼します』
アスィが俺とサリアを追い抜く。
「ここから階段になってるから、気をつけてね」
俺が頷くのを確認してから、サリアが階段を上り始めた。
アスィは先に行ってしまった。
突然、明るい光が射しこんで、俺は目を細める。
どうやらアスィが扉を開けたらしい。
――そして俺たちも、明るい光の中へ踏み出したのだった。
アスィがサリアに問いかける。
「そうよ。わたしはもう王家とは関係のない存在だけれど、心配で。もしうまくいけば、こっそりとお見舞いくらいはできるかと思ったの」
「ちょっと待ってくれ。関係ないとはいっても、おまえに流れているのは王家の血なんだろ?」
「そうだよ。でも、それだけだよ。わたしの家族は、ルークにいるもの」
「そんなこと言ったって……」
そんな風に、割り切ってしまっていいものなのか?
「わたしはサリアだよ。ここまで一緒に旅をしてきたサリアだよ。血筋とかそんなの関係ない。わたしはわたしだよ」
「いや、でもさ……」
「関係ない!」
サリアが強い口調で否定する。
俺は何か言い返そうとして、でもサリアの瞳に射抜かれて、結局これ以上続けるのは諦めた。
小さく息を吐く。
「わかったよ。……で、何が本当で、何が嘘だったんだ? エスーハまで買い出しにきたんだって言ってたのは?」
「いつも買い出しに来ていたのは本当。でも、クルスにぶつかったのは、ツァルの気配を感じたから気になってあなたのあとを追いかけていたから。思わず助けてって言ったのは……あのまま別れたら、もう会えないかもと思ったから」
足を止めて振り返ったサリアが「ごめんなさい」と頭を下げた。
「そのせいで、俺は面倒に巻き込まれた」
「でも、そのおかげで飢え死にしなくて済んだでしょ?」
あのとき食わせてもらった飯が美味かったことを思い出す。
「じゃあ、尽きない体力のわけは?」
「わたしがリファルディアを去るとき、リフシャティーヌ様の加護をいただいたんだって。あまり疲れないし、力もあるし、運動神経も結構いいの。それに病気にもならない。遠く離れてもわたしが元気で育つようにってことらしいんだけど、ちょっと加減を失敗したみたい」
サリアが苦笑を浮かべる。
確かにやりすぎた感がある。
俺も思わず笑ってしまった。
「そうか」
「うん。ごめんね、黙ってて」
俺は別に怒っているわけじゃない。
サリアが話してくれたことは嬉しいし、おかげですっきりした。
王族は精霊に仕える血族でもあるから、その血が流れているのなら精霊を見ることができるのも納得できる。
「それで、これからどうするんだ? 王と王女に会ったら、ルークに戻るのか?」
「なんで!?」
俯きがちだったサリアが勢いよく顔を上げた。
俺はその勢いに驚いて、思わず身を引く。
「え? だって、見舞いに来るのが目的だったんだろ?」
戸惑いながら答えると、サリアが眉をつり上げた。
「それはそれ。これはこれだよ。わたし、本当にこの世界をなんとかしたいと思ってるんだよ。だから、ペリュシェスまで一緒に行く。この世界のことをすごく心配しているのに、病気のせいでなかなか動けないナルシーア様のためにも、わたしにできることはなんでもしたいの。だから……そんなこと訊かないで」
「わ、悪かった」
その迫力に気圧されるように謝った。
謝りながら、ほっとしている自分に気付く。
サリアがいなくなったらどうしようと不安に思ってしまった。
ただ、もとの状態に戻るだけなのに。
「これからも、よろしくね」
サリアが表情を和らげてから、手を差し出した。細くて小さな手だ。
「よろしく」
俺は力を入れすぎないように、そっとその手を握った。
サリアがきゅっと握り返してくる。
『めでたし、めでたしだな』
『サリア様をあまり危険なことに巻き込まないようにしてくださいね』
これまで引っ込んでいたツァルが暢気に言う。
背後からアスィに忠告されている。
『サリアはもう王家とは関係ないんだろ?』
『表向きはそうなっていますが、心情的にはやはりみな心配しています』
『だからリフシャティーヌ付きのはずのおまえ自ら、わざわざサリアを迎えに来たって?』
『リフシャティーヌ様がおられない今、わたしの役目はほとんどありませんからね。それに、わたしはときどきナルシーア様からサリア様宛の手紙を預かって届けたりしていたので、面識があります。だから適任だと思ったんですよ』
再び歩き始めると、ツァルとアスィの親しげな会話が聞こえた。
「ツァルとアスィは、どういう知り合いなんだ?」
『ずっと昔に挨拶をしたことがある程度だ』
『あなたが生まれるよりも前のことですよ』
ふたりとも、それ以上は話すつもりがないようだ。
地下通路は一本道だった。
まだ着かないのか、と思い始めたころ、サリアが足を止めた。
『お先に失礼します』
アスィが俺とサリアを追い抜く。
「ここから階段になってるから、気をつけてね」
俺が頷くのを確認してから、サリアが階段を上り始めた。
アスィは先に行ってしまった。
突然、明るい光が射しこんで、俺は目を細める。
どうやらアスィが扉を開けたらしい。
――そして俺たちも、明るい光の中へ踏み出したのだった。
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