1 / 8
序
しおりを挟む
彼のお墓は海の見える高台の上にあった。
一緒に受験して、一緒に合格発表を見に行った。
一緒に合格を喜んで、春から一緒に高校へ通うはずだった。
それなのに。
「ねぇ、なんで死んじゃったの?」
答えてくれるはずなんてないのに、それでも訊かずにはいられない。
ねえ、なんで――。
「あっ」
吹き抜けた風が、わたしの帽子を攫う。
咄嗟に伸ばしたわたしの手は届かず、黒い帽子は空に舞い上がりそのまま波のうねる海の上を飛ばされてゆく。
もう、戻らない。
わたしのいるところから、遠く遠く離れていってしまう。
遠く。
帽子も、彼も。
帽子はあっという間に遠ざかり、空を飛ぶ鳥ほどの黒い点にしか見えなくなる。
わたしは青い空へと必死に目をこらしていたけれど、やがてその姿は空に溶けて消えてしまった。
もうどこにも見えない。
わたしは空へと伸ばした手を、ゆっくりと下ろした。
空のままの自分の手を、ぼうっと見やる。
わたしの手に、つかめるものはない。
つかみたいものは、遠ざかってしまったのだから。
それなのに、わたしはあとを追うこともせず、ただ流されるままに生きている。
それでいいの?
本当にいいの?
何度も何度も自分に問いかけたけど、結論はいつも出ないまま。
心を決められないまま。
空は広すぎて。海も広すぎて。
それなのに、ひとりで生きるには広すぎるこの世界を去る決心もできないまま、わたしはここで見つかるはずもない失ったものを探している。
失くしたものを諦めきれない心がもう一度わたしの目を空へと向けさせるけれど、今更、そこに求めるものがあるはずもなくて、わたしはお墓へと目を戻した。
わたしにはもうなにもない。
戻ってくる答えもない。
彼の声も、笑顔も、ぬくもりも。
もうどこにもありはしない。
そう、もう、なにも――。
わたしは孤独に耐えきれず、自分の身体を抱き占めてその場にしゃがみ込んだ。
一緒に受験して、一緒に合格発表を見に行った。
一緒に合格を喜んで、春から一緒に高校へ通うはずだった。
それなのに。
「ねぇ、なんで死んじゃったの?」
答えてくれるはずなんてないのに、それでも訊かずにはいられない。
ねえ、なんで――。
「あっ」
吹き抜けた風が、わたしの帽子を攫う。
咄嗟に伸ばしたわたしの手は届かず、黒い帽子は空に舞い上がりそのまま波のうねる海の上を飛ばされてゆく。
もう、戻らない。
わたしのいるところから、遠く遠く離れていってしまう。
遠く。
帽子も、彼も。
帽子はあっという間に遠ざかり、空を飛ぶ鳥ほどの黒い点にしか見えなくなる。
わたしは青い空へと必死に目をこらしていたけれど、やがてその姿は空に溶けて消えてしまった。
もうどこにも見えない。
わたしは空へと伸ばした手を、ゆっくりと下ろした。
空のままの自分の手を、ぼうっと見やる。
わたしの手に、つかめるものはない。
つかみたいものは、遠ざかってしまったのだから。
それなのに、わたしはあとを追うこともせず、ただ流されるままに生きている。
それでいいの?
本当にいいの?
何度も何度も自分に問いかけたけど、結論はいつも出ないまま。
心を決められないまま。
空は広すぎて。海も広すぎて。
それなのに、ひとりで生きるには広すぎるこの世界を去る決心もできないまま、わたしはここで見つかるはずもない失ったものを探している。
失くしたものを諦めきれない心がもう一度わたしの目を空へと向けさせるけれど、今更、そこに求めるものがあるはずもなくて、わたしはお墓へと目を戻した。
わたしにはもうなにもない。
戻ってくる答えもない。
彼の声も、笑顔も、ぬくもりも。
もうどこにもありはしない。
そう、もう、なにも――。
わたしは孤独に耐えきれず、自分の身体を抱き占めてその場にしゃがみ込んだ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
あなたには、この程度のこと、だったのかもしれませんが。
ふまさ
恋愛
楽しみにしていた、パーティー。けれどその場は、信じられないほどに凍り付いていた。
でも。
愉快そうに声を上げて笑う者が、一人、いた。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
夫のかつての婚約者が現れて、離縁を求めて来ました──。
Nao*
恋愛
結婚し一年が経った頃……私、エリザベスの元を一人の女性が訪ねて来る。
彼女は夫ダミアンの元婚約者で、ミラージュと名乗った。
そして彼女は戸惑う私に対し、夫と別れるよう要求する。
この事を夫に話せば、彼女とはもう終わって居る……俺の妻はこの先もお前だけだと言ってくれるが、私の心は大きく乱れたままだった。
その後、この件で自身の身を案じた私は護衛を付ける事にするが……これによって夫と彼女、それぞれの思いを知る事となり──?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です
渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。
愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。
そんな生活に耐えかねたマーガレットは…
結末は見方によって色々系だと思います。
なろうにも同じものを掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~
矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。
隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。
周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。
※設定はゆるいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる