暗闇の中の囁き

４章

影の登場

神藤葉羽と望月彩由美は、恐怖に駆られながら廊下を駆け抜け、ようやく洋館の外にたどり着いた。外の空気はひんやりとしており、心地よさを感じる暇もなく、彼らはその場から逃げ出したい一心だった。振り返ることもできず、ただ前へと進む。

「葉羽、どうしよう……」彩由美が不安げに声をあげる。彼女の目は驚きと恐怖に満ちていた。彼女の手は冷たく、葉羽はその感触を感じながら、彼女をしっかりと引き寄せた。

「一旦、外に出よう。ここは危険だ。」葉羽は急いで言った。彼は自分の心臓が早鐘のように鳴っているのを感じながら、彼女を先導する。

二人は庭を抜け、洋館の外に出ると、ほっとしたように息をついた。外の明るい光が、彼らの恐怖を少しだけ和らげてくれた。しかし、その安堵は長続きしなかった。振り返ると、洋館の窓から、何かが彼らをじっと見つめているような気配を感じた。

「何か……見られてる気がする。」葉羽は言った。彼の言葉に彩由美はさらに不安を募らせた。

「もう一度中に戻るの？」彼女は震える声で尋ねる。

「……いや、もう戻りたくない。」葉羽は決意を持って言った。「でも、あの手記には何か大事なことが隠されているはずだ。あれを解読しない限り、私たちはこの館から逃げられない気がする。」

「それじゃあ、どうするの？」彩由美は不安そうに彼を見つめる。葉羽は彼女の目を見つめ返し、心の中に湧き上がる気持ちを抑え込んだ。

「もう一度、手記を調べる必要がある。今度は慎重に行こう。」葉羽はそう決意し、再び洋館の中へと足を踏み入れた。

彼らは再び廊下を進む。恐怖に満ちた静寂が周囲を包む中、二人は互いに手を握り合いながら進んだ。先ほどの恐怖が二人の心に影を落としていたが、葉羽の決意は揺るがなかった。彼は彩由美を守りたいという気持ちが強くなっていた。

「さっきの部屋に戻ろう。」葉羽は言った。静まり返った廊下を進むと、再びあの書斎のドアが目の前に現れた。彼はドアを開け、部屋の中に足を踏み入れる。

「ここだ……」彼は手記を探し始めた。だが、心のどこかで、先ほどの恐怖が再び蘇るのを感じていた。手記のページをめくりながら、彼は黒崎一郎が語った恐怖の正体を知りたかった。

「何か見つけた？」彩由美が尋ねる。

「まだ……」葉羽は目を凝らしていた。その瞬間、部屋の空気が変わった。まるで何かが彼らを見つめているかのような不気味な感覚が広がる。彼は背筋が寒くなるのを感じ、振り返った。

「もう一度、あの影を見た気がする……」彼は小声で言った。彩由美は彼を見つめ、恐怖に満ちた表情で頷いた。

「私も、感じる……」彼女の声が震えている。葉羽は心臓が高鳴るのを感じながら、手記を再び手に取った。だが、その時、突然、部屋の照明がちらつき始めた。

「何だ……？」葉羽は不安に思い、周囲を見渡した。すると、薄暗い隅から、再びあの影が現れた。今度はよりはっきりとした形を持ち、彼らの方に近づいてくる。まるで人間の形をした影が、ゆっくりと動いているようだった。

「葉羽、あれ……！」彩由美が声をあげた。その瞬間、彼の心臓は凍りついた。影の中から、冷たい声が響いてきた。「助けて……私を救って……」

葉羽は恐怖のあまり、思わず後ずさりした。「何だ、これは……」

影はさらに近づいてきた。葉羽は、目の前の影が誰なのか、何を求めているのかを理解できないまま、ただ恐怖に押しつぶされそうになった。彩由美は彼の手をしっかりと握り、震える声で言った。「逃げよう、葉羽！」

「でも、あの影は……」葉羽は言葉を続けようとしたが、その瞬間、影が彼の目の前に現れた。

「助けて……」その声は、誰かの過去からの叫びのように響いた。葉羽は、影がまるで彼の心の奥底に潜む何かを引きずり出そうとしているかのように感じた。

「行こう！」葉羽は彩由美の手を引き、再び廊下へと飛び出した。二人は必死に走り、影の声が背後から追いかけてくるように感じた。彼らは恐怖の中で走り続けたが、館の暗闇が彼らを飲み込もうとしているようだった。

「早く、外に出よう！」葉羽は叫びながら、急いでドアに向かう。廊下の先には、出口が見えていた。だが、その瞬間、影が彼らの目の前に立ちはだかった。

「助けて……」その声は、葉羽の心に深く響き、彼の動きを止めた。彼はその影が何を求めているのか、何が彼らを待ち受けているのかを知りたかった。

「葉羽、行こう！」彩由美の声が彼を現実に引き戻した。彼は一瞬の迷いを振り切り、彩由美の手を引いて走り出した。影の声が耳元で囁いているように感じながら、彼は必死に出口を目指した。

「助けて……」その声が、彼の背後で響き続けていた。葉羽は、今はただ逃げることしかできなかった。彼の心の奥に潜む恐怖が、彼を追い詰めていた。果たして、彼はこの館の恐怖から逃れることができるのか？それとも、影の中に飲み込まれてしまうのか？彼は自分の運命を決定するために、全力で駆け抜けていった。