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4章

量子の蝶が舞う夜

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現実世界と「影の世界」の境界が曖昧になった瞬間、神藤葉羽の意識は深い闇の中へと沈んでいった。

「ここが...僕の内面?」

葉羽は、無限に広がる漆黒の空間の中に立っていた。周囲には、彼の記憶の断片が光の粒子となって漂っている。

突如、闇の中から声が響いた。

「お前は本当に全てを理解したつもりか?」

葉羽は身構えた。「誰だ?」

闇が渦を巻き、葉羽の姿をした影が現れる。しかし、その目は冷酷な光を湛えていた。

「私はお前だ。お前の中の闇...いや、本当の姿と言ってもいい」

影の葉羽が不敵な笑みを浮かべる。

「力を手に入れたんだろう?なら使えばいい。世界を思いのままに」

葉羽は首を振った。「違う。僕は岡部を救うために...」

「嘘をつくな」影が鋭く言い放つ。「本当は力が欲しかったんだろう?誰よりも賢く、誰よりも優れていると証明したかったんだ」

葉羽は言葉に詰まる。心の奥底で、その言葉に共鳴する自分がいることに気づいていた。

一方、現実世界では...

望月彩由美は、意識を失った葉羽の体を必死に揺さぶっていた。

「葉羽くん!しっかりして!」

彼女の声は、歪んだ研究所の壁に木霊する。周囲の空間が、まるで生き物のように蠢いている。

彩由美は涙をぬぐいながら立ち上がった。

「待ってて。必ず助けるから」

彼女は震える手で、葉羽が落とした古い日記を拾い上げる。ページをめくると、複雑な数式と奇妙な図形が描かれていた。

「これが...闇の方程式?」

彩由美は数学が得意ではなかった。しかし、大切な人を救うという思いが、彼女に勇気を与える。

「頑張るわ。葉羽くんのために」

彼女は必死に方程式を解読しようと試みる。するとどこからともなく、青い蝶が現れた。蝶は彩由美の周りを舞い、その羽から青い光の粒子が放たれる。

不思議なことに、光の粒子が方程式の上を這うように動き、少しずつ意味を成していく。

「まるで...導いてくれてるみたい」

彩由美は蝶の助けを借りながら、必死に方程式を紐解いていく。

その間、葉羽の内面では激しい戦いが繰り広げられていた。

「お前には無理だ。この力を使いこなせるのは、本当の天才だけだ」影の葉羽が挑発する。

葉羽は苦しみながらも反論する。「違う。本当の天才は...力を正しく使える者だ」

「ハッ!きれいごとを」

影が葉羽に襲いかかる。二人の戦いは、意識の海の中で繰り広げられる。光と闇がぶつかり合い、記憶の欠片が飛び散る。

「僕は...負けない」葉羽は歯を食いしばる。「大切な人たちのために...彩由美のために!」

その瞬間、葉羽の意識の中に、かすかな光が差し込んだ。

現実世界の彩由美が叫ぶ。「わかったわ!これが解答!」

彼女の声が、歪んだ空間を震わせる。青い蝶が、まるで喜ぶかのように舞い上がる。

「葉羽くん!私の声が聞こえる?帰ってきて!」

彩由美の呼びかけが、葉羽の意識に届く。彼は、闇の中に光る一筋の道を見つける。

「彩由美...」

葉羽は、その光に向かって手を伸ばした。

影の葉羽が叫ぶ。「待て!力を捨てるのか?」

「違う」葉羽は微笑む。「本当の力を手に入れるんだ」

葉羽の指が光に触れた瞬間、まばゆい閃光が空間を包み込む。

現実世界で、葉羽の瞼がゆっくりと開く。

「彩由美...」

彩由美は喜びの涙を流しながら、葉羽を抱きしめた。

「よかった...本当によかった」

二人を包み込むように、無数の青い蝶が舞い始める。その羽が描く軌跡が、歪んだ空間を少しずつ元の姿に戻していく。

葉羽は、静かに言った。「帰ろう。そして、岡部を救い出すんだ」

彩由美はコクリと頷いた。

二人は手を取り合い、蝶の群れに導かれるように歩み出す。しかし、その行く手には、まだ見ぬ危険が潜んでいた。最後の試練が、彼らを待ち受けている...
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