時の呪縛

1章

不気味な村

神藤葉羽（しんどう はね）は、いつもと違う風景に心を躍らせていた。彼は17歳の天才高校生で、学業においては常にトップの成績を収めている。推理小説を愛し、暇さえあれば本を読んでいる彼は、普段の生活から離れ、新しい冒険に胸を膨らませていた。

「ここが、あの時計塔のある村なんだね」彼は、車の窓から外を眺めながらつぶやいた。周囲には、深い緑に囲まれた山々と、ところどころに見える古びた家々が広がっている。村の入り口に立つ看板には「時の村」と書かれていたが、どこか不気味な雰囲気が漂っている。

隣に座る幼馴染の望月彩由美（もちづき あゆみ）が、少し緊張した面持ちで葉羽を見上げた。「本当に来ちゃったね、葉羽。この村、失踪事件が多いって聞いたけど…」

「大丈夫だよ、彩由美。俺たちはただの観光客だから。興味本位で来たんだし、何も問題ないさ。」葉羽は笑顔を見せたが、その心の中には、村の噂がどれほど恐ろしいものであるかを知っている自分がいた。彼は、失踪事件の詳細を知りたくてたまらなかった。

車が村の中心に近づくと、周囲の風景は一層陰鬱さを増してきた。時計塔が村の中央にそびえ立ち、その姿はまるで過去の影を今に引きずり込むかのようだった。塔の周囲には、朽ちかけた家々が並び、窓はすべて閉じられ、まるで村人たちが今にも消え去ろうとしているかのように見えた。

「見て、あの時計塔…」彩由美が指を差した。塔の針は止まっており、まるで時間がそこで凍りついてしまったかのようだ。彼女の声には、どこか恐怖が滲んでいた。葉羽もその光景に心を揺さぶられる。

「行こう、近くで見てみよう。」葉羽は意を決して、車から降りた。彩由美も続いて降り、二人は時計塔に向かって歩き始めた。

塔の近くに立つと、葉羽はその存在感に圧倒された。石造りの壁は苔に覆われ、長い年月が経過したことを物語っていた。塔の入り口には、開かれた扉があり、内部の暗闇が彼らを誘っている。葉羽は一瞬ためらったが、好奇心がそれを上回った。

「この中に入ってみようか？」葉羽は彩由美に提案した。彼女は少し戸惑った様子で、「でも、あまり無理はしない方がいいと思う…」と返した。

「大丈夫、何か面白いことがあるかもしれない。」葉羽は軽やかな口調で答え、扉を押し開けた。

扉がギシギシと音を立てて開くと、薄暗い内部が姿を現した。中は静まり返っており、まるで時間が止まったかのような空間だった。ほのかに漂う湿気と古い木の匂いが鼻をつく。葉羽は懐中電灯を取り出し、光を前方に照らした。

「うわ、すごく暗いね…」彩由美がつぶやく。

「でも、何かが待っている気がする。」葉羽はそう言って、足を踏み入れた。彼の心には、推理小説の主人公になったような興奮が広がっていた。しかし、その興奮は次第に不安へと変わっていくのを感じた。

時計塔の内部には、古い時計の機構や、埃をかぶった本、さらには失踪した村人たちの写真が散乱していた。葉羽はそれらを見て回りながら、何か手がかりを探している自分がいた。

「この村の人たちは、どうしてこんなに恐れているんだろう…」彩由美が呟く。「失踪事件があったから、みんなここに近づけないのかも。」

「でも、だからこそ真実を知りたくなるよね。」葉羽は一瞬立ち止まり、彼女の目を見つめた。「俺たちがここに来たのは、ただの好奇心だけじゃない。何か大きな謎が隠されているはずだ。」

その瞬間、時計塔の奥から不気味な音が響いた。ギギギ…という音が、まるで誰かが呼んでいるかのように響き渡る。

「今の音、聞こえた？」彩由美の声が震えている。

「…ああ、聞こえた。」葉羽も緊張しながら答えた。その音は、彼らの心に恐怖を植え付けるような不気味さを持っていた。

時計の針が動き出す瞬間が近づいているのだろうか。二人はその音の正体を確かめるべく、さらに奥へと進むことにした。彼らの心には、運命の悪戯が待ち受けていることを知らずに。

突然、時計塔の内部が暗くなり、葉羽の懐中電灯が消えた。周囲は静まり返り、ただ不気味な音だけが響いている。彼は、何かが近づいている気配を感じた。