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第二章
2 同行者の初めての単独行動
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「ちょっと外に出てきてもいい?」
サリアがそう口にしたのは、部屋に案内された直後のことだ。
俺が椅子に腰を下ろそうとしたまさにその時で、サリアはドアの前に立ったままだった。
「どこに? ひとりでか?」
これまでにサリアが俺たちと離れて行動したいと言ったことはなかったので驚いた。
「精霊がたくさんいるのが嬉しくて。ちょっと散歩してくるだけだから、大丈夫。襟巻きをしっかり巻いて行くし、得体の知れないものを買い食いしたりもしないから。治安の悪そうなところや人気のないところには近づかないよ。いいかな?」
さっき感じた視線のことが気になった。
けれど、怪しい人影はなかったし、そのあとは気配を感じなかった。
まだ日が高いし、その辺を散歩するくらいなら大丈夫……か?
俺はサリアを上から下まで眺める。
ひとりで歩かせるのは、なんだか不安だ。
「じゃあ、俺も一緒に行く」
「あ、いいよいいよ。疲れてるでしょ?」
「そりゃあ疲れてるけど、散歩もできないほどじゃない」
「大丈夫だよ。何かあったら、走って逃げるから。ね?」
『いいんじゃないか? 行ってこいよ。俺たちも出かけるようなら、書き置きを残しておく』
「ツァル、ありがと」
「おい、ツァル」
『おまえ、いつからそんなに心配性になったんだよ、クルス』
ツァルの言葉にひやかしが滲んでいる。
「心配性っ!? そ、そんなんじゃない。ただ、何かあったら面倒だから言ってるんだ」
『ああそうかい』
「クルス、心配してくれてありがとう」
「いや、だから違……」
「いってきまあす!」
俺の言葉を最後まで聞かず、サリアが部屋を飛び出して行った。
パタンとドアが閉まり、部屋に静寂が落ちる。
「あーあ」
俺は背もたれに体重を預けて、天井を仰いだ。
『おい、何をのんびりしてるんだ。追うぞ』
「は?」
視界を横切るツァルの姿を思わず追う。
俺の眼球の中をすいすいと移動しながら、ツァルが早くしろ、と急かす。
『見失っちまうぞ』
「追うって、まさか……」
『あいつの正体を知る手がかりがあるかもしれないだろうが。早くしろ』
そういうことか。快く送り出すような言葉をかけておいて、実はあとをつけようという心積もりだったらしい。
やっぱりこいつは性格が悪い。
俺は腰を上げるのを躊躇しながら、サリアが出ていったばかりのドアに視線を向けた。
サリアのことが知りたいのは俺も同じだ。
でも、こういうやり方はどうかと思う。
「俺、疲れてるんだけどさ」
『散歩くらいはできるんだろ?』
ささやかな抵抗は即座に却下された。
わかってたさ。ちょっと言ってみただけだ。
そうして俺は、ようやく思い腰を上げた。
サリアがそう口にしたのは、部屋に案内された直後のことだ。
俺が椅子に腰を下ろそうとしたまさにその時で、サリアはドアの前に立ったままだった。
「どこに? ひとりでか?」
これまでにサリアが俺たちと離れて行動したいと言ったことはなかったので驚いた。
「精霊がたくさんいるのが嬉しくて。ちょっと散歩してくるだけだから、大丈夫。襟巻きをしっかり巻いて行くし、得体の知れないものを買い食いしたりもしないから。治安の悪そうなところや人気のないところには近づかないよ。いいかな?」
さっき感じた視線のことが気になった。
けれど、怪しい人影はなかったし、そのあとは気配を感じなかった。
まだ日が高いし、その辺を散歩するくらいなら大丈夫……か?
俺はサリアを上から下まで眺める。
ひとりで歩かせるのは、なんだか不安だ。
「じゃあ、俺も一緒に行く」
「あ、いいよいいよ。疲れてるでしょ?」
「そりゃあ疲れてるけど、散歩もできないほどじゃない」
「大丈夫だよ。何かあったら、走って逃げるから。ね?」
『いいんじゃないか? 行ってこいよ。俺たちも出かけるようなら、書き置きを残しておく』
「ツァル、ありがと」
「おい、ツァル」
『おまえ、いつからそんなに心配性になったんだよ、クルス』
ツァルの言葉にひやかしが滲んでいる。
「心配性っ!? そ、そんなんじゃない。ただ、何かあったら面倒だから言ってるんだ」
『ああそうかい』
「クルス、心配してくれてありがとう」
「いや、だから違……」
「いってきまあす!」
俺の言葉を最後まで聞かず、サリアが部屋を飛び出して行った。
パタンとドアが閉まり、部屋に静寂が落ちる。
「あーあ」
俺は背もたれに体重を預けて、天井を仰いだ。
『おい、何をのんびりしてるんだ。追うぞ』
「は?」
視界を横切るツァルの姿を思わず追う。
俺の眼球の中をすいすいと移動しながら、ツァルが早くしろ、と急かす。
『見失っちまうぞ』
「追うって、まさか……」
『あいつの正体を知る手がかりがあるかもしれないだろうが。早くしろ』
そういうことか。快く送り出すような言葉をかけておいて、実はあとをつけようという心積もりだったらしい。
やっぱりこいつは性格が悪い。
俺は腰を上げるのを躊躇しながら、サリアが出ていったばかりのドアに視線を向けた。
サリアのことが知りたいのは俺も同じだ。
でも、こういうやり方はどうかと思う。
「俺、疲れてるんだけどさ」
『散歩くらいはできるんだろ?』
ささやかな抵抗は即座に却下された。
わかってたさ。ちょっと言ってみただけだ。
そうして俺は、ようやく思い腰を上げた。
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