18 / 74
第二章
1 芸術都市リファルディア
しおりを挟む
リファルディアは芸術都市として知られていて、五つの門で有名だ。
音楽の門、絵画の門、彫刻の門、演劇の門、そして万人の門。
そのどの門からでも都市に入ことができ、どこから入るかは全くの自由だ。
俺たちは南東に位置する万人の門から入った。
俺とサリアは、外套のフードをかぶり、襟巻きで顔の半分を覆っている。
門の外には、同じ様な格好の旅人が多かった。
けれど門をくぐり、街の中に踏み込んだその時、俺は息を呑み足を止めることになった。
目の前には一面に芝生が広がり、並木が美しく並んでいる。
小鳥がさえずり、花壇には色とりどりの花が咲き乱れている。
「きれい……」
隣から吐息とともにもれた声が聞こえた。
訪れる者を歓迎するかのように噴き上げている噴水の飛沫が、太陽の光を浴びて輝く。
まるで楽園だ。
『これが噂のリファルディアか』
ツァルの声にも、驚きが滲んでいる。
絵を描く人、楽器を奏でる人、芝居の台詞を練習する人などの姿があちらこちらで見られ、さすが芸術都市だと実感する。
「さすが守護者が守る都市だな」
「でも、西の守護者リフシャティーヌは一年前、眠りについたんでしょ?」
『らしいな』
「大精霊の世界に戻ったってことか?」
『って話だな』
「守護者がいないって聞いていたから少し心配してたんだけど、それでもこれだけ精霊が残ってるんだね」
「すごいな。俺がこれまでに会ってきた精霊の数とは比べ物にならないくらいだ」
噴水の周囲で飛び跳ねる小人のような精霊、風に乗ってふわふわと飛んでゆく蝶に似た精霊。
なによりも驚いたのは、人間の姿を模した精霊が普通に道を歩いていることだった。
模しているとはいえ、二足歩行していること以外はそれぞれ個性溢れる姿をしているので、ひと目でわかる。
中には、人間そっくりに模す者もいるけれど、数は多くない。
長い耳が腰まで垂れている者、髪が燃えているように見える者、鼻が象のように長い者。
『守護者が戻ってこなければ、いずれこの街も他の都市と変わらなくなるさ』
「ツァル……」
サリアが哀しそうに目を伏せる。
俺たちの世界は、かつてふたりの守護者によって守られていた。
東の守護者・ヴァルヴェリアスと、西の守護者・リフシャティーヌ。
ともに巨大な能力をもつ精霊で、ヴァヴァロナとリファルディアにある守護者の塔に棲み、両王家がそれぞれの守護者に仕えていた。
けれどふたりの精霊は世界のために力を使い果たし、相次いで塔から姿を消してしまう。
それを機に、精霊の多くは大精霊の世界へと去ってしまった。
「それで、どうするんだ? ここは精霊が多いみたいだけど、手当たり次第声をかけるのか?」
『いや、多すぎるな、これは。少しやり方を考えてみようと思う』
「じゃあ、先に宿を探すぞ」
『好きにしろ』
俺は小さく肩をすくめて、周囲を見渡した。
万人の門前の広場から何本かの道が伸びている。
リファルディアもエスーハのように都市の中心を川が流れていて、川の北側に店が多かったはずだ。
必要最低限の知識はなんとか詰め込んである。
旅をする途中で、目的地やそこに至るまでの土地の情報も集めた。
都市の中央にはかつてリフシャティーヌがいたはずの守護者の塔がある。
その最上階は雲に遮られて見えない。
それほど高いということだ。
立派な塔。
けれど、今はただの抜け殻と成り果てている。
隣を見ると、サリアも守護者の塔を見上げていた。
目を細めて、まるで雲のその向こう側を見透かそうとしているみたいだ。
次の瞬間、はっとサリアがこちらを見た。
俺の視線に気づいたらしい。
「どうした?」
「ううん。なんでもない」
サリアが先頭に立って、歩き出す。
俺は数歩遅れてそのあとに続いた。
と、背後に視線を感じたような気がして、反射的に振り返る。
けれどそこに怪しい人影はなかった。
まさか、エスーハからドルグワたちが追ってきたということはないだろうけれど……。
気のせいか?
視線をめぐらせて不審者がいないことを確認してから、俺はサリアのあとを追った。
音楽の門、絵画の門、彫刻の門、演劇の門、そして万人の門。
そのどの門からでも都市に入ことができ、どこから入るかは全くの自由だ。
俺たちは南東に位置する万人の門から入った。
俺とサリアは、外套のフードをかぶり、襟巻きで顔の半分を覆っている。
門の外には、同じ様な格好の旅人が多かった。
けれど門をくぐり、街の中に踏み込んだその時、俺は息を呑み足を止めることになった。
目の前には一面に芝生が広がり、並木が美しく並んでいる。
小鳥がさえずり、花壇には色とりどりの花が咲き乱れている。
「きれい……」
隣から吐息とともにもれた声が聞こえた。
訪れる者を歓迎するかのように噴き上げている噴水の飛沫が、太陽の光を浴びて輝く。
まるで楽園だ。
『これが噂のリファルディアか』
ツァルの声にも、驚きが滲んでいる。
絵を描く人、楽器を奏でる人、芝居の台詞を練習する人などの姿があちらこちらで見られ、さすが芸術都市だと実感する。
「さすが守護者が守る都市だな」
「でも、西の守護者リフシャティーヌは一年前、眠りについたんでしょ?」
『らしいな』
「大精霊の世界に戻ったってことか?」
『って話だな』
「守護者がいないって聞いていたから少し心配してたんだけど、それでもこれだけ精霊が残ってるんだね」
「すごいな。俺がこれまでに会ってきた精霊の数とは比べ物にならないくらいだ」
噴水の周囲で飛び跳ねる小人のような精霊、風に乗ってふわふわと飛んでゆく蝶に似た精霊。
なによりも驚いたのは、人間の姿を模した精霊が普通に道を歩いていることだった。
模しているとはいえ、二足歩行していること以外はそれぞれ個性溢れる姿をしているので、ひと目でわかる。
中には、人間そっくりに模す者もいるけれど、数は多くない。
長い耳が腰まで垂れている者、髪が燃えているように見える者、鼻が象のように長い者。
『守護者が戻ってこなければ、いずれこの街も他の都市と変わらなくなるさ』
「ツァル……」
サリアが哀しそうに目を伏せる。
俺たちの世界は、かつてふたりの守護者によって守られていた。
東の守護者・ヴァルヴェリアスと、西の守護者・リフシャティーヌ。
ともに巨大な能力をもつ精霊で、ヴァヴァロナとリファルディアにある守護者の塔に棲み、両王家がそれぞれの守護者に仕えていた。
けれどふたりの精霊は世界のために力を使い果たし、相次いで塔から姿を消してしまう。
それを機に、精霊の多くは大精霊の世界へと去ってしまった。
「それで、どうするんだ? ここは精霊が多いみたいだけど、手当たり次第声をかけるのか?」
『いや、多すぎるな、これは。少しやり方を考えてみようと思う』
「じゃあ、先に宿を探すぞ」
『好きにしろ』
俺は小さく肩をすくめて、周囲を見渡した。
万人の門前の広場から何本かの道が伸びている。
リファルディアもエスーハのように都市の中心を川が流れていて、川の北側に店が多かったはずだ。
必要最低限の知識はなんとか詰め込んである。
旅をする途中で、目的地やそこに至るまでの土地の情報も集めた。
都市の中央にはかつてリフシャティーヌがいたはずの守護者の塔がある。
その最上階は雲に遮られて見えない。
それほど高いということだ。
立派な塔。
けれど、今はただの抜け殻と成り果てている。
隣を見ると、サリアも守護者の塔を見上げていた。
目を細めて、まるで雲のその向こう側を見透かそうとしているみたいだ。
次の瞬間、はっとサリアがこちらを見た。
俺の視線に気づいたらしい。
「どうした?」
「ううん。なんでもない」
サリアが先頭に立って、歩き出す。
俺は数歩遅れてそのあとに続いた。
と、背後に視線を感じたような気がして、反射的に振り返る。
けれどそこに怪しい人影はなかった。
まさか、エスーハからドルグワたちが追ってきたということはないだろうけれど……。
気のせいか?
視線をめぐらせて不審者がいないことを確認してから、俺はサリアのあとを追った。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
僕の兄上マジチート ~いや、お前のが凄いよ~
SHIN
ファンタジー
それは、ある少年の物語。
ある日、前世の記憶を取り戻した少年が大切な人と再会したり周りのチートぷりに感嘆したりするけど、実は少年の方が凄かった話し。
『僕の兄上はチート過ぎて人なのに魔王です。』
『そういうお前は、愛され過ぎてチートだよな。』
そんな感じ。
『悪役令嬢はもらい受けます』の彼らが織り成すファンタジー作品です。良かったら見ていってね。
隔週日曜日に更新予定。
あなたは異世界に行ったら何をします?~良いことしてポイント稼いで気ままに生きていこう~
深楽朱夜
ファンタジー
13人の神がいる異世界《アタラクシア》にこの世界を治癒する為の魔術、異界人召喚によって呼ばれた主人公
じゃ、この世界を治せばいいの?そうじゃない、この魔法そのものが治療なので後は好きに生きていって下さい
…この世界でも生きていける術は用意している
責任はとります、《アタラクシア》に来てくれてありがとう
という訳で異世界暮らし始めちゃいます?
※誤字 脱字 矛盾 作者承知の上です 寛容な心で読んで頂けると幸いです
※表紙イラストはAIイラスト自動作成で作っています
異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん
夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。
のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。
16世紀のオデュッセイア
尾方佐羽
歴史・時代
【第13章を夏ごろからスタート予定です】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。
12章は16世紀後半のフランスが舞台になっています。
※このお話は史実を参考にしたフィクションです。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。
玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!?
成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに!
故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。
この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。
持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。
主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。
期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。
その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。
仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!?
美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。
この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~
しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」
病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?!
女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。
そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!?
そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?!
しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。
異世界転生の王道を行く最強無双劇!!!
ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!!
小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
お前じゃないと、追い出されたが最強に成りました。ざまぁ~見ろ(笑)
いくみ
ファンタジー
お前じゃないと、追い出されたので楽しく復讐させて貰いますね。実は転生者で今世紀では貴族出身、前世の記憶が在る、今まで能力を隠して居たがもう我慢しなくて良いな、開き直った男が楽しくパーティーメンバーに復讐していく物語。
---------
掲載は不定期になります。
追記
「ざまぁ」までがかなり時間が掛かります。
お知らせ
カクヨム様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる