月影館の呪い

1章

招待状

春の柔らかい日差しが差し込む午後、神藤葉羽は自宅の豪邸の書斎で、好きな推理小説を読みふけっていた。彼の周りには、無数の本が並び、古びたページをめくる音だけが静寂を破る。葉羽は、名探偵が複雑な謎を解き明かす瞬間に心を躍らせるのが何よりも好きだった。

「また新しい作品が出たのか……」彼は、手元の本を閉じ、窓の外を見た。青空の下、鳥がさえずり、風が優しく吹き抜けている。そんな穏やかな日常を、彼は心から楽しんでいた。

その時、インターホンの音が響く。葉羽は本を置き、玄関へと向かう。ドアを開けると、そこには幼馴染の望月彩由美（もちづき あゆみ）が立っていた。彼女は、可愛らしい笑顔を浮かべ、手には封筒を持っている。

「葉羽くん！」と、彼女は明るく声をかけた。「これ、見てほしいの！」

葉羽は心の中でドキッとした。彩由美の存在は、彼にとって特別なものであり、彼女の笑顔はいつも心を温かくしてくれる。しかし、恋愛に奥手な彼は、自分の気持ちをうまく表現できずにいた。

「何かあったの？」葉羽は少し緊張しながら訊ねる。

彩由美は、興奮した様子で封筒を差し出した。「私の親戚が管理している『月影館』からの招待状だよ！最近、館で不気味なことが起きているみたいで、私たちで調査しに行こうって思って！」

「月影館……」葉羽はその名前を聞いて、思わず眉をひそめた。月影館は、村の外れにある古びた洋館で、過去に失踪事件があったことで有名だった。彼はその話を推理小説の中で読んだことがあり、興味を持っていたが、実際に行くとなると話は別だ。

「大丈夫、私がいるから！」彩由美は明るく言ったが、その目には不安が漂っているのを葉羽は見逃さなかった。彼女がその場所に行きたがっている理由は、単に冒険心からだけではないのだろう。

葉羽は考え込む。「でも、そんな場所に行くのは……」

「お願い、葉羽くん。私、一人じゃ不安なの。葉羽くんがいてくれたら、心強いよ！」彼女の目が輝き、彼の心に何かが響いた。

「わかった、行こう。」葉羽は決意し、彼女の期待に応えることにした。彼女の笑顔が自分に向けられると、自然と心が軽くなる。彼は、彼女を守るためにも、月影館の謎を解くことを決意する。

数日後、葉羽は彩由美と共に月影館へ向かう準備を整えた。彼は持ち物を整理しながら、これから待ち受ける不気味な出来事に思いを馳せていた。果たして、彼らを待ち受ける運命はどのようなものなのか。胸が高鳴ると同時に、恐怖も感じていた。

「一緒に行けるなんて嬉しい！」彩由美の声が、彼の不安を少し和らげた。二人とも、期待と緊張の入り混じった気持ちを抱えながら、月影館へと向かう準備を進めていた。

そして、出発の日。彼らは車に乗り込み、村の外れにある月影館へと向かう。道中、葉羽は彩由美と様々な話をし、少しずつ緊張が和らいでいくのを感じた。

「葉羽くん、月影館に着いたら、どんなことを調べるつもり？」彩由美が尋ねる。

「まずは、館の中を探検して、過去の事件について調べるつもりだ。日記や資料があれば、それが手がかりになるかもしれない。」葉羽は自信を持って答えた。

「すごいね！さすが葉羽くんだ！」彩由美の声には、彼への信頼と期待が込められていた。その言葉が、葉羽の心をさらに奮い立たせる。

やがて、二人は月影館に到着した。大きな門をくぐると、目の前に現れたのは、古びた洋館。風に揺れる木々の間から、館が不気味に佇んでいる。葉羽はその光景に息をのんだ。

「これが、月影館……」彼はつぶやいた。

「うん、ここが私たちの冒険の舞台だよ。」彩由美も同じように見つめ、心に何かを感じているようだった。

葉羽は一歩踏み出し、館の扉を開ける。古びた木の扉がきしむ音が、静寂を破る。彼らの冒険が、今、始まろうとしていた。