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となり
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◆◆◆
マサトとつきあい始めたのは、中二の夏だった。
中学生だから、つきあうっていってもそんな大層なことをするわけじゃない。
メールや電話をしたり、時々デートをするくらい。
そのデートだって、図書館で勉強とか公園で話しをすることがほとんどで、たまに奮発してボーリングとか、映画に行くことがある程度。
それでも、マサトといられる時間はわたしにとってすごく幸せで大事な時間だった。
マサトは部活が忙しかったから、マサトの部活の休みに合わせて会ってた。
高校受験のことを考え始める時期で、わたしたちは同じ高校を受けようって決めた。
マサトは少しがんばらないと難しいかもってその段階では言ってたけど、結局ちゃんと合格できたんだから、それだけいっぱい勉強してたんだ。
せっかく同じ高校に合格したのに、わたしはその学校にひとりで通ってる。
隣にいるはずだったマサトはもういない。
なんで傍にいてくれないの、マサト。
わたしの隣の席は、ぽっかりと空いている。
その席の子は、先月転校してしまって、それ以来空席のままだ。
だから余計に、この席にマサトがいたら……なんて考えてしまうのかもしれない。
わたしは昔、マサトと隣の席だった時のことを思い出す。
今思えば、なんて幸せな時間だったんだろう。
ちょっと横を向けば、すぐそこにマサトがいたなんて。
そんなことを考えていたら、つんと鼻の奥が痛くなってきて、わたしは慌てて目をぎゅっと閉じた。
◇◇◇
それから、市田さんとは時々メールを交換したり、たまーに電話をしたりといった感じで、やりとりを続けていた。
メールも電話も、最初の時はすごく緊張したけど、こっちからアクションを起こさないと市田さんのほうからはなかなか連絡が来ないから、がんばった。
二年生に進級したくらいから、メールや電話だけじゃなくて、たまに会って話をするようになった。
とはいえおれは部活が忙しかったから、なかなか時間がとれなくて、会えるのはテスト前の部活休みくらいしかなかったんだけど。
市田さんが転校してから一年ちょっと経った十月のある日、ふたりの家のちょうど真ん中あたりにある図書館で待ち合わせをして、一緒に勉強をすることになった。
お互いに二学期の中間テスト前で、おれが「テスト範囲の内容が全くわからん。なにもかもわからなくて、なにがわからないのかもわからん」ってこぼしたもんだから、市田さんが助け船を出してくれたんだ。
市田さんは転校先の学校でも帰宅部だからと言って、いつもおれの予定に合わせてくれていた。
それなのに、夏休みはおれの部活が忙しくて、ほとんど会えないうちに終わってしまった。
そして今日、久しぶりに会った市田さんは、なんと眼鏡をかけていなかった。
すごく驚いた。
驚いたけど、眼鏡をかけていない市田さんも、もちろん可愛いかった。
図書館では向かい合わせに座って勉強してたんだけど、市田さんが横髪を耳にかけるところとか、少し眉間に皺を寄せて考えているところとか、そういうちょっとした仕草にまで見惚れてしまっていたおれは、いつもより更に物覚えが悪かったりした。
それでも市田さんは投げ出さずに教えてくれた。
いやほんとごめん、ってあとで猛省したんだけど。
でも仕方がなかったんだよ。
久しぶりに市田さんに会って、近くで顔を合わせて、一緒に勉強して、それでやっぱりおれはどうしようもなく市田さんのことが好きだって思った。
勉強を終えて、ふたり並んで図書館を出る。
最寄り駅がもうすぐそこってところまで歩いたところで、おれは足を止めた。
市田さんも立ち止まって、どうしたの? という顔でおれを見上げる。
「おれ、市田さんのことが好きだ。おれとつきあってくれない?」
思わず、そう口にしていた。
市田さんが大きな瞳を見開いて、ぱちぱちと瞬きをする。
突然すぎて、なにを言われたのかわかっていない顔だ。
それから少しの間をおいて、ようやく告白されたことに気づいたのか、市田さんの顔がかあっと赤く染まった。
眼鏡をかけていない市田さんを見慣れていないおれは、いつも以上にどきどきしながら返事を待つ。
眼鏡をはずしたからって理由だけじゃなく、市田さんは会う度に可愛くなっているような気がする。
髪形だって、これまでは無造作ヘア(?)だったのに、今日は髪留めで髪をアップにしている。
きっとそのせいだ。
おれの中にずっとあった市田さんへの想いがどんどん膨らんで、今日、ついにあふれ出してしまった。
告白しようだなんて、朝、家を出る時には考えてもいなかったのに。
おれは破裂しそうな心臓の鼓動に耐えながら、市田さんの返事を待っていた。
だから「いいよ」っていう市田さんの返事をもらった時、おれはその場に思わず屈みこんでしまった。
ほっとしすぎて。
そんなおれを見て、市田さんが、くすりと笑った。
つられたおれも、しゃがみこんだまま、市田さんを見上げて笑う。
よかった。
これからも市田さんに会える。
おれの隣に、市田さんがいてくれる。
ローアングルから見上げる市田さんの頬はまだほんのり赤くて、そんな市田さんはやっぱりどうしようもなく可愛かった。
マサトとつきあい始めたのは、中二の夏だった。
中学生だから、つきあうっていってもそんな大層なことをするわけじゃない。
メールや電話をしたり、時々デートをするくらい。
そのデートだって、図書館で勉強とか公園で話しをすることがほとんどで、たまに奮発してボーリングとか、映画に行くことがある程度。
それでも、マサトといられる時間はわたしにとってすごく幸せで大事な時間だった。
マサトは部活が忙しかったから、マサトの部活の休みに合わせて会ってた。
高校受験のことを考え始める時期で、わたしたちは同じ高校を受けようって決めた。
マサトは少しがんばらないと難しいかもってその段階では言ってたけど、結局ちゃんと合格できたんだから、それだけいっぱい勉強してたんだ。
せっかく同じ高校に合格したのに、わたしはその学校にひとりで通ってる。
隣にいるはずだったマサトはもういない。
なんで傍にいてくれないの、マサト。
わたしの隣の席は、ぽっかりと空いている。
その席の子は、先月転校してしまって、それ以来空席のままだ。
だから余計に、この席にマサトがいたら……なんて考えてしまうのかもしれない。
わたしは昔、マサトと隣の席だった時のことを思い出す。
今思えば、なんて幸せな時間だったんだろう。
ちょっと横を向けば、すぐそこにマサトがいたなんて。
そんなことを考えていたら、つんと鼻の奥が痛くなってきて、わたしは慌てて目をぎゅっと閉じた。
◇◇◇
それから、市田さんとは時々メールを交換したり、たまーに電話をしたりといった感じで、やりとりを続けていた。
メールも電話も、最初の時はすごく緊張したけど、こっちからアクションを起こさないと市田さんのほうからはなかなか連絡が来ないから、がんばった。
二年生に進級したくらいから、メールや電話だけじゃなくて、たまに会って話をするようになった。
とはいえおれは部活が忙しかったから、なかなか時間がとれなくて、会えるのはテスト前の部活休みくらいしかなかったんだけど。
市田さんが転校してから一年ちょっと経った十月のある日、ふたりの家のちょうど真ん中あたりにある図書館で待ち合わせをして、一緒に勉強をすることになった。
お互いに二学期の中間テスト前で、おれが「テスト範囲の内容が全くわからん。なにもかもわからなくて、なにがわからないのかもわからん」ってこぼしたもんだから、市田さんが助け船を出してくれたんだ。
市田さんは転校先の学校でも帰宅部だからと言って、いつもおれの予定に合わせてくれていた。
それなのに、夏休みはおれの部活が忙しくて、ほとんど会えないうちに終わってしまった。
そして今日、久しぶりに会った市田さんは、なんと眼鏡をかけていなかった。
すごく驚いた。
驚いたけど、眼鏡をかけていない市田さんも、もちろん可愛いかった。
図書館では向かい合わせに座って勉強してたんだけど、市田さんが横髪を耳にかけるところとか、少し眉間に皺を寄せて考えているところとか、そういうちょっとした仕草にまで見惚れてしまっていたおれは、いつもより更に物覚えが悪かったりした。
それでも市田さんは投げ出さずに教えてくれた。
いやほんとごめん、ってあとで猛省したんだけど。
でも仕方がなかったんだよ。
久しぶりに市田さんに会って、近くで顔を合わせて、一緒に勉強して、それでやっぱりおれはどうしようもなく市田さんのことが好きだって思った。
勉強を終えて、ふたり並んで図書館を出る。
最寄り駅がもうすぐそこってところまで歩いたところで、おれは足を止めた。
市田さんも立ち止まって、どうしたの? という顔でおれを見上げる。
「おれ、市田さんのことが好きだ。おれとつきあってくれない?」
思わず、そう口にしていた。
市田さんが大きな瞳を見開いて、ぱちぱちと瞬きをする。
突然すぎて、なにを言われたのかわかっていない顔だ。
それから少しの間をおいて、ようやく告白されたことに気づいたのか、市田さんの顔がかあっと赤く染まった。
眼鏡をかけていない市田さんを見慣れていないおれは、いつも以上にどきどきしながら返事を待つ。
眼鏡をはずしたからって理由だけじゃなく、市田さんは会う度に可愛くなっているような気がする。
髪形だって、これまでは無造作ヘア(?)だったのに、今日は髪留めで髪をアップにしている。
きっとそのせいだ。
おれの中にずっとあった市田さんへの想いがどんどん膨らんで、今日、ついにあふれ出してしまった。
告白しようだなんて、朝、家を出る時には考えてもいなかったのに。
おれは破裂しそうな心臓の鼓動に耐えながら、市田さんの返事を待っていた。
だから「いいよ」っていう市田さんの返事をもらった時、おれはその場に思わず屈みこんでしまった。
ほっとしすぎて。
そんなおれを見て、市田さんが、くすりと笑った。
つられたおれも、しゃがみこんだまま、市田さんを見上げて笑う。
よかった。
これからも市田さんに会える。
おれの隣に、市田さんがいてくれる。
ローアングルから見上げる市田さんの頬はまだほんのり赤くて、そんな市田さんはやっぱりどうしようもなく可愛かった。
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