残響鎮魂歌(レクイエム)

葉羽

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9章

音の迷宮

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朔也の研究室に到着した葉羽は、待合室で蒼白な顔をした朔也と対面した。星良は病院に搬送されたが、意識不明の重体だという。

「星良さんが…一体どうして…」葉羽は絞り出すように尋ねた。

朔也は深くため息をつき、重々しい口調で言った。「おそらく、黒曜さんと同じように…時間音響学の影響で…」

葉羽は愕然とした。彼の予想は的中していた。星良は、50年前の事件の記憶と共鳴し、精神を崩壊させられたのだ。そして、犯人は間違いなく、この男――雲母朔也だ。

「朔也先生、あなたは…一体なぜ…」葉羽は朔也を問い詰めた。彼の声は怒りと悲しみで震えていた。

朔也は静かに顔を上げ、葉羽を見つめた。彼の瞳には、狂気的光芒が宿っていた。

「なぜ?復讐のためさ!50年前、私の姉を殺した黒曜の父親、そしてその関係者たちに復讐するために!」朔也は声を張り上げた。「私は長年、この時を待っていた。時間音響学を研究し、復讐のための完璧な計画を練り上げてきたんだ!」

朔也の告白に、葉羽は言葉を失った。彼の目の前には、復讐に狂った男の姿があった。

「しかし、なぜ星良さんまで…」葉羽は絞り出すように尋ねた。

「彼女は…邪魔だったんだよ。黒曜に接触し、事件のことを調べ始めていた。私の計画の邪魔になる存在だった」朔也は冷酷な表情で言った。

葉羽は怒りで体が震えた。しかし、今は怒っている場合ではない。星良を救い、朔也の狂気を止めなければならない。

「朔也先生、もうこれ以上犠牲者を出さないでください!あなた自身も、苦しんでいるはずです!」葉羽は必死に訴えた。

しかし、朔也は耳を貸さない。「もう遅い。全ては決まっている。私の復讐は、必ず完遂される」

朔也は立ち上がり、奥の研究室へと消えていった。葉羽は後を追おうとしたが、その時、研究室のドアが自動的にロックされた。

「くそっ!」葉羽はドアを叩き、叫ぶ。「開けてください!朔也先生!」

しかし、ドアはびくともしない。葉羽は焦燥感に駆られ、周囲を見渡した。研究室の壁には、複雑な配線が張り巡らされている。そして、その配線は、全て一つの装置に繋がっている。それは、時間音響学を利用した音響発生装置だった。

葉羽は理解した。この研究室自体が、巨大な音響装置になっているのだ。朔也は、この装置を使って、星良に50年前の記憶を聞かせ、精神を崩壊させたのだ。そして、今、彼は次のターゲットを狙っている。

「一体、誰を…?」葉羽は考えを巡らせる。朔也の復讐の対象は、50年前の事件の関係者。そして、まだ生きている人物。それは…

その時、葉羽は閃いた。朔也の次のターゲットは、自分自身だ。朔也は、葉羽が50年前の事件の真相に近づいていることを知っており、彼を排除しようとしているのだ。

葉羽は背筋に冷たいものを感じた。彼は音の迷宮に閉じ込められた。そして、その迷宮の出口は、朔也の狂気を止めることだけが、唯一の道だった。
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