時の呪縛

3章

過去の再現

光が収まると、葉羽と彩由美の目の前には、驚くべき光景が広がっていた。彼らは、まるで時空を超えて過去に引き戻されたかのように、時計塔の前に立つ村人たちの姿を目撃していた。笑い声が響き、陽射しが彼らの顔を照らしている。そこには、失踪した村人たちが生き生きとした表情で集まっていた。

「これ、本当に過去なの？」彩由美は小声でつぶやいた。彼女の目には驚きと恐怖が混じっていた。

「分からない…でも、彼らは確かにここにいる。」葉羽は、一歩前に進み出た。彼は、周囲の様子を観察しながら、失踪者たちの姿を目の当たりにしている。彼らは、時計塔がまだ機能している頃の穏やかな日常を送っているようだった。

「見て、あの人たち。楽しそうにしている。」葉羽が指差すと、彩由美はその視線を追った。村人たちの中には、彼らが見た写真に写っていた顔もあった。笑顔で手を振る姿が、まるで彼らを招いているかのようだった。

「でも、どうしてこんな光景が見えるの？」彩由美は不安げに言った。「私たちはただ、時計塔の中にいたはずなのに…」

「おそらく、時計の力で過去の記憶が再現されているんだ。」葉羽は考え込む。「失踪事件の真相を探るための手がかりがここにあるはずだ。」

彼は、再現された光景に近づき、村人たちの動きを観察し始めた。彼らは楽しそうに話し、時折笑い声を上げていた。しかし、葉羽はその表情の中に、どこか不穏な影を感じ取っていた。楽しげな雰囲気の裏には、彼らが抱える恐怖が潜んでいるのではないかと。

「私たちも、何かを聞いてみよう。」葉羽は決意を固め、周囲を見渡した。彼は一人の村人に近づき、その様子を観察することにした。村人は若い女性で、彼女は何かを手に持ちながら、他の人たちと楽しそうに話していた。

「お願い、教えてくれない？」葉羽が思わず声をかけると、村人は彼に気づき、微笑む。「あなたも来たの？今日は特別な日なの。」

「特別な日？」葉羽は興味を引かれた。彼女の目には生気が満ちていたが、同時に何かを隠しているようにも見えた。

「そう、時計の儀式が行われる日なの。この村にとって、時計はすべてなんだから。」彼女は言葉を続けた。葉羽はその言葉に引き寄せられるように、話を聞く。

「儀式？それはどういうものなの？」葉羽が尋ねると、村人は少し戸惑った様子で答えた。「私たちの心を一つにするためのもの。時計が正しく動いている限り、この村は繁栄するの。だけど、最近は…」

その瞬間、彼女の表情が曇った。葉羽はその変化に敏感に反応し、何か不穏な空気を感じ取った。「最近は、どうしたの？」

「最近、失踪する人が増えているの。特に、儀式の日の前に…」彼女の声が小さくなる。葉羽はその言葉に衝撃を受けた。失踪事件が儀式と関係しているのか？

「その儀式が、何か影響を与えているのかもしれない。」葉羽は思った。

「気をつけて。時計が止まってしまったら、私たちも…」村人はその言葉を言いかけたが、突然、周囲の空気が変わった。村人たちの笑顔が消え、彼女の表情には恐怖が浮かんだ。

「何が起こるの？」葉羽は不安になる。村人は急に周りを見回し、何かに怯えた様子を見せた。「早く、隠れて！」

その瞬間、空間が揺らぎ、周囲の光景が崩れ始めた。葉羽は慌てて彩由美の方を振り向き、彼女も驚いた表情で彼を見つめていた。次の瞬間、村人たちの姿が消え、周囲は暗闇に包まれた。

「葉羽！」彩由美が叫ぶ。その声が響く中、葉羽は動けなくなった。彼の心に恐怖が広がり、彼は何が起こるのか分からなかった。

突然、目の前に現れたのは、失踪者たちの影だった。彼らの顔には絶望が浮かび、周囲を見回しながら、何かを叫んでいる。

「助けて！私たちを解放して！」彼らの声は、葉羽の耳に響いた。

その瞬間、時計の針が一気に動き出し、周囲がまばゆい光に包まれた。葉羽は目を閉じ、何かが起こることを予感した。彼の心には、過去の真実が待ち受けていることを確信していた。