俺は自由になってやる!~眼球の中を漂う口うるさい精霊から解放されるための旅~

ユウリ(有李)

文字の大きさ
上 下
17 / 74
第一章

16 別れ際に交わす再会の約束

しおりを挟む
 翌朝、空が白み始めるころ、俺たちはミールの家を出た。

「本当に、もう行かれるんですか?」

「ミールとガティは、やっぱりここに留まるのか?」

 ガティがいるとはいえ、今の状況では辛いことが多いだろう。

 契約している精霊には基本的に声をかけないことにしているツァルも、昨夜はガティたちに、一緒に行かないかと誘っていた。

 今は遺跡と化しているペリュシェスでも、手を加えれば人が生活することが可能らしい。

 あちらには精霊がたくさんいるから、間違っても精霊憑きだなんて言われたりはしないし、ガティがいればミールと他の精霊との付き合いも上手くいくだろう。

 それでもガティは断った。

 俺からミールにも訊いてみたけれど、答えは同じだった。

 無理強いをすることじゃない。

 それでも最後にもう一度だけ、訊いてしまった。

「はい。わたしたちは、ここで」

『ミールの家族が眠っているこの地にいたいのです』

 ガティの声はか細く、今にも消え入りそうだった。

 けれどミールを想う気持ちがとてもよく伝わってきた。

 羨ましいのか、とツァルに訊かれたことを思い出した。

 俺は否定した。

 他人は他人、自分は自分。
 今日もこうして生きていられるだけでもうけもの。

 そう思ってきた。

 けれど、やっぱり少し羨ましいかもしれない。  

 誰かに想われるのは、どんな感じなんだろう。
 誰かを想うのは、どんな感じなんだろう。

 俺にはわからない。

「また、寄らせてもらってもいい?」

「もちろんです」

 サリアとミールが手を握り合う。

 一泊させてもらっただけなのに随分と仲良くなったものだ。

『気が向いたらいつでもペリュシェスに来ればいい。って、伝えてやってくれ』

 ツァルの声は直接ミールには聞こえない。

 俺がその言葉を伝えると、ミールは苦笑を浮かべた。

 いつか旅行にでも、と控えめに言う。

 サリアとミールが、互いの手をそっと離した。

「じゃあ、またね」

「さようなら。また、いつか――ね」

 ふたりが別れの言葉を交わす。

「また会えるといいな」

「会いましょう。それまで、お元気で」

 会いましょう、とミールは言った。

 逃げ道のある俺の言葉とは違って、ミールのその言葉には逃げ道はなかった。

 自らの意思で再会を、という約束だ。

「ああ、会おう。じゃあ」

 俺は踵を返した。

 サリアが続くのがわかる。

「お元気で」

 背中に投げかけられた声に、俺は振り向かず片手を上げて応えた。

 隣を歩くサリアは、しばしば振り返っては、大きく手を振っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

前世の幸福ポイントを使用してチート冒険者やってます。

サツキ コウ
ファンタジー
俗に言う異世界転生物。 人生の幸福ポイントを人一倍残した状態で不慮の死を遂げた主人公が、 前世のポイントを使ってチート化! 新たな人生では柵に囚われない為に一流の冒険者を目指す。

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」 数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。 ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。 「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」 「あ、そういうのいいんで」 「えっ!?」 異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ―― ――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

16世紀のオデュッセイア

尾方佐羽
歴史・時代
【第13章を夏ごろからスタート予定です】世界の海が人と船で結ばれていく16世紀の遥かな旅の物語です。 12章は16世紀後半のフランスが舞台になっています。 ※このお話は史実を参考にしたフィクションです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

【完結】VRMMOでチュートリアルを2回やった生産職のボクは最強になりました

鳥山正人
ファンタジー
フルダイブ型VRMMOゲームの『スペードのクイーン』のオープンベータ版が終わり、正式リリースされる事になったので早速やってみたら、いきなりのサーバーダウン。 だけどボクだけ知らずにそのままチュートリアルをやっていた。 チュートリアルが終わってさぁ冒険の始まり。と思ったらもう一度チュートリアルから開始。 2度目のチュートリアルでも同じようにクリアしたら隠し要素を発見。 そこから怒涛の快進撃で最強になりました。 鍛冶、錬金で主人公がまったり最強になるお話です。 ※この作品は「DADAN WEB小説コンテスト」1次選考通過した【第1章完結】デスペナのないVRMMOで〜をブラッシュアップして、続きの物語を描いた作品です。 その事を理解していただきお読みいただければ幸いです。

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

レベルが上がらない【無駄骨】スキルのせいで両親に殺されかけたむっつりスケベがスキルを奪って世界を救う話。

玉ねぎサーモン
ファンタジー
絶望スキル× 害悪スキル=限界突破のユニークスキル…!? 成長できない主人公と存在するだけで周りを傷つける美少女が出会ったら、激レアユニークスキルに! 故郷を魔王に滅ぼされたむっつりスケベな主人公。 この世界ではおよそ1000人に1人がスキルを覚醒する。 持てるスキルは人によって決まっており、1つから最大5つまで。 主人公のロックは世界最高5つのスキルを持てるため将来を期待されたが、覚醒したのはハズレスキルばかり。レベルアップ時のステータス上昇値が半減する「成長抑制」を覚えたかと思えば、その次には経験値が一切入らなくなる「無駄骨」…。 期待を裏切ったため育ての親に殺されかける。 その後最高レア度のユニークスキル「スキルスナッチ」スキルを覚醒。 仲間と出会いさらに強力なユニークスキルを手に入れて世界最強へ…!? 美少女たちと冒険する主人公は、仇をとり、故郷を取り戻すことができるのか。 この作品はカクヨム・小説家になろう・Youtubeにも掲載しています。

処理中です...