暗闇の中の囁き

5章

解読の鍵

神藤葉羽と望月彩由美は、必死に館の出口を目指して走り続けた。心臓が高鳴り、息が切れ、周囲の暗闇が彼らを包み込む。後ろからは、あの不気味な囁き声が追いかけてくるように聞こえ、恐怖が彼をさらに急かせた。

「早く、早く！」葉羽は彩由美の手を強く握りしめながら叫んだ。彼の心の中には、逃げることしか考えられない焦りが渦巻いていた。

ようやく、二人は廊下の終わりに辿り着き、ドアを開けて外に飛び出した。外の空気は冷たく、彼らの体を包み込むと同時に、少しだけ安堵感を与えた。しかし、恐怖はまだ消えていない。振り返ると、洋館の窓から見える影が、まるで彼らを嘲笑うかのように揺れていた。

「もう、ここには戻りたくない……」彩由美が言う。彼女の声にはまだ震えが残っていた。

「でも、あの手記には重要な情報があるはずなんだ。」葉羽は決意を持って言った。「あれを解読しない限り、私たちはこの恐怖から解放されない。」

「でも、どうやって……？」彩由美は不安げに尋ねる。

「一度、手記を持って、別の場所で考えよう。」葉羽は言った。彼は自分の家に帰り、そこでじっくりと手記を読み解くことを決めた。

数分後、彼らは自宅に戻った。葉羽は急いで書斎に向かい、手記を取り出す。彩由美も後ろについてきた。彼はそのページをめくり、黒崎一郎の言葉を目にした。

「この館には、囁く影がいる。それは私の過去の罪が生み出した存在だ。」葉羽はその言葉を繰り返した。彼の心の中で何かが弾けるような感覚がした。

「過去の罪……？」彩由美が問いかける。

「そう。黒崎は、自分が何か悪いことをしたと感じていたんだ。だから、その影が生まれたのかもしれない。」葉羽は考え込む。「この影を解決するためには、彼の過去を知る必要がある。」

彼は手記をさらに読み進めた。ページには、黒崎が恐れていた出来事や、彼が関わった人々の名前が書かれていた。その中には、彼の家族や友人、そして一人の女性の名前があった。「美咲」と呼ばれるその女性は、黒崎にとって特別な存在だったようだ。

「美咲……彼女が何か関係しているのかもしれない。」葉羽は呟いた。

「彼女はどうなったの？」彩由美が尋ねる。

「手記には詳しく書かれていないけど、彼女は黒崎の作品のモデルになっていたみたい。」葉羽はページをめくりながら考えた。「彼は彼女のことを深く愛していたのかもしれない。でも、何かが起こり、彼女は去ってしまった。それが彼の心に影を落としたんだ。」

その瞬間、葉羽は思いついた。彼は黒崎の過去を探るために、彼女の行方を追う必要がある。彼は彩由美に向き直り、決意を表明した。「彩由美、私たちは美咲のことを調べに行こう。彼女の手がかりが見つかれば、黒崎の影を解決できるかもしれない。」

「でも、どこから始めればいいの？」彩由美は少し不安げに言った。

「まずは、黒崎の家族について調べる必要がある。彼の親族に連絡を取って、彼女のことを知っている人がいるかもしれない。」葉羽は自分の考えを整理しながら言った。

「じゃあ、どうするの？」彩由美が尋ねた。

「まず、ネットで調べられる情報を集めよう。黒崎の家族や友人がどこにいるのか、誰が彼女のことを知っているのかを探ってみる。」葉羽は意気揚々と答えた。

二人はパソコンの前に座り、情報を集め始めた。黒崎一郎のことを調べると、彼の作品や受賞歴が次々と出てくる。だが、肝心の美咲に関する情報はほとんど見つからなかった。

「やっぱり、彼女のことは誰も語りたくないのかな……」葉羽は言った。

「もしかしたら、彼女は何か大きな秘密を抱えていたのかもしれないね。」彩由美が言った。

葉羽はその言葉に考え込む。黒崎が抱えていた恐怖や罪、そして美咲との関係が、影の正体に繋がるのではないかと思った。彼は手記を再度読み直し、何か見落としがないか探り始めた。

「この手記には、彼女に関する手がかりが隠れているかも……」葉羽はページをめくりながら、注意深く言った。手記の中で、黒崎は時折「美咲」と書いた後に特殊な記号を使っていることに気がついた。

「この記号、何だろう？」葉羽は目を細めて記号を見つめた。それは、特定の場所を示すための暗号のように感じられた。

「もしかして、これが美咲の居場所への手がかりなのかもしれない！」葉羽は目を輝かせた。

「本当？それなら、急いでその場所を探しに行こう！」彩由美も興奮した様子で言った。

葉羽は手記をしっかりと握りしめ、彼女の手を引いて立ち上がった。「行こう、彩由美！美咲の手がかりを見つけて、黒崎の影を解決するんだ！」

彼らは新たな決意を胸に秘め、再び洋館へと向かう準備を始めた。恐怖が待ち受けているかもしれないが、彼らは真実を知りたい一心で進むことを選んだ。黒崎一郎の過去と美咲の秘密が、彼らの運命を大きく揺るがすことになるとは、まだ誰も知る由もなかった。